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上沢獲得をホークス面から考える
おそらく今オフの球界の話題といえば、源田の不倫と今回取り上げる上沢の移籍問題でしょう。
今回は後者の件について、獲得したホークスサイドからその意図を検討してみましょう。
過去の成績
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上沢直之 1994.02.06(30歳)187cm, 88kg R/R(2011年D6位)
日ハム時代
2021年
24G(160.1回)12-6 ERA2.81 K21.0% BB 7.5% WHIP1.04 FIP 2.99
2022年
23G(152回)8-9 ERA3.38 K20.1% BB 7.9% WHIP1.18 FIP 3.82
2023年
24G(170回)9-9 ERA2.96 K17.8% BB 5.9% WHIP1.14 FIP 3.44
MLB時代
2G(4回)0-0 ERA2.25 K18.8% BB 12.5% WHIP1.00
MiLB
20G(59回)5-4 ERA7.63 K16.6% BB 12.7% WHIP1.78
一軍ローテに定着した2014年に8勝を上げると、2016年に右肘の手術で全休するも、その後はローテーションに定着し、多くのイニングを消化。2019年に試合中のアクシデントによって膝の手術を受けるも、復帰後も順調に主戦級の投手として活躍。
2023年オフに賛否を呼んだポスティングでタンパベイレイズに移籍するも開幕をMLBで迎えることができず、オプトアウトを選択。この際日ハムへの譲渡金は僅かに6250ドル。移籍先のボストンレッドソックスで念願のMLB昇格を果たすも2試合の登板でマイナーに降格。AAAウースターでも結果を残すことができず、7月には今季から埼玉西武に入団するトレイ・ウィンゲンターの昇格に伴いDFAとなり、9月には右肘の怪我のためシーズン終了、11月にFAとなりました。
NPBの復帰にあたり、古巣である日本ハムの他ソフトバンクが交渉を行い、日本ハムは単年1.7億、ソフトバンクは4年10億の契約を提示し、12/18にソフトバンクと契約を交わしたことが報道されました。
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ソフトバンクから見た上沢獲得の意図
筆者自身は獲得戦線に参戦こそすれ、実際に獲得に至るとは思っておらず、正直驚いたというところが正直な感想です。
しかし今オフ、そして来季以降のことを考えると納得できる部分もあったため、今回はその点についてお話しできればと思います。
石川柊太の流出
2024オフに石川柊太がFAで3年総額6億円で千葉ロッテに移籍しました。昨季の石川は5年ぶりに投球回が100イニングを下回るも、9月以降の4先発で4勝、防御率1.80と安定した数字を残し、チーム6位の63.1回を投げました。
今季ローテ7,8人体制を掲げるホークスにとって、実績のある石川の流出は痛手となり、イニングを稼いでくれる先発投手の補強は課題となっておりました。
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ただ石川に巨額を投資することはホークスとしてもリスクのある行動となります。34歳のシーズンを迎える石川は終盤でこそ活躍したものの、今季は起用法が定まらず、スイングマンとして1軍では起用され、今季投げた63イニング中25イニングが9月に稼いだものであり、通年イニングを消化することができるのかは疑問です。実際昨季100イニングを投げ切った投手のうち、33歳以上の投手は48人中6人と少なく、石川投手もその例には漏れないかと思います。(1,2軍合計で100イニング投げているので怪我などの心配はなさそうです)
また昨季を除いて石川は年々与四球率と被ハードヒット率が年々悪化しており、昨季もイニングを稼いでいれば悪化していた可能性があり、先発投手として起用するには不安が残るでしょう。
7〜8人ローテーション
前述しましたが、今季のホークスは7,8人でのローテーションを予定しています。これは元々トッププロスペクトの前田悠伍に負担なく、安定した投球機会を与えたい意図もあるでしょうが、これは上沢にとっても悪い環境にはならないでしょう。今季のホークスは有原、モイネロ、スチュワート、大津、大関が恐らく確定で、残りをベテランの東浜、若手の前田悠、前田純、岩井、村田、松本晴、大山、新加入の上茶谷、濱口、そして上沢で争うことになるでしょう。
