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『世界でいちばんNGな恋』(2007)プレイ感想


プレイ中のメモ・感想はこちら ↓ 

これらを踏まえての、総評を書きます。





総プレイ時間:38時間30分
実プレイ日数:15日


各パートの評価を(批評空間基準で)書くと

共通パート:88点
夏夜ルート:84点
姫緒ルート:92点
麻実ルート:88点
美都子ルート:55点
おまけ(3P):93点

といったところでしょうか。美都子√にさえ目をつむれば、ほぼずっと面白い、めちゃくちゃ自分好みの作品でした。

なので、何よりもまず、美都子√が合わなかった理由から説明すべきでしょう。

美都子

まぁ率直にいえば「なんか知らんけどどうしても理と美都子が結ばれるのが受け付けられなかった」に尽きてしまうのですが……

じぶんが「大人と子どもの恋愛関係」に拒絶反応を示すのはなぜだろうと考えると、なかなか難しいものです。

もちろん、社会規範/倫理として、子どもを守るべき大人が、その権力差を利用して子どもを恋愛的に所有する、というのは悪いことだとされており、その規範を私も内面化している(あるいは、内面化しているかのように振る舞っている)、と答えることはできます。

しかし、そういう「大人としての社会倫理」とかいった、公明正大な、かしこまったものではなくて、もっと個人的で根源的な "性癖" として、私の脳は、美都子√のようなハナシを受け付けない……という気がするのです。

「なぜ私はこういう性癖を持っているのか」と問うことは、ひじょーにナンセンスな行為です。突き詰めれば「そういう性癖だから」というトートロジーを虚空に投げ返すことしかできません。それでも、自分なりに後付けの説明/解釈をあーでもないこーでもないと考えてこねくり回すのが好きなので、少し挙げてみます。

シスヘテロ男性の「理想の女性」像としてしばしば言われるものに、"母であり妻(恋人)であり娘であるような女性" があります。男性が "ほしい" 存在である母親と妻と娘の三位一体。ひとまずフィクションのキャラクターに限りますが、私はこうした女性が苦手です。"男性にとって都合のいい女性" をそのまま都合よく所有・消費するのは、なんだか自分が舐められているような気がするのです。

私は、男性との関係によって規定される女性キャラではなく、男性などいなくとも自立的に存在して生を謳歌している女性キャラが好きです。こうした性癖は、おそらく私がNTR好きであること、三角関係の失恋描写が好きであること、そしてフェミニズム思想が好きであることとも関係しています。男性(である自分)のほうなんか見なくていいから、女性にはひとりで力強く生きていってほしい……という、これまた身勝手で気色悪い想いがあります。なので、エロゲのように恋愛する対象としても、なるべく男性(主人公)から独立した、対等に付き合える女性キャラ("ヒロイン")を好む傾向にあります。

さて、『NG恋』のメインヒロイン・美都子は、言ってみればこの「母であり妻であり娘であるような女性」そのものです。「娘」であるのはその年齢(差)から言わずもがな。いっぽうで生活能力の乏しい理の世話を焼き、その細やかな料理で偏食を矯正するなど、美都子は「母」の側面も明らかに持っています。そんな少女と「恋人」になって結婚して「妻」にする……というのが美都子√なのですから、私がまったく受け付けなかったのも仕方ありません。


ただし、誤解されないよう強調しておきたいのは、私はべつに美都子というキャラクターそのものが嫌いなわけではない、ということです。ものすごく年上で、しかも「保護者」を自称している男主人公・理と両想いで結ばれる展開が嫌いなだけです。

美都子√にたどり着くまでに分岐する別ヒロインの√において、美都子は三角関係の一角を担い、何度も何度も片想いし、嫉妬し、焼きもちをやき、そして失恋します。・・・私は「負けヒロイン」としての美都子はかなり好きです(「負けヒロイン」が総じて好きなので。)

