桜井画門『亜人』感想メモ
発端
24/3/6(水)
とりあえず4巻まで読んだ。
LWさんが言ってた通り、原作者が降板して漫画担当がすべてやるようになった2巻以降、ずっと面白い。
画がうまくて漫画がうまくてストーリー構成がうまくて…… 『フリージア』とか『殺し屋1』とかを彷彿とさせる、ダークで過激でクールな青年漫画。
『寄生獣』の系譜に連なる、アフタヌーンの新人類SFでありガッツリ殺し合いや拷問や虐殺作戦が扱われるハナシなので好みではないが、自分の好き嫌いを棚上げすれば、傑作であることは疑い得ない。バイオレンス系の名作にありがちな、シリアスな笑い・コメディ要素もそこそこあってすごく上手い。デスノートにも似てる(IBM≒死神)。
いろんな登場人物が絶妙なタイミングで加わってきて、陣営が局所的に作られるものの、わりとあっさりと崩壊したり裏切り内乱が勃発し、明確な敵味方の構図が定まらない。それは下手すると煩雑なだけになるが、本作は今のところ、流動的に陣営が生成変化消滅するバトルものとして極めて高いレベルで成功している。
単にバトルだけでなく、そもそも物語の大きな目的・方向性がまだ明確にはなっておらず、しかし先行きの不透明さに退屈させられもせず、ローカルな展開の面白さだけでかなり話を魅力的に進めている。
バトルものとしては、亜人の使役?する黒い幽霊IBM(人間には基本見えない)の戦闘能力が生身の人間の鍛冶場の馬鹿力レベルに設定されており、それほど強力ではない点がうまい。〈国シリーズ〉でいうところの天狗の神通力みたいなもん。
いちおう、構図としては、亜人側は帽子=佐藤たちの反人類・過激派と、永井圭らの穏健派がいて、人類側は少なくとも日本とアメリカの情報政治戦という側面があるのかな。あの女性の亜人の素性を知っているのがあのメガネ男しかいないようなのも分からん。あと、1巻にしか出てきてない永井圭の幼馴染の青年カイ君はなんなんだ。彼がいちばん異様だけど再登場するよね?1巻という黒歴史の中の人物だから闇に葬られた?
巻末ページにて、アシスタントがどこのページの何を書いたのかめちゃくちゃ詳細に記載してて、その作者の偏執性がいちばんこわい。どこまでが自分の仕事なのかを明確にしたい芸術家気質なのだろう。
L
Wさんが好きなのはわかる。主人公の永井圭がアスペルガーというかサイコパスというか……な、超合理主義者だから。
亜人が頭部を新しく再生する時に、切られた頭部の自我と、新しい頭部の自我が食い違ってしまうのでは、という哲学的なテーマも地味にあって、それが主人公の独我論者っぽい造形と永井均的に響き合うのだろう。
リアルな絵柄のキャラとデフォルメ調のキャラがいて、それらが奇妙に同居しているのが不思議。女性キャラのデザインがかなり良い。
単行本の話数間の空きページとかで、少し前のシーンのコマを再掲して、これからの話についていけるようにしてくれてるのが地味にめっちゃ親切でありがたい。こちとら人物の顔も見分けられないし展開もすぐ忘れるしで困ってるんだ。
5巻読んだ
永井圭と行動を共にする中卒の青年・中野のキャラが面白い。永井と対になる、馬鹿で善良で社交性のある青年。サンチョパンサというかワトスンというか… 『ゴールデンカムイ』の坊主の人みたいな。
戸崎(トサキ)が病床の婚約者のために頑張っているという設定だけB級っぽくて謎。
やはり永井、中野ペアと戸崎、下村(亜人の女性)ペアが手を組んで、佐藤たち過激派を止めようとする構図が出来上がった。これが続くとなるとかなり単純明快だが、数巻しないうちに物語は別の戦局を迎えるだろうな。
6巻
永井と中野の対照構図が強調される。永井はIBMが濃いが、中野はそもそも未だ出せない。永井は頭脳派の冷徹な合理主義者で、中野は肉体派かつ直情派かつ社交的。下村泉に惹かれ、女は亜人でも戦闘作戦には参加させない、という場違いな発言を本心からする人情ヤンキー的思考の持ち主。正反対の凸凹コンビ。
永井は戸崎や下村たちとすぐに打ち解ける中野に嫉妬しているよう。しかし強面のおっさんから、お前はそのままでいいと勇気づけられる。一瞬永井のベタな感情獲得成長譚に行きそうだったが杞憂だった。
オグラ博士の言動がずっと秀逸。コメディ要因。
下村泉が戸崎と出会って「下村泉」となるまでのオリジン回想話が挿入された。かわいそうな少女が母の愛を知って強く生きていくことを決意する、というかなり通俗的な内容だった。トサキの婚約者設定といい、こういうところ(女性キャラ周り?)は非常にベタで作り込む気がないのか。それとも、すべてひとしく、エンタメ通俗性を優先しているということか。
1巻以来のカイ(海斗)再登場! 永井圭との逃走中の罪で服役中。その刑務所のなかでも亜人の男と知り合い、底なしの善性、お人よしさで、脱獄チケットを獲得。中野と海斗の外見も内面も似てるけど繋がりある?
