大学教員(研究者)の評価指標 その2
前回記事で、大学教員(研究者)がどのような指標に基づいて評価されるのか、という内容で少し紹介させていただきました。
筆者は、看護技術に関するエビデンス紹介と、研究に関する雑学や私見の紹介の2本柱で記事を書いているのですが、研究雑学系の業績や評価の記事の方が比較的読んでいただいております。
筆者も含め、やはり人間は「他者からの評価」というものがどうしても気になってしまうものですよね。
それでは本日は、前回ご紹介できなかった大学教員の評価指標について引き続きご紹介させていただきます。
大学教員(研究者)の評価指標
被引用数 (Citations)
これは非常にシンプルな指標でして、ある研究者の全ての論文について、引用された回数の合計を指します。
前回ご紹介した「h-指数」では論文の質と量を評価する指標でしたが、この指標はただただ「どれだけ引用されているのか」に重きを置いています。
もちろん、この指標も研究者の母数や引用文化の影響をかなり受けますので、異なる学術分野間の比較はできません。
これだけ見ると、「では論文数も含めて評価するh-指数の方が優れているのでは?」と感じる方もいるかと思いますが、学術分野によって年間どれくらいの論文を公開できるかというのはかなり差があります。これは査読期間ともかなり関連してくるのですが、例えