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エクセス コンプライアンス リザルト 2章

2.議題「過去を視る」

「・・・まず、募集要項はみられたと思いますが・・・」

「はい。」

「あの内容、ざっくりで構わんので、どういう仕事をするのかイメージは着きましたかな?」

 とりあえず、私は正直に回答した。ここでお世辞を言っても意味がないだろうと考えた。

「・・・私が請け負う仕事内容については、正直なにもわからなかったです。ただ、ある研究をしていて、その手伝いをするのかな、と・・・」

「その『研究』については、何かイメージがつきましたかな?」

「うーん・・・多分私は大袈裟なイメージを持ってると思います。簡潔に言えば、予言が出来るようにする為の研究・・・?そう感じました。」

「・・・・」

老人、暫しの沈黙。10秒位経ったろうか、次にこう進めた。

「やはり、簡潔に説明は難しいもんですなあ。が、予言ですか…。ん~、まあ…半分正解ですかなあ」

 半分正解しているだけで驚愕だった。本当にそんな事を研究しているのか、このじいさんは…私は呆気にとられた。

「ん~~…例えば、ですが、貴方は今まで生きていて後悔したことってありますかな?」

「そりゃあ、無数に。」

 無職独り身でこんなところに来る人間が後悔してないわけ無いだろう、と首のすぐ上まで出かけた言葉を呑んで応えた。

「その後悔、というのは今も『あの時ああすれば良かった』とか、『こうし
ていたらどうだったんだろう』とか、思いますかな?」

「・・・実際に『やらかして』、暫くはそう思うんじゃないですかね、一般的に。私もそうでしたが、時間が経つともうわざわざ考えることも無くなりますけどね。」

「それは、同じ『過ぎた後』でも、直近とその先の未来では後悔に対する考え方が違うという事ですかな?」

「…?」

 このじいさん、いったい何が言いたいんだろう、というか何を言わせたいんだろう?私は口が重くなってしまって沈黙した。

「ああ、いや、誘導尋問ではないのですよ。申し訳ない申し訳ない…どうも研究職というのは言い方が辛辣になってしまってかなわんですなあ…」

「…」

「ちょっと質問を変えましょうか。『何故、後悔という感情が発生してしまうのか』、です。 あ、いや貴方の行い方について咎めているわけでは決してなく、理屈で考えて何故その現象が起こることになるのか、ですな」

「…ん~、簡単な話で、その後悔する前に戻れないから、ですよね。」

「その通り、では、何故戻れないのか?…あっはっは、わかりきってる話ですが、要は哲学っぽい考え方ですよ。」

「まあ…時間を巻き戻せないから、ですよね」

「そう。『時間は1つしか存在しない』というのが、この議題の見解ですな。

「えっと・・・『1つ』、というのは?」

「後悔したときに『あの時ああすれば良かった』というのが本当に実現した場合を仮定すると、時間は複数あることになるんですなあ。要は、後悔した自分と後悔を払拭した自分が2人居ないと、『あの時ああする事で良くなった』という回答が出せなくなる、つまり時間が2つあるっちゅう事になる訳です」

「…ええと?」

「ああ、ゆっくりと進めましょう。沈黙は虞ないで結構ですよ」

かみ砕くなるまで随分間が空いた気がするが、成程じいさんの言ってることは合理的だ。

 『後悔を帳消しにする』、という行為は後悔した先と後悔しなかった先の両方を体験していないと成立しない、要はそういう話だ。これまで後悔しなかった、考えもしなかった事柄も、実はちょっとした変化で後悔に変わっていたかもしれない…私はその少しの説明で色んな事を考えた。

「…整理できましたかな。もしや不破さんも理系ですかな?」

「ええ。…え?んー、まあどちらかと言えば数字の方が文章よりも好きですかね。」

「あっはっは、だと思いましたよ。この説明をして真剣に考えてくださる方は、理屈に対しておよそ真摯に受け止めてくれる方です。理系は感情を優先したがらないですから。」

 どうもこのじいさん、系統にコンプレックスを抱えているようだ。突っかかってもしょうがないので、私は愛想笑いで済ませ、質問した。

「時間は絶対に1つしかない、という事になるんでしょうか?」

「ん~、少しずつ本題にせまってきましたな。いい質問です。」
本題には近づいていたようだ。正直まったくそんな気はしてなかったのだが。

「この研究では、時間は1つしかない、という『仮定』から先ず入ります。…募集要項にもありましたな、『将来発生する事象を~』という件です。今居るこの先については、まだ誰も体験していない事象となります。未来について後悔する人間なんてのは無論おりません。時間が1つしかなく、まだ経過しとらんわけですしな。」

「そりゃあ、そうですよね。」

「今までの話は過去の話でしたが、次からは将来、それも数年位先の直近の未来についてちょっと噺をしましょうか。」

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ミクモン
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