子どもが身近な大人に抱く恋愛感情が、あくまで一方通行の実らない恋として描かれるのであれば問題ありません。しかしそれが両想いとして実ってしまうのであれば、一転して、受け入れられなくなる。私のそういう性癖の構造を、このゲームをやる過程でありありと確認しました。


チラと言及しましたが、理と美都子が、単に「大人」と「子ども」、成年者と未成年者の歳の差カップルであれば、ここまで強い拒否反応は起こさなかったように思います。いちばん受け入れがたいのは、理が自分で、美都子の「保護者」≒親になると宣言して始まった関係なのに、その保護者が被保護者である美都子と恋人になってしまう点です。それは他の誰でもない美都子への最大の裏切り行為であり、凌辱行為ではないのか、と思います。

被保護者が自分をものすごく愛してきた程度でコロッとその気持ちを受け入れて自分も同じ愛を返してしまうのなら、そんな人間にははじめから人の保護者になる資格などない、と思います。(まぁ、常識的/客観的に考えて、本当に理には最初から最後まで美都子の保護者たる資格はないんですが……) 

「保護する/される」という非対称な権力関係の上に恋愛関係を築こうとしても、それは決して対等なものにはなり得ません。同様の理由で、私は教師と生徒が結ばれるタイプの話も受け付けません。(両想いの純愛和姦がダメなだけで、悪いこととしてちゃんと自覚的にやっている凌辱モノならむしろOKです。性癖です)


そして、美都子√の何より嫌いな点として、こうして理と美都子の恋愛がいかに「NG」かを語れば語るほどに、とうの2人は、そんなこと言われなくても分かってますよ、「世界でいちばんNGな恋」ですよこれが、と言わんばかりに開き直ってドヤ顔をしてくるようなトーンが終始貫かれているところを挙げなければなりません。

私がこうして「常識的」な反応を示せば示すほどに、ふたりの「世界でいちばんNGな恋」は背徳的に盛り上がりを見せて、その冠するところがますます引き立ち完成されていく……かのような。私のこういう拒絶反応もシナリオに織り込み済みだというような、「世間」から後ろ指を指されるほどに、閉塞的な禁断の恋の魅力が確立していく自己陶酔的な構造が本当に嫌でした。

私は、エロゲでよくある「閉塞的な二者関係のロマンス」が基本的に嫌いです。ふたりだけの逃避行とか、無理心中とか、世界を滅ぼすとか、そうやって「世間」と自分たちを対置して、閉じられたふたりだけの世界に耽溺していく関係に素直に酔える年齢ではなくなってしまいました。(いや、これは決して年齢だけの問題ではありませんが、私にも、浅野いにお『おやすみプンプン』を全身全霊で受け止めながら、深く感情移入しながら読めた時期があったのです……)

そして、私が丸戸史明さんのエロゲを好きな理由もここにあります。『パルフェ』がもっとも分かりやすいですが、丸戸シナリオではしばしば、「閉塞的な二者関係のロマンス」に対するアンチテーゼのような、開かれた共同体を志向する物語が描かれます。『WA2』でいうところの、かずさ√と雪菜√の対比もいい例です。(既プレイの方なら、私がどちらの√を好きか分かるはずです。) 『この青空に約束を─』のつぐみ寮もその共同体の一例ですし、何より本作の主な舞台となる「テラスハウス陽の坂」だって、丸戸的な「開かれた共同体」の一種です。

だからこそ、私は美都子√の「最終話」での、アパートの住人たちですら認めることのできない「世界でいちばんNGな恋」……という筋書きが我慢なりませんでした。そして直後の「スペシャル」でそれをひっくり返して、やっぱりそれでもテラスハウス陽の坂の "みんな" は美都子と理の恋を応援してくれた……!という大団円を取って付けたことにも呆れてしまいました。閉塞的なふたりのロマンス≒「世界でいちばんNGな恋」をやりたいのか、開かれた共同体のドラマ≒「世界でいちばんOKな恋」をやりたいのか、極めてどっちつかずでした。二兎を追う者は一兎をも得ず、の見事な実演だと思いました。(だからこそ、これら2つを同時にやるのではなく、2人のキャラクターそれぞれの計2つのルートに分けて展開した『WHITE ALBUM2』は大傑作になったのだとも思いました。)


各キャラ/シナリオの感想

……さて、美都子√がいかに自分に合わなかったのか、は十分に語れたので、ここからは "美都子√なんて無かった" ことにして、それ以外のキャラクターやシナリオの感想を述べます。

夏夜

まず夏夜さんは、とても好きでした。男を全力でヒモにしようとしてくる痴女な同僚とか……最高か?? あとシンプルに見た目(キャラデザ)がこのゲームでいちばん好きでした。黒髪ショート最高!! 本当に33歳だったら最高を天元突破していたのですが、嘘でとてもかなしかったです(かなしかったです)。

ただ、理と付き合う前の夏夜さんのほうが、付き合い始めたあとの夏夜さんよりも良かったです。無事に恋人になってからは、理へのデレと甘やかしがさらに加速していき、いくらなんでも理に甘すぎないか?惚れすぎてないか?と、やや冷めてしまいました。もっと男の都合通りにならない、面倒くさい "ヒロイン" のほうが好きなので。

したがって夏夜√は、嫉妬や失恋に苦悩する夏夜と美都子という2人の女性がともに、大好きな理のことをなんやかんやで赦してしまうため、三角関係モノとしては茶番感が拭えずに終わってしまいました。ただし、本作をシリアスな三角関係の恋愛劇ではなく、あくまで「ホームコメディ」だと見なすのであれば、よく出来た茶番として普通に楽しめました。


男三人衆

これは夏夜√に限らない、この物語全般に関する感想なのですが、ご隠居・八須永くん・熊崎さん──という「ホームコメディ(長屋モノ)」の賑やかし要員である男3人衆の存在は素晴らしかったです。『こんにゃく』のつぐみ寮が男主人公以外は全員(攻略対象の)女性で完全なハーレムだったのと比べて、テラスハウス陽の坂は、彼ら3人がずっと一緒に住んでいることによって男主人公のハーレム空間にはなっておらず、うれしい。(私はハーレムものが嫌いです。)

理と "ヒロイン" がアパートの一室で、なにやら良い感じの会話をしているときに、うっすい壁を隔てた隣の部屋からこいつらが盗み聴きをしていたり、酒盛りをしていたり、ふつーに会話に割り込んで茶々を入れてきたりするのが……これぞ丸戸シナリオの追求する開かれた共同体だ!と思えて大好きでした。閉塞的な二者関係のロマンスに風穴を開ける「茶々」こそ、エロゲでホームコメディをやるうえでもっとも大切なことだと思いました。

また、例えば夏夜√で失恋した美都子が泣くシーンがありますが、そのとき美都子と一緒にいるのがご隠居(おじいさん)なのがめちゃくちゃ好きです。三角関係ラブコメにおいて、失恋した "ヒロイン" が涙を見せるシーンはその物語のひとつの見せ場であり、実際そこから構想を膨らませた人気ラノベ・アニメに『負けヒロインが多すぎる!』があります(応募時の原題は『俺はひょっとして、最終話で負けヒロインの横にいるポッと出のモブキャラなのだろうか』)。

『負けイン』は、その「負けヒロインの横にいるポッと出のモブキャラ」を男主人公としてハーレム構造を成立させる話だったので私は苦手でしたが、『NG恋』では、ハーレム主の「男主人公」ではなくて、あくまで賑やかし要員の「モブキャラ」のおじいさんにその役目を振っているところが素晴らしい。けっして男主人公・理だけの独壇場ではないのです。理と美都子の「歳の差」という本作の根幹の主題すらも、ご隠居と美都子の、それこそ祖父と孫くらいの歳の差の前では馬鹿馬鹿しくなるほど。こうして鮮やかに主題を相対化しながらも、丸戸的ホームコメディへと物語を開いていく名シーンだったと思います。こうした働きをさせているから、男3人衆の住人らがこのエロゲにいてくれてよかった、と心から思えるのです。



姫緒

次に姫緒√ですが、いちばん面白かったです。ここまで完成度の高い個別シナリオはあんまり読んだことがない……と感動してしまうほど。

そもそも姫緒さんは序盤(共通パート)での印象はもっとも薄く、興味が持てない、どうでもいいキャラだったのですが、理の会社の取締役代理に就任して、理の上司(パートナー)として一緒に働き始めてからの魅力の上がり方といったら凄まじいものでした。立場は上だけど、社会人としての実務能力は完全に下であるという倒錯的な関係のなかで、姫緒の素直さとひたむきさ、善性、そして美都子への愛がよく描かれていました。

・・・そう、私は姫緒を、理(男主人公)が「攻略」して恋愛するための「ヒロイン」というよりも、美都子のことが恋愛として好きな同性愛者のキャラクターだと見なしています。(のちに理と恋人になるというのなら、両性愛者といってもいいです。) これは、考察というよりは信仰に近い解釈です。「そうであってほしい」し「そうであると十分に読める」し「そうではないと否定し切れる要素はどこにもない」と思っています。

私じしんは今のところヘテロセクシュアルであり、フィクションの好みもヘテロ中心主義なところがあります。一般に「エロゲ」と呼ばれる、主にシスヘテロ男性を対象として、作中でヘテロ恋愛(とヘテロセックス)を扱う成人向けノベルゲームを好んでいるのも、私がヘテロ中心主義者だからです。

しかしその一方で、私はそんなヘテロ主義的な「エロゲ」のなかに含まれる、同性愛などのクィアな要素がとても好きです。はじめっから同性愛前提の「百合ゲー」とかはそんなに好きではなく、ヘテロ中心主義な場のなかに潜在し胚胎し、その場に支配的なヘテロ・イデオロギーに綻びを生じさせるような「百合」が好きなのです。ヘテロのなかに咲く百合が好き。

ゆえに、私は「ヘテロ百合」の三角関係がとても好きです。ヘテロ百合とは、その名の通り「ヘテロ」な関係と「百合」的な関係がもつれ合うタイプの三角関係のことで、私が勝手に作った造語です。大きく分けると

①「女→男←女」
②「女→女→男」

の2種類があると考えられています(私のなかで)。

例えば、先ほどの夏夜√は、男である理を、夏夜と美都子という2人の女が取り合う構図なので、パターン①のヘテロ百合に当てはまります。「それは単なるヘテロな三角関係では?」と思われるでしょうけれど、このタイプの三角関係において、同じ男を好きな2人の女同士の愛憎渦巻く複雑な関係に「百合」を見出す場合──私はこれを見出すのが誰よりも得意です──「ヘテロ百合」と呼称したくなるのです。(もうお分かりの通り、私は「百合」を、狭義の同性愛・レズビアン関係に限らずに、女同士の(何らかの意味で) "良い" 関係のことを指す単語として用いています。)

そして、この姫緒√はパターン②のヘテロ百合だと見なせるのです。「姫緒→美都子→理」という構図です。(正確には姫緒は美都子だけでなく理のことも好きな両性愛者なので「バイヘテロ百合」ですが……)

そもそも、三角関係モノのエロゲとして、異なるヒロインの個別シナリオでこうして立て続けに、異なるタイプのヘテロ百合を描いてくれる時点で私のテンションはMAXなのですが、さらに「姫緒→美都子→理」の三角関係には私の好きな要素が詰まっています。

