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エクセス コンプライアンス リザルト 3-1章

3.議題「未来を計る」

 少し休憩を入れた後、老人はまたゆっくりと語り始めた。いつの間にやらカウセリングのようになっている。そういえばそれに近い業種だと言っていたが、これも職業柄なのかもしれない。

「さて…と。じゃあ、今度は未来について話しましょうか。」

「ちょっといいですか?」

私は口をはさんだ。

「この話の目的って、いったい何なんです?これからやる仕事に関係あることですか?」

 少し失礼なのかもしれないが、自身の動き方を定める為にも至極全うな質問だと思う。

「勿論、ですな。さっきの過去の話は前提条件を固めて貰うための…まあ、講義とでも思ってくれれば。次に話すのは、貴方がこれからモニターする上での考え方になります。」

「考え方…ですか。」

「やり方…まあ、方法論ですな。時間軸が1つしかない状況下であるならば、未来についても推し量る事ができるはずーー要約するとそういう研究ですな。」

「やはり、予言?」

「んん、先ほど『半分正解』と言いましたな。何故半分だと思われますかな?」

「・・・?」

「あっはっは。一応私も一応考えて『半分正解』と言ったのですよ。この場合、何故半分『不正解』から言った方が早いですかな。」

「逆に半分不正解から論ずる、ですか。」

「まあ、そんな難しい話でないです。要は『未来は決まっていないから』ですな。言い方を変えれば『まだ時間軸に乗った事象ではないので1つに絞れない、という言い方になりますな。さきほどの過去の噺から言えば。』

「でも、半分正解なんですよね?」

「その通り、その決まっていない未来を『仮定』で推し計る、という事です。」

「・・・んん~、と。『予想』ってことですか?」

「『予想』というのは『予め想像する』事を言います。この研究は予め仮定する事――まあ、そのまま愚直に逆説すれば『予定』になってしまいますが、そうですね…『予仮(よか)』とでも言っておきましょう。」

なにやら当たり前の噺をしてるような、そうでないような不思議な感覚である。噺としては結構面白がってる自分もそこに居た。

「『予定』、とは違うんですか?」

「『予定』っちゅうのはほぼほぼ実行できる、あるいは実行しないといけない事象の事です。『予仮』は、1つの未来に決まり事を作らずに、今現在の状態にある決まり事から幾つか合理的な仮定条件を作って、あくまでも受動的に未来がどうなるかを視るもんです。」

すこしずつ噺が難しくなってきたようだ。私は暫し頭の中を整理した。沈黙を懼れずに。

(要するに、だ。『予仮』というのは未来に対して考察したり決定事項を作るのではなく、今現在から得られるデータから未来を計算する、という事になるか・・・?だが、それを世間一般的に『予想』というのでは無いのか?どうやら、かなり微妙なニュアンスで違うことを言いたいのだろう)

「…頭ではなんとなく理解できましたが・・・どうも、まだ腑に落ちてない部分もあります。」

「結構、結構。いきなり全部理解できる方がおかしいと思いますがな、あっはっは…」

「…」

「ん~、では…例題を挙げてみましょうかな。昨今、ウイルス感染が問題になってますな。」

「ええ、結局何が正しい対策なのか皆疑心暗鬼になってますね。」

「困ったものです。いまこうして距離をとってマスクをしてれば感染しない保証があるのか、それとも感染する確率を下げているだけなのか、そもそも確率を下げるのであればどのくらい下がるのか?溢れるほど検証事案が出てきます。」

「このウイルスに対して、これからどういうトレンドになるか、という…ええと予仮をするってことですか?」

「いんや、その前に考えるべき事があります。『仮に』です。仮に今回のパンデミックが拡大前に『予定』出来ていたならば、今頃どうなってたでしょうかな?」

「…ん?ええっと…」

矛盾だ。結局過去の話に戻ってしまっている事、過去なのに『予定』を立てている事――ー。

いや、待てよ。『予定』と言ったか?

「予想ではなく、『予定』ですか?決まり切ってないのに?」

「決まり切っていなかった話でしょうかな?未知のウイルスに対して、対応する手段は『予定」されていたのでは無いでしょうかな?』

「それは…確かに未知のウイルスが出てきた時点で、相応の予定は立てるでしょう。でも結果がどうなるかなんて・・・・」

「その『複起点』ですよ。それがウチの研究内容っちゅう事です。」

「・・・はあ。」

複起点?いったい何の事を言ってるんだろうか。それが核心に入る話なのは凡そ把握出来るが・・・

「こっから少し、抵抗のある話になるかもしれませんが・・・まあ、聞いてくだされ。まず、複起点とは?という噺ですな。」

「どういう風なイメージで捉えれば?」

「簡単な話です。先ほど話題に出た予定こそ、複起点の1つです。要は、その時その時点で仮定した内容と、それに伴って出来上がる先の予定を1セットで出来るのが起点というものです。横文字を使えば、『ターニングポイント』とか言う言い方になりますかの。ニュアンスがやや違いますが・・・」

「未来が変わるポイント、という解釈でもよろしいですか。」

「そうですな。それで正しいです。」

「それが複数、という事ですか?」

「その通りです。複数ある起点から足すなり引くなり、複起点からまた新たな複起点を作成したり、その起点を利用することでいくつか決まった
『未来要素』を割り出す。そういう研究ですな。」

 ようやく講義のゴールに辿り着いたようだ。老人は姿勢を正し、ふうと一息つく。軽く疲弊しているようだ、余り人と話すのは得意じゃないのだろうか?そうは見えなかったが・・・

「…大体ですが、研究内容を把握できました。…それはそうと、少しお疲れ気味に見えますが、大丈夫ですか?」

「ああ、いや、お気遣い戴いて恐縮です。問題ないですよ、歳を取るとロクなことがありませんなあ…うあっはっは。」

そう言っていたが、自分も一息付きたいので休憩したいとお願いし、15分間の余暇をもらった。別室を案内され、私は電子煙草をふかしていた。

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ミクモン
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