農林中央金庫が10兆円規模の外債売却で損失を確定するらしい。そもそも、なんで損失が出るの?(その1)
今回は漢字クイズではありません。旅行記でもありません。
ファイナンスの話です。
毎回コンセプトがブレブレですね。申し訳なく思っています。
農林中央金庫が2025年3月期に1.5兆円の損失を計上する見込みとなり、保有する外国債券の10兆円を売却することになりました。
外国債券の運用で多額の損失を抱えており、運用収支悪化の主要因である外国債券を売却して損失を確定することが目的のようです。
農林中央金庫が保有する外国債券は23兆円で、43%を売却することになります。
農林中央金庫以外にも外貨建債券で損失を計上する金融機関が増えてきました。
今回は、どのような理由で金融機関に外貨建債券の損失が発生するのかについて解説してみようと思います。
なお、本記事で記載しているのは一般論です。個別の金融機関に関する記載ではなく、個別の外貨建債券について記載しているものではありませんので、ご了承ください。
(1)金利差の拡大と円安の進行
日本以外の先進諸国はインフレを抑制するため利上げを行いました。日本も日銀が金利政策を修正したことによって、わずかに上がっています。
この結果、日本円と他の先進諸国の通貨(例えば、米ドル)との金利差は拡大し、為替レートは円安になりました。
3年前の日本の10年国債金利は0%、米国の10年国債金利は1%でした。この当時の為替レートは110円/米ドルです。
その後、米ドル金利は上昇し、現在は日本の10年国債金利は1%、米国の10年国債金利は4%、為替レートは150~160円/米ドルです。
※ここで記載した金利・為替レートは説明のために利用する大雑把な数値です。正確な数値ではありません。
為替レートが上がった(110円/米ドルから150円/米ドルに上昇)ので、額面1億ドルの米国債に投資していれば、円換算で110億円から150億円になりました。
額面ベースでは40億円(+36%)のプラスです。
米国債に投資していれば儲かった……ような気がしますよね?
でも、実際には損失が発生しています。
なぜでしょうか?
この理由を次以降で説明します。
(2)債券の価値(時価)は割引現在価値
まず、債券の時価は将来キャッシュ・フローの割引現在価値です。
これは通貨に関係なく共通です。DCF法という場合もありますね。
割引現在価値を理解するために少し説明します。
例えば、金利1%(年率)で100円を運用すると、1年後は101円です。
これは、現在の100円と1年後の101円は同じ価値であることを意味しています。
金利5%(年率)であれば、現在の100円と1年後の105円は同じ価値です。
つまり、金利が高くなるほど債券の割引現在価値は小さくなります。
10年国債で計算してみましょう。
対象の債券は元本100、金利1%(固定・年率)、年1回利払い(後払い)、満期10年で、10年国債利回り1%(年率:割引率)とします。
この債券から発生するキャッシュ・フローと現在価値は以下の通りです。
金利1%の債券を割引率1%で現在価値を計算しているので、時価評価額は元本と同じ100です。
次に、利上げによって10年国債利回りが4%(年率:割引率)に上昇したとします。
この場合、金利1%(固定・年率)の債券の時価がいくらになるかを計算します。
計算の結果、債券の時価評価額は75.67です。金利が1%から4%に上昇したことによって-24.33(-24.33%)の損失が発生しました。
※実際には、利上げまでの間に時間が経過しており債券の満期までの期間は10年ではありません。なので、この計算は正しくありません。
これは、3年前に取得した米国債(国債利回り1%)を現時点(国債利回り4%)で評価した際の評価損です。
つまり、利上げ前に取得した米国債は米ドル・ベースで20%以上の損失が発生していることになります。
話を進めると、利上げがあると債券に評価損が発生します。
これは通貨に関係なく日本円でも米ドルでもユーロでも同じです。
日銀の金利政策の変更によって金利は上昇しています。日本国債を保有している金融機関は評価損が拡大していくはずです。
金利0%で取得した10年国債が、国債利回り1%になると9.5%の損失が発生します(計算過程は上記と同じであるため省略、以下同様)。
日銀の金利政策が変更され、国債利回りが2%になると18%の損失が発生します。
ほぼゼロ金利で発行された日本国債は評価損を抱える可能性が高いです。
これが、「国債の投資比率が高い金融機関は要注意!」と言われる理由です。
さて、金利が上がると債券の評価額が下がることは分かりました。
でも、米ドル・日本円の為替レートは110円から150円に上がっていて、額面ベースでは+36%になっています。
米ドル・ベースで-24.33%の損失が発生しても、為替の円安(為替レートが上がる)によって日本円・ベースの損失は回避できている。
そんな気がしませんか?
少し長くなったので、続きは次回にします。
次は、これが正しいかどうかについて説明します。
<その2に続く>
外貨建債券、為替取引について詳しく知りたい人は、これらの書籍を参考にしてください。