ヘテロも百合もいったん脇に置いたうえで、私はフィクションにおける「幼馴染」関係がめちゃくちゃ好きだと言えます。ヘテロ主義者なので、ヘテロ幼馴染はとうぜん大好物ですが、幼馴染百合も好きです。ゆえに私は、姫緒と美都子の関係が「幼馴染百合」としてめちゃくちゃ好きです。

美都子が幼い頃から隣の豪邸に住んでいた、優しくしてくれるお姉さんであり信頼できる友達である姫緒。美都子→姫緒の感情はあくまで親愛とか友情に留まるものとして描写されていますが、そのうえで、それらが(異性間の)「恋愛」に劣るものだと一笑に付されてはおらず、美都子の姫緒への思慕や信頼感情はつとめて大きなものとして扱われます。

そして、対する姫緒の美都子への大きな愛情は、同性愛と呼んでまったく差し支えないものです(本当はこういう留保の付いた言い方すらしないで、それは「同性愛」であり「恋愛」感情であると "自然" に書くべきでしょう)。

そんな、相互に深い愛はあるけれど、恋愛としては片想いの「幼馴染百合」に、われらがヘテロエロゲの男主人公・理があとから割り込んでくることで、このヘテロ百合は成立します。百合のあいだに挟まる男は……最高!!!(私の理想は「百合のあいだに男が割り込んだうえで最終的にその男を無視してイチャイチャしてくれ」です。)

ヘテロエロゲのなかの「百合」からしか得られない栄養がある。そう思います。あたり一面の百合畑じゃだめなんです。泥沼(ヘテロ/三角関係)の中に咲く百合でなければ。

姫緒√の話に戻りますが、この「理が姫緒と恋愛関係になる」シナリオは、そもそもが姫緒の美都子(トコ)への巨大な恋愛感情によって駆動しています。「トコちゃん」のことが大好きで、不幸になってほしくないし、誰にも取られたくないと思っている姫緒は、トコに急接近して「保護者」だのと自称して、あろうことかトコから惚れられている理を排除しようとします。そのために、父親の意向に従って、理の会社の外部取締役に収まり、理を自身の秘書に付けて監視し、美都子から遠ざけようとする。それが結果的に、姫緒と理の仲を深めることとなり、あろうことか姫緒は「トコちゃん」から嫉妬され、そして最終的にはトコを苦しませて失恋させることになってしまう。とんだ茶番劇な展開ですが、ヘテロ百合三角関係として、こんなにおいしいプロットはありません。

特に良かったのは、姫緒が美都子と隣同士の布団で寝ながら語らうスチルのシーン。ふたりは、同じ男を好きになった異性愛のライバルであると同時に、しかしそれよりもずっと前から、互いに大切な幼馴染であり、「姉妹」のような関係であり、そして友だちでした。そんなふたりの関係の機微が細やかに美しく切なく描かれているのがこの場面です。理への「片想い」と姫緒への親愛に悩む美都子と、美都子への「片想い」に悩む姫緒のふたりともが、相手を思いやりながら傷ついていく……嗚呼……… 美都子にとって姫緒は「友達」だから、理にしてもらっているように保護者(代理)として金銭面での援助を受けたくない、というくだりは、それを聴いた姫緒の嬉しさと悔しさを想像するだけで胸にくる。また、美都子の「大切な人」として最初に名前が挙がるのが姫緒で、最後に名前が挙がる(最後まで挙げずに秘匿される)のが理である、というくだりもまた、姫緒のなかに歓びを生じさせながらも、実質的に美都子が姫緒を振っている場面として胸に迫ります。


そういうわけで、「姫緒√」が好きだったワケは、理と姫緒の関係が良かったから以前に、姫緒と美都子の関係が刺さったからです。本作がヘテロエロゲである以上、さすがに姫緒と美都子が結ばれたりエッチしたりする展開はないだろうな~~でもあったら最ッ高だな~~と夢見ていたのですが、なんと美都子√クリア後に解放される姫緒√の「おまけシナリオ」として「世界でいちばん3P(えっち)な恋」があることが発覚し、昇天しました。

