見出し画像

吉田秋生『詩歌川百景』1~4巻 感想メモ


『海街diary』で吉田秋生作品にデビューしたので、同じ作中世界を共有している派生作であり、現在も連載中の最新作『詩歌川百景』(うたがわ ひゃっけい)の刊行されている4巻までを読みました。




1巻

24/12/4
『海街diary』に続き、現在連載中のこちらを読み始めた。

前作が鎌倉という実在する歴史的にも有名な地方の街を舞台にしていたのに対して、こちらは山形北部の山間にある架空の温泉街・河鹿沢を舞台としている。

今作には、『海街』のすずのような、そこに新たに引っ越してくる者を主人公にはせず、この町で育って今年で新成人となる湯守見習いの飯田和樹が語り手のため、前作以上に地味というか地に足のついた日常感のある物語の滑り出しで、分かりやすい面白さや先の気になり具合は薄い。初っ端から町の人々が大量に登場し、早くも人物の相関図を覚えられていない。

今作の「ヒロイン」となるであろう高3の小川妙の存在・造形もさることながら、今のところ最も気になっているのは、和樹の同級生であり、めちゃくちゃ優秀なのに大学進学せずに地元の役場に就職した林田類くん。彼が4話p.174でこぼした言葉「都合のいい美しい物語だけを発信するのがおれの仕事だ」「ザ・田舎の不都合な真実には一切触れない」は、明らかにこの “物語” そのものへの皮肉な自己言及として読めてしまう。酷い悪意や謎めいた哀しい死など、美しいだけではない事柄がこの1巻でも幾つか描写されてはいるものの、基本的には「都合のいい美しい物語」のほうへ向かおうとしているこの作品が、この後どういった展開を見せるのか、期待している。

山間の温泉宿が舞台の作品といえばアニメ『花咲くいろは』がまず思い付くが、あれも主人公は「都会」から引っ越してきた移住者だった。和樹も生まれは都会ではあるようだが、物語開始時点ですでにこの町で長く暮らしている点は大きな違いだろう。
妙との異性愛ストーリーがおそらくこのあと進むのだろうけど、類の妹(中3)から和樹は好意を持たれているっぽいので、三角関係も期待できる。



2巻

1巻よりキャラが脳内で整理されてけっこう読みやすくなった。

三角関係が多すぎる! どいつもこいつも……
幼馴染の男子3人組が全員、2個下の妙を好きなのウケる。林田類が気持ちを知られたくない “T” の正体、そりゃそうだろ。逆にそうじゃない可能性を考えてなかった。

でも、そんな妙がなんやかんやで和樹を慕っているとすれば、類の妹・莉子からも想いを寄せられている和樹こそが真にモテていることになる。

果ては上世代の湯守の師匠・繁さんまでがBSS要員に駆り出されてて笑う。我慢してきた年月が長すぎるんだって!!

新キャラ・麻椰子さんかなり良い。
妙の母と叔母、そして原(男性)と、明確に嫌な奴が決まっているのが残酷な世界観だ。

和樹が弟・守と2人で鎌倉の姉に会いにいくハナシ見たいな。



3巻

前巻の感想を撤回します。
そ、そういうことか〜〜〜!! 林田類のことを全然分かってなかった……

和樹と守の鎌倉墓参り旅行があっさり省かれてて涙

類のといい、「ポリティカル・コレクトネス」の多用といい、児童や大人のケアの主題といい、ここに来て非常に現代的なマンガになってきた。2020年代に連載されている漫画らしくなってきた。

なぜ本作が、架空の谷間の温泉街というあまりにもコテコテ過ぎる舞台設定なのか、その理由が分かった気がした。田舎の閉鎖的な共同体を舞台に、真剣に誠実に、現代のリベラルな話をしようとしている。

犯人の光司さんの扱いも、『海街diary』で見られたような、この著者らしいものだった。悪意を自覚しているだけマシ、だという着地。

そして、10年前の遭難客の話題がここで再度登場して、『海街』の懐かしいキャラ達によって進展するとは! シンプルに、プロの登山家の仕事ぶりがめちゃくちゃ格好良い。また、身近な山なのにプロとの違いを見せつけられて愕然とする和樹の内心もすごく良かった。ミステリ的な建て付けに対して、あくまで人々の営みに敬意を払いながら、気持ちを尊重しながら向き合っていくさまがすばらしい。

3巻にして、ようやく本気を出してきたな、この作品でやろうとしていることが見えてきた、という想い。本当にすごい。



4巻

色々あった4巻。
まさかこんなドラマチックな展開にするとは……
ひとつ気になるのは、最後の妙の描写。Pieta 聖母マリアの慈悲になぞらえるのは如何なものか。それは人を勝手に神聖視して客体化するミソジニー仕草ではないのか。妙が和樹に対して優しすぎる。

一度も顔は登場させない「お姉ちゃん」=前作主人公の存在をこうして使ってくるとは憎いねぇ。

和樹がこれ以上誰も山で死んでほしくないと叫ぶシーン良かった。




個人的にはスロースタートな物語でしたが、3巻あたりからグッと引き込まれて、『海街diary』の次にいまこれを描いている意図が掴めたような気がしています。続刊にも期待したいです。


こちらの ↑ 方が作られている相関図めっちゃ良いです! つくづく登場人物多すぎだろ!と笑っちゃいました。

「ピエタ」への違和感にも同意です。






いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集