エクセス コンプライアンス リザルト 6-1章 答え”併せ"
「まず結論から言いますが、ワシら研究員はVRの内容を知りません」
「・・・え?」
説明の初手で意外なこと言う爺さん。
「・・・その映像が別部署で作っているとか、そういう事になるのか?」
「いいえ。」
「・・・じゃあ、その内容は誰がどうやって・・・」
「不破さんご自身です。あのイメージ映像は本人の”過去”記憶を読み取り、複起点となるポイントを自動算出し、その部分の映像を出す仕組みとなっております」
「・・・映像の中身は私以外誰も知らない、と?」
「はい、そういう事になります」
いきなり不安になった。いっそ内容は把握して欲しかった。というのも、今の自分はVRの内容がどこまで現実化されて、どこまでが空想の話なのか曖昧になっているからだ・・・
・・・
・・・
・・いや・・・
「・・・私が1年間の記憶が丸々消えたり、休憩室で会った少女と貴方の区別が曖昧になったり、この建物の階層が分からなくなったのは・・・」
「おおよそVRのせい・・・いや”効果”と言えましょう」
「・・・今私が抱える記憶のうち、現実と矛盾している事があると思うのだが・・・これは大丈夫なのか?」
「前にも話した通りですな。ゆくゆく擦り合わせされ、最終的には問題とは認識しなくなるでしょう」
「・・・結局、このVRの目的ってなんなんだ?」
「細かい点から話しますと・・・複起点を見つめ、”その時に何をどうすればよかったのか、あるいは他に選択肢があった場合、貴方は何をしていたのか”を潜在意識から揺り起こす事に目的があります」
爺さんはゆっくりと説明しだした。
「では何故そのような事をするのかというと・・・言ってみれば当人の”自信”を上げる為です」
「・・・何故それが自信に繋がるんだ?よくわからないが」
「簡単に言ってみれば・・ゲーム感覚で言うと”経験値”みたいなものですな。例えば、その複起点で自分が迷いに迷って選択したのが今だった場合、そして今うまくいっていない場合・・・必ずその局面で後悔という概念が生まれてきます」
「確か過去の講義でもやっていたな・・・」
「よく覚えて・・・いや、不破さんにとっては今日中の話でしたな。その通りです。説明した通り、”後悔を払拭する”という事柄は”後悔しなかった世界”と”後悔した世界”の2通り存在しないと成立しない事になる。・・・話をしました通り、この世界は時間軸が1つしかありません。」
「だからVRの世界で”後悔しなかった世界”を体験する・・・という事か?」
「現実と仮想空間で”2パターン”の世界線を体験していただく、という点は合っていますが、必ずしも現実側で後悔した世界線だとは限らないですな。というのも、その延長上でおきる事象次第ではゆくゆく後悔を感じる事にもなりますので・・・」
「・・・・」
「・・・不破さんは1年前、後悔したことはありますかという問いに”無数にある”と答えています。・・・不破さんの”今日言った内容”ですが、そこは認識は合っていますかな?」
「・・・言ったような記憶もある。・・・ああ、そうか」
「どうされましたかな?」
「その言及がVR内で言った事なのか、それとも現実世界で言った事なのかの区別がついていないようだ。だから認識のズレが起きている、という事なのかもしれない」
爺さんは顎に指をあて少々考え込んでいた。
「ふむ・・・・先に申し上げたとおり、VR映像は複起点を描写して当人への選択肢を揺り起こすもの。つまり・・・不破さんはこの1年間のどこかで、弊組織に来られた最初の日にも複起点があった、という事になりますかな。
なるほどなるほど・・・・何となくですが、ワシ自身が感じる矛盾も読めてきましたかな」
爺さんはだんだんと落ち着いた表情になってきた。どうやら自身も感じていた違和感の正体を掴んだようだ。
「・・・爺さんの違和感がとれたのは喜ばしい事だが、こっちの身にもなって欲しい」
「ああ、いや申し訳ない。・・・これも不破さんの”治療”の一環でありますので・・・簡単に申し上げますと、VRで複起点を経験する際に、その局面にいる登場人物が実際とも関わると、その関わった人も影響を受けることがあるんですよ。ワシらは簡単に”干渉”と呼称しておりますが。」
「・・・私が見たVR内でも爺さんが出てきて、それが今現実の爺さんと話した事により、爺さんにも影響が出た。そういう意味で合ってるか?」
「はい、合っております。・・・・今、気になってるのは時折出てくるその”少女”という点・・・」
・・・VR内に居た人物、ということになるのだろうか。私の中では確かこの組織にいる、爺さんと同じ研究員だったはずだが・・・
「説明が難しいですが、ワシの今までの経験則から推測するに・・・」
「なんだ?」
「その少女は不破さんにとって一番重要な複起点の存在だった人であり、そして今現実世界には居ない方でしょう」
・・・
・・・
・・・
・・・・・爺さんの言葉を聞いてから、何故か非常に心がざわつく自分が居た。
「推測にすぎないハズだが・・・どうもその推測が気になる。記憶はないんだが、妙に心が落ち着かない・・・」
「承知しました。・・・・ここからは最後のカウセリング・・・いや”講義”となります」
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