エクセス コンプライアンス リザルト 5章 種明かし
部屋へ戻り、老人が音もなく向かい側の席に座る。
表情はさっきまでとは別人のようである。悟ったかのような表情、というか目の瞳孔が開ききっている感じだ。印象がまるで違う。
・・・ここは4階?で合ってたか、いよいよ私自身も何が現実なのか疑ってきている。
結局、私「不破」は何者なのか、昔を辿り、今まで形成された記憶は断片的ながら、確りと脳裏に浮かべる事が出来る。ただ、それが事実だったのか自信が無くなってきている。胸にある電子タバコがそれを増長させている。
ふと、私は思い、老人に尋ねた。
「ちと失礼、タバコを吸う訳では無いのだが、この胸ポケットにある電子タバコを手に取って確認してもいいか?」
「・・・ええ、構いませんよ。ただ、火災報知器があるので実際に吸う場合は”休憩室”でお願いします」
とりあえず、胸ポケットにある電子タバコを見てみた。
・・・まず円筒状の本体がある。端面に穴が開いており、ここに葉巻を入れる、という事だろう。
葉巻も同様にポケットにしまってあった。まだ残数は沢山ある。・・・19本。1本だけ吸われているようで、封は切られているがほぼ新品のようだ。
「・・・何か思い出しましたかな?」
「いや、何も。・・・19本入ってるから1本だけ吸われてるようだが。」
「・・・・?」
老人、何か違和感を感じ取ったようだ。
「どうした?」
「・・・確か”今の不破さん”はタバコを吸われないんですよね?」
言い方が何とも奇妙だが、私は答えた。
「ああ、吸った事は無い。」
「・・・私はタバコを吸わないので良く分からないですが、満タン状態だと20本、という事なのですかな?」
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・あれ?
そういえば、何故私はそんな事を知っているのか?
もう1度葉巻を見てみる。・・・19本、ある。
・・・・何故タバコを知らない私が「1本だけ使用されてる」と言い切れたんだ・・?
「まあ・・・ゆっくりと考えて下され。なるべく焦らず、じっくりと・・・」
「・・・爺さんは、今の違和感って階層の件だけなのか?」
ちょっと意地悪をしてみた。こちらばかり違和感を感じさせられてマウントを取られているように感じたからだ。実際そんな事はないと思ってもいるのだが。
「今いまのところは、ですな。なに、そのうち湯水のごとく違和感は出てくるでしょう・・・」
老人、この現象がやはり何かを心得てるようだ。
「デジャヴ、という言葉は勿論ご存知ですな。」
「・・・前に同じような体験をしたかのような錯覚を覚える、あれか?」
「そうです。今不破さんと私が陥ってる状態は、そのデジャヴに通ずるものがある。・・・今のところ、記憶と複起点の食い違いでこのような事が発生すると結論がついております」
・・・何となくだが、言ってる事は把握できる。
やってもいない事を前にやったような気になる、というのは今とは逆(やった事が前にやっていない状況になっている?)ではあるが、要は記憶と実績のズレの事を言いたいのだろうと思う。
「・・・あのカウンセリングだけでこんな状況に陥るものなのか?それがどうにも解せない」
「いえ、実際この事象を発生させるには、”不破さんもやられた通り”モニターが必要になります。”あの疑似体験”を以て、このような複起点異常が生まれます」
・・・・???
また、話が食い違ってきた。一度頭の中を整理する。
カウンセリングが終了したその直後に、モニターがようやく始まるのかと言った後、少女・・・いや、老人は「モニターは既に始まっている」と言ったハズ。
「すまないが疑似体験とは何のことだ?カウンセリングが終わったと思ったら、既にモニターは始まっていると言い出したハズだが」
老人、それを聞いたのち茫然としている。
しばし沈黙した後に、こんな質問をしてきた。
「不破さん、今は何月何日かわかりますか?」
「確か・・・4月14・・・いや15日だったか?そう記憶している」
「・・・となると・・・・そういう事か」
何やら老人も頭の中を整理しているようだが、おもむろに携帯を取り出し、私に見せながらこう言った。
「今は、3月の28日です」
・・・・
・・・・
・・・・
・・・・え?
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