前述の通り私は男キャラが複数の女キャラに愛される(ことが甘々に肯定される)ハーレムが苦手です。しかし、この3Pは、あくまで姫緒が理への想いと同じくらい大切な美都子への想いを諦めずに、「三人」で幸せになろうとして辿り着いたものだったため、受け入れられました。あいだに挟まっている男(理)は正直どうでもよく、彼を都合の良い蝶番の装置として "利用" することで、幼馴染百合が成就する百合Hシーンとして楽しみました。まさに「百合のあいだに男が割り込んだうえで最終的にその男を無視してイチャイチャする」という理想がほぼ実現していました。幼馴染好きとしても、三角関係好きとしても、ヘテロ百合好きとしても、マジで最高の結末。まぁその通りに夢オチで終わったような気もしますが、私の中では夢オチではなく確定した未来を「回想」しているだけのシーンなので姫緒と美都子が幸せならOKです。


それから、姫緒と美都子と理のヘテロ百合……とかを脇に置いても、姫緒√終盤で描かれる、姫緒の父・澤嶋順平との対決ストーリーがまた単純にめちゃくちゃ良く出来ていて感動しました。大企業の社長の娘であり、その父の影響と反発から、金遣いが荒くボランティアに執心するお嬢様、という姫緒のキャラクターが、こうして昇華されるのか……と惚れ惚れしました。最終的には、澤嶋順平の人生を肯定し救済するような着地を見せて、真の "ヒロイン" はこの強面の中年のおっさんだったのか……と笑いながら拍手しました。美都子の母・穂香が何年も前に結んでいた契約書のせいでテラスハウス陽の坂が再び売られてしまう──という危機発覚から、「真相」が二転三転して重層的に明らかになっていくシナリオがエンターテイメントとしてお見事でした。


麻実

まず、エロゲにおいて、男主人公の「元妻」キャラが登場するのを見たのが今作で初めてだったので、めちゃくちゃ衝撃的でした。そもそもエロゲの男主人公(その多くが学生)が既婚者であり、さらには離婚している、という設定だけでも攻めているのに、その結婚/離婚相手の「元配偶者」を堂々と攻略対象ヒロインとして登場させて、分岐式の長編シナリオを書き上げるのは並大抵のことではありません。

アニメ『であいもん』や、『心が叫びたがってるんだ。』など、私は男主人公の元カノががっつり出てくる物語が大好きです。「元カノ」でもかなり珍しいのに、「元妻」はほんとうに、なかなかいません。最近のアニメでは『オーバーテイク!』くらいでしょうか。(知ってる人いたら教えて下さい)

これは私が「幼馴染」関係にあるキャラが好きなこととも関連していますが、私は物語開始時点ですでに長年連れ添っている関係が大好きです。読者(プレイヤー)である私にはアクセスできない過去・歴史があることで、そのキャラクターたちの厚みが増すように感じられます。

したがって、麻実が、理や別の人の前で垣間見せる、過去を現在まで引きずりながら湿っぽくて重い執着心や葛藤がとても好ましかったです。もちろん理の側が麻実に対して引きずっている感情の描写もよくて、理と麻実がふたりで会話している場面は、それこそ熟年夫婦のような、互いに理解し合っている間柄なのがすぐに分かる「大人」の仲で、読んでいるだけでグッときました。

離婚の理由もまた幾つかの要因が重なり合い絡み合った複雑なものでしたが、麻実の抱える「秘密」を知らなかった/知らされなかった理が、それを知ってしまい愕然とするくだりなんかは、実に丸戸シナリオで良かったです。『パルフェ』とかで見たやつ!! 理と美都子の(疑似)親子関係を主軸とする話のなかで、最終的に美都子と一騎打ちになる元妻ヒロイン・麻実に「子ども」絡みのこうした設定を配置するのはとても理に適っており、物語のデザインが上手いなぁと感心しました。