他チームよりも余裕を持って投げることのできる環境は怪我明けの上沢にとっては、しっかり調整の時間を設けることができ、かつ他の先発投手にかかる負担も増えることがなく、万が一思ったように稼働できなくても、チームに大きな穴を空けることがないのは願ってもない環境のはずです。
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投手の再育成
またホークスは投手の再育成に自信を持っているのではないか?という点です。昨季チームに復帰した倉野コーチはそれまでリリーフ投手だったモイネロ、大津の先発転向、制球難に苦しんでいたスチュワート、杉山の再生などに成功し、その手腕を遺憾なく発揮していました。特に前年までセットアッパーとして活躍しながら、左肘にメスを入れたモイネロを先発として大成させた点は多くのファンを驚かせませた。昨オフは現役ドラフトで上茶谷、トレードで濱口と実績はありながら、近年結果を残すことのできていなかった中堅投手を有望株の吉田、決して厚いとは言えな2Bの三森を放出してまで獲得してくる動きは、これまでのホークスでは見られなかった動きです。上沢もケガを抱えているものの、現状手術の不安もないことから、復活させることに自信があると見えます。
昨季の上沢は結果こそ残せませんでしたが、ボールの質、特にストレートのスピン量は相変わらず優秀で、球速の割にMLBでも高い値を記録していました。わずか4イニングしか投げていませんが、ハードヒットを防ぐこともできていたので、投げているボール自体通用していた可能性があります。では何が、上沢を苦しめたのか、これには制球の問題が考えられます。NPB時代は年間7%台であった与四球率がMLB, MiLBともに12%台と大幅に悪化。これが成績の低迷につながった可能性があります。これが怪我によるものなのか、メカニックによるものかは分かりませんが、投げているボールの質が変わってなければ、修正可能・NPBでの活躍は可能だと踏んだのだと思われます。
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将来的なローテーション+上沢の価値
まずは今季以降のローテーション編成。現在のローテーションで30歳以上の投手は有原、東浜のみで、モイネロと濱口が今年30歳を迎えます。比較的若いローテーションなので、将来性も十分かと思いますが、それ以外にも問題を抱えています。
1つはスチュワートとの契約です。スチュワートは今季から新たに2年契約を結んでいますが、また26年オフにはFAとなるため、MLBとの争奪戦となる可能性があります。また大関も将来的なMLB挑戦を示唆しており、ホークスは基本ポスティングを認めていませんが、詳細な言及は避けており、こちらも流出リスクとしてあります。その中で実績がありながら、年齢も30歳になっばかりの上沢を確保できるのはホークスとしては大きな戦力となります。
また個人的にはこちらの側面が強いかなと思いますが、将来的なリターンを鑑みてホークスは上沢を獲得したのだと思います。昨今先発投手の市場価値は高騰しており、ローテーション投手に億単位の年俸を支払うケースも珍しくありません。その中で多くのイニングを消化でき、年齢も30歳を迎えたばかりの上沢の価値は本来相当高いはずです。日ハムが提示したような単年契約の場合、もし今季問題なく、NPB時代のような活躍をし、FA市場に流れてきた場合、噂話を単年2.5億で獲得できるのか?これは難しい可能性があります。それよりも初年度こそ2.5億の価値はないかもしれないが、2年目以降に移籍前の水準で活躍してくれれば、単年2.5億の契約は一転してバーゲンとなる可能性もあります。実際上沢と同様のパターンで獲得した有原は単年5億だったので、これでもかなりコストを抑えた契約だと思っているかもしれません。
怪我明けの翌年にいきなりフル回転しなくても契約が保障されているのは上沢にとっても安心してプレーできる要因となり、契約の決め手の1つになったかもしれません。
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今回のまとめ・上沢に期待すること
当然ながら長期契約、特に怪我を持つ選手との契約は不良債権化するリスクがかなり高いです。ホークスは以前に松坂大輔との契約でそれを経験しているので、同じ轍を踏まないことを願わずにいられません。
まずは怪我を治すこと。これが1番です。幸い過去に手術した際は無事に復帰することができていますし、年齢的にもまだ余裕はあります。それこそ有原獲得初年度のように、夏場以降、ローテーションが苦しい時に上がってくる、安定した投球をしてくれ流のがチームとしては1番なのかと。
そして26年シーズン以降は開幕からエース級の活躍をし、周囲を驚かすような活躍をしてくれることを心から願います。