プロジェクト完了報告_MKT(窓計画展示)_「建築の地質」_2024.06
はじめに(雑談)
修士2年の房野です。
気がつけば2024年もとっくに折り返し。
いつの間にか学生生活が終わりに近づいている実感をしみじみと感じ始めています。
そんな学生生活の最後を謳歌するべく、最近は研究室でくだらないものづくりや遊び(週1で徹夜DJ特訓など)に励んでいます。
→前回記事で、門脇研の学びと遊びの往還について後輩が記述しています。くだらないことを嘲笑せず学びに変えていく姿勢が描かれているので、そちらもぜひ。
ところで、人間の欲求は5つの階層に分けられるとして、マズローの欲求という心理学の理論がありますが、ある意味研究室での活動は、最も満たされる事の少ない「自己実現の欲求」を実現するための行為かもしれません。
自らのうちに秘めた欲求や疑問をかたちに現して共有することで、構成員それぞれがクリエイティブな発想を展開していく雰囲気は、カルチャーが生まれていく様にも似ているような感じもします。
決してこの環境を驕っているつもりはないのですが、社会に出る手前にこの欲求を実現する場があるというのは大切な気がしています。(先生曰く「青春してる」らしい)
MKT(窓計画展示)完了報告
そんな中で、今回は私も携わらせていただいた「窓計画展示」のプロジェクト完了報告です。
初期構想から展示計画、インストールまで、学びが多いプロジェクトでしたので、そのプロセスや感想を個人的解釈で記録に残そうと思います。
拙い文章ですが、ご笑覧ください。
「窓計画展示」は、2024/6/11〜6/23に滋賀県立美術館で行われた、石山修武さんを主導とした、建築家と彫刻家を中心とするアーティストらによるコラボレーション展示です。
うちの教授である門脇耕三先生が招待を受けて、彫刻家である湯村光さんと共に展示を行うこととなりました。
テーマは「窓」。解釈は自由です。
杓子定規的に、彩光や通風、眺望といった目的を持つ内外を横断する建具として捉えることも、純粋に「孔」であったり、異世界を覗くためのツールとして拡大解釈することもできると思います。
協同することとなった湯村さんは、岩石を積み重ねたような作品を創られる方で、今回の展示では既存の作品を用意するとのことでした。
岩石の自然な破断面と、重なりのずれ、つややかに磨かれた表面、それらが対比的に岩石の美しさを引き出すような作品で、わたしたちに自然の力強さや秩序などを考えさせるようなパワーを感じます。
われわれはその岩石という力強い自然物と、建築という人工物の対比関係を「つなぐ」要素としての「窓」を表現することで、展覧会のテーマに応答しようと考えました。
セラミック文明
突然ですが、焼き物(食器や瓦など)って土から生成するため、親自然的なイメージを持ちますが、実は土に還らない物質なんです。
一度土を焼成すると、化学組成が変化して、元の土には戻らないそうです。縄文時代の土器がいまだに出土しているのを想像すると容易に理解できます。
同じ要領で考えると、建築はその多くが元来自然物からつくられていますが、セメントや窯業系サイディング、ガラスも含めて、自然素材を焼成することで自然の土へと還らない物質へと不可逆変化させてしまっている材料だと考えることができます。
これらの自然に還らなくなった無機物、通称セラミックスは、われわれが責任をもって人間世界のなかで循環させていかなければならないはずだ、というのが門脇先生の見解です。
仮にもしこのまま人間が自然素材を焼き続けていった場合、ナウシカのようなディストピアな世界が訪れうるかもしれません。
ナウシカの時代背景であるセラミック文明は、人類が私利私欲のために自然を破壊し続けた時代であり、その結果腐海が蔓延したとされますが、セラミック文明と呼ばれている所以は作品内で言及されていませんでした。
しかし、われわれの生活を支えている様々なものが、自然物の焼成によって生まれた不可逆物だと知った今、ナウシカの世界をみると、人間が土を焼ききって全てをセラミック化してしまったからではないか、と考察できます。
展示計画スタディ
本題に戻ると、建築のセラミック建材は、人間世界のなかで循環させるべきであり、そのプロトタイプの建材として、版築ブロックに注目することとなりました。
焼成を行わないため、環境負荷が少なく、何度も繰り返して再利用が可能だという考えがもとです。
決して土に還ることはないけれども、それが粉砕され、細かくなり、ブロックとしてかたちが成形されることで、岩石に近づくことはできないだろうか。そのなかで湯村さんの彫刻作品との対応関係ができれば、岩石と岩石になり得ない建材がつながりをみせるような、示唆的な展示になると構想しました。
版築ブロック制作実験
瓦、窯業系サイディング、ガラスの3つの素材をブロックにする実験を短い期間の中で数回行いました。
最初は固まるかどうか怪しかったけれど、意外と固まったので一安心。
インストール
滋賀まで車で5時間かけて搬入。
実際の展示空間でどのように見えるのか、期待される効果は最適かどうか。
石山修武さんのご指導も入り、当初予定していた計画とは一変。ほかの展示者の作品や空間全体と呼応するようなプランニングに変更し、より読みとき甲斐のある構成へと改変しました。
「建築の地質」 展示完成
この展示は色がもう一つのテーマでもあります。
上層にある建材は粉砕していくと次第に地肌の色が強くなっていくため、瓦は青から次第に赤へ、ガラスは透明から不透明へと変化し、その中間では混色がおこる。
色はかたちの問題として考えることができると門脇先生は考えており、その実証実験でもありました。
現場で展示計画を変えたため、そこの意図する部分は読み取りが難しくなってしまったかもしれませんが、マテリアルから環境の話だけでなく色の話まで展開していくさまは勉強になりました。
おわりに
展示プロジェクトは、建築とはまた一味違い、作品としての主張や表現が強く宿っていて、それがどう伝わるか、解釈されるかが大切になってきます。
最終日の講評会を拝見していると、作品の意図とは別の軸で議論が展開したり、逆に伝わらないと一蹴されてしまうものもあり、学生の身分としては非常に刺激的で学びの多いプロジェクトだったと感じています。
この展示はおそらく来年に2期が開催されるそうなので、もしまた携わることができたら、今回の実験や考察を含めて糧にしたいと思います。
長文になりましたが、ここまで読んでいただきましてありがとうございました。
房野
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