麻実に求婚するモブの男性教師の激ヤバミソジニー発言にはびっくりしましたが、「不快」なキャラには必ず作中で制裁を与えてほしいとは思わないので、大きな減点対象にはなりませんでした。(むしろ、形骸的な「悪役」を登場させて、そいつを男主人公らが「倒す」ことで読者の溜飲を下げようとしたり、男主人公らの株を上げようとするプロットのほうが、私は苦手です。物語が薄っぺらく感じるので)


29歳という、エロゲの男主人公としてはかなり高めな年齢設定→〇
結婚&離婚経験アリ、という設定→◎

ただ、丸戸作品の男主人公にありがちなワーカホリック設定はあんまり好きではありません。社会人として、会社員として、オレはこんなに「熱心」で「有能」なんだぜ……と見せつけるような怒涛の理ageお仕事描写には辟易しました。本質的に、なろう系・俺TUEEE系だと思います。「俺を追放したパーティの連中が、あとから悔やんでいてざまぁwww いくら後悔してももう遅い……」みたいな追放系の展開を大真面目にやっているので、かなり白けた目線で見ていました。

会社に魂を売り渡した過酷な労働・サービス残業・会社泊まり込みなどを素朴に「仕事頑張ってるから良いこと」として描いているのには、なるほど2007年発売という時代の隔たりを感じました。2020年代ならまず、こうしたトーンでの描写はされないでしょう。

もちろん、理の「激務」行為がつねに全肯定されるわけではなく、「家庭」や「恋愛」といったプライベートな人間関係の課題に向き合うことを避けて、そこから目を逸らして逃げるように仕事に邁進している理が作中で糾弾されてはいるので、上手いなぁとは思います。でも、夏夜さんが理の「しごでき」な側面を見て惚れたり、姫緒が理に新人教育を施されながら絆されていったりしていることは間違いなく、いくら「ダメ」な風に描いていたからといっても、けっきょくワーホリ的な有能さで物語を動かしていることは否めないため、気色悪さは残りました。

幼少期の家庭環境・両親との仲が良くなかった設定は、『WA2』の北原春希に通ずるところも感じ、ワーホリ面とともに、丸戸の男主人公キャラの典型なのだなぁと感じ入りました。

理はひょんなことから出会った美都子を、その気の毒な境遇から救いたいからと、彼女の「保護者」になろうとします。理じしんの家庭環境や現在の境遇(失職)を考えれば、典型的なメサイアコンプレックスがそのまんま好都合に成就するシナリオに他ならず、この物語の大前提からしてかなり受け入れがたいところはあります。職を失い生きる意味も失って放浪している成人男性が、ふと流れ着いた「宿」で、自分の生活の面倒を見てくれる「寮母さん」であり、自分に生きる意味を与えてくれる「娘」でもあるような存在に出会う──なんとも気色悪い話です。美都子ちゃんを守る守るというけれど、お前のしていることは、単に自分を救うために目の前の不幸な少女を利用しているに過ぎない、それは彼女への救済どころか暴力である、と思いながら読んでいました。こうした理のエゴイスティックな点も例によって作中でいくらか言及されますが、それもまた例によって、開き直って肯定されていくので残念でした。



というわけで「ものすごく好きなところも、ものすごく嫌いなところも、どっちもあった」作品でした。

全体の面白さ・好みとしては、『この青空に約束を──』よりは確実に上で、『パルフェ』に比べると一段劣るかな、といった位置付けです。『WHITE ALBUM2』の前身として(勝手に)いろいろ解釈できる作品ではあったので、これをやることで『WA2』の理解も深まった気がします。

HERMIT制作の丸戸エロゲでは他に『ままらぶ』もやってみたいです。ただ、いまは丸戸節の文章と物語にじゃっかん食傷気味なので、しばらくは別の作品で中和したいです・・・ 読み易いんだけどクセがかなり強い文体ではあるので。







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