入江喜和『みっしょん!!』3巻の感想
↓ 1・2巻の感想はこちら ↓
24/11/14(木)
また木津センセー引きかよッ!!! 続きが〜楽しみすぎる〜〜〜!!
本巻もめっちゃ面白かった! やっぱり自分はこういうのがいっちゃん好きや…… 入江喜和最高……
平々凡々で地味なワタシがなんやかんやで運命の出会いをして人生が転がり出し……!?という、紛れもなく《少女漫画》のコアを突いていて、本当に楽しい。
若者(少女)を主人公にしていると大抵は「美少女」として見栄え良く描かれるため、2次元キャラオタクのヘテロ男性たるじぶんは彼女らをどうしても萌え的/ポルノ的に消費してしまう。
でも、そうして主人公キャラを強く客体的に見てしまうのは、主人公に自己投影・感情移入しながら波瀾万丈な物語を楽しんでいく少女漫画の王道の読み方にとっては都合が悪い。
そこで、入江喜和作品のような、しっかり老いているデザインの中年女性を主人公に据えて、本質的には少女漫画のおはなしをやってくれる漫画は、自分の《少女漫画》の最適解だと感じる。
未知さんのことを、心から応援できるもんな……
未知さんは、ゆりあ先生ほどじゃないけれど、たかこさんよりはバイタリティのある苦労人で、だからこそよりリアルに、彼女の現在の生活状況の大変さが生々しく伝わってきて、苦しい。この苦しさを味わえている時点で私にとってこの漫画は傑作だ。
認知症で要介護のお母さんの造形がまたなぁ〜 ほんっと絶妙なんだよな〜〜
母を初めてデイサービスのショートステイに一泊させて、久々に家でひとりでゆっくりできる一夜なのに、未知さんが母への罪悪感でけっきょくあまり寝られないのとか、描いていることが凄すぎて…… 泣きながら、一人暮らししてる娘に電話しちゃうのとか、マジで胸に来るよ。未知さん、貴方は頑張りすぎなくらい頑張ってるよ。
と、こうして未知さんの置かれた環境のツラさが身に染みれば染みるほど、このマンガの本筋である「中年からのMT免許取得」という夢に向かう未知さんをより深く応援できる構造になっているのがまた素晴らしい。あなたは「家」に、「家庭」や「家族」に縛られなくていい。もっと自由に、自分の車に乗って好きなところへ出掛けて楽しんでいいんだ。もう折り返しているであろう、ここからの人生の旅路を。
そして未知の「運命の人」こと木津朝子センセー…… 何歳なんだろうな。50はいってる? 年上の可能性もあるのか。
めちゃくちゃカッコいい。カリスマ性があるのは一目見てわかるデザインだけれど、それでもしっかりと老いた中年キャラなのがまた良い。
木津さんのジェンダーがまだわからないけれど、「女性」なのだとしたら、女性が女性と運命の出会いをする、まごうことなき中年百合ということになる……!(恋愛にたとえならなくても、現時点ですでに百合だろう。) 入江喜和がガッツリ百合要素を扱うのたぶん初めてだよな。ゲイ・BLはあったけど。
志村貴子『大人になっても』のような社会人大人百合マンガめいてきたが、志村貴子はなんやかんやで描くキャラはみんな美しく綺麗な造形をしている(そこが明確な作家としての魅力である)。
いっぽうこちらは更に年長の中年百合だし、少なくとも一方は子供もいる。設定だけでなく、キャラデザもしっかり「中年」の生々しい老いを描こうとしているのがまた素晴らしい。だからこそ、木津さんに思い切って「約束」を宣言するときの未知さんの顔がやや若返って見えるようなのがまたグッと来る。
中年・老年百合マンガといえば『マダムたちのルームシェア』も好きだけれど、あちらのキャラデザはかなりキャラクターチックにデフォルメを効かせている(のが魅力)。どれもそれぞれに良い上で、私は入江喜和の描く、真に「中年」を自分ごととして引き受けながら《少女漫画》を諦めない漫画がいちばん好き。
木津さん、シュッとしてるけどめっちゃフランクで人当たりの良い人で、読んでるこちらも「好き〜〜〜♡」ってなった。未知を敵視する、朝子ラブな若い女性は現段階ではちょっと雑な「若い女性」のステロタイプ過ぎてあれなので、ここから関係が変わって掘り下げられることに期待。
しばしば家を空ける夫の不倫疑惑もどうなるんだろうな。目撃した時には思わず「いつもの、キタァーーー!!」と笑ってしまったが……
入江喜和って、長年結婚生活をともにしてきた伴侶(夫)にも、自分ではない別の大切な人がいる(ことに思い悩む中年女性)……を描くのが本当に好きなんだなぁ。これが、「運命のふたり」という少女漫画ロマンスを解体しながら再構築することに寄与しているので、良いと思う。寝取られ性癖と似たものを感じる。
それに、主人公側も運命の出会いを描くために、自分だけそれが赦されるのはアンフェアなので……という面もあるだろう。ひとつの都合のいい言い訳といえばそうだけど。(『大人になっても』で元夫側にもまた結婚を検討できるお相手が見つかったような)
本巻では介護として80代?の母のお風呂シーンと、未知自身のシャワーシーンが描かれた。入江喜和の描く、こういう中年以上の女性キャラの裸がとても好き。まったくポルノ的な興奮を呼び起こさないから。ただそこにある生身の人間、としての裸。消費対象ではなく、確かに生きている存在。
でもゆりあ先生のはエロティックだったような気もする。たかこも……?
あと、単行本の裏表紙カバー裏の作者コメントも良かった。作者は免許を無事に3年前に取得してはいるものの、あまりドライバー趣味を謳歌できておらず、もう車売っちゃおうかなと思っているが、この漫画を描いている限りは諦めないようにしようと自らを励ましている、と。
つまり、この漫画は、作者がすでに過去に達成したことを振り返りながら自伝的に描いているだけでなく、免許を取って自分の車を手に入れた “その先” までをも射程に入れて、作者の現在と将来をも探りながら鼓舞しながら進んでいる何重にも自伝的なフィクションである、ということだから。
なので、未知さんが無事に免許取得して車に乗れるようになったところで終わってほしくはない。そのあとの人生をどう謳歌するかが肝心なのだから。