7巻
佐藤の幼少期と米軍時代の回想譚が描かれたが、ナチュラルボーン快楽殺戮者、遊び人かぁ。なんだか、素性がぼかされてた頃のほうがみんな得体知れなくて魅力的だった気が。キャラの過去設定が苦手というか、自分好みじゃない感じかな。
始まるまでが長かったフォージ安全ビルでの攻防戦スタート。
8、9巻
フォージ安全ビル編、永井たちの完全敗北により終了。佐藤さん強すぎぃ!
これにて前半が終わり、物語は後半部へ、といったところか。永井と中野の雨中の慟哭、やり取りなんかベタな少年マンガの挫折パートみたい。中野が少年マンガメンタルだからな。少年マンガだったら、次の後編で佐藤にリベンジを果たすところだろうけれど、どうなるか。永井がほんとに逃げて出番終わったらすごい。まだ海斗があんま出てきてないからなぁ。
優しい副社長の李さんを田中が一転して助けたのとか、わりと(女性)キャラに甘い。
平沢さんたち黒服の暗殺者4人衆めちゃくちゃカッコよかった。ちゃんと死なせてあげるのも甘い。
断頭での自我の複製問題は、哲学的テーマというよりは、佐藤のような狂人度を測るひとつの基準(断頭を許容できるか)に成り下がったっぽい。
面白いは面白いんだけど、マジでアドホックな頭脳戦と攻防戦をやる続ける面白さであって、人物造形や大きな主題みたいなところに力点が置かれていないので、ジャンクな面白さかもしれない。。
3/7(木)
一夜明けて考えると、その場その場の面白いバトルゲームを並べるために、作中に「その場その場を面白くゲームとして楽しむことにしか興味がない狂人」佐藤を用意する、というのはなんだかあまりにもそのまんま過ぎて馬鹿らしいような…… 面白いからまぁ許せるけどなんか釈然としないな…… やはり、本作において人物を描くことは目的でなく手段である。
10巻
永井、逃げずに佐藤と戦うらしい。
永井圭の性格は母親譲りだった。強烈な合理主義者の母ちゃん痛快でいいね。圭はまだ甘っちょろいほう。でも、情動的な男に惚れて結婚して子供をふたり産んでシングルマザーになってるところはなんだかなぁ…… あまりにも、「そういうキャラ」過ぎる。
アメリカでの日本人亜人第一号の女性研究員はどう絡んでくるのか。
戸崎の入院していた婚約者はあっさり死亡して、弔い合戦に突入。
11~17巻
最後まで読み終わった!!
うーん……なんか最後の数巻、入間基地での最終決戦編はあんまり面白くなかったな……。対亜の5名(フルフェイスで最後まで素顔を晒さない)はカッコよかったけど、あとはカイの乱入やフラッド発生も含めて予定調和感が……。
佐藤がクソ強いのはわかっているので、永井らが基地に到着するまでの佐藤vs自衛隊特殊部隊の戦いとか、まじで時間稼ぎ(=尺稼ぎ)でしかなくてだるかった。そして、佐藤がゲームに飽きてしまうように、まさにローカルな戦い=ゲームを続けてきたこの作品そのものもまた、終わらせ方が分からなかったように、飽きたように終わっていった印象。
永井vs佐藤 という対決構図が5巻あたりで出来上がって、それが最後まで(戸崎と永井の合流や、田中の寝返りなど細かな変動はあるものの)基本的には温存されて無事勝利で終わったので、序盤のどんな方向に進むのかまったくわからないワクワク感は失われてしまい、かなり凡庸な、少年漫画チックな努力友情勝利ノリで幕切れとなったのが残念。だから、5巻くらいまでがいちばん面白かったように思う。
オグラ博士が説いていた亜人の発生原理、「人の心」云々もたわごとにしか思えないし、なんかめちゃくちゃクールでソリッドな思想のトーンの物語かと序盤は思っていたのに、最終的にはかなり穏当な、人と人との絆万歳!前に進むことを止めないことが大事!遊びじゃなくて真剣に生きよう!……などの、道徳の教科書のようなことを衒いなく主張していたので、まったくついていけなかった。
オグラ博士のマイルドセブンを買ってくれた亡き息子の話とか、永井と平沢さんの関係とか、戸崎と下村、下村と田中(なんか良い感じになって同棲を始める)、高橋とケン(実は兄弟だった)の関係など、どいつもこいつも普通に人情が根底にあることが明らかになってきて、魅力が失われていった。佐藤さんだけだよ最後まで狂っていたのは……。永井ケイとカイの「友達なんかじゃない」関係にも期待してたけど、ようわからんかったし、カイと中野が永井との関係的にも外見的にも似ているからごっちゃになる。カイは中野に圭のパートナーポジションを奪われてしまい持て余していたように思える。
画は最後までうまくて良かった。
『けいおん!』の登場人物の名前をパロディしまくっているって気づかなかった! わろた。言われてみればそうだわ。
途中で「Don't say "lazy"」や「U&I」というサブタイトルの回があったときは流石にけいおんを連想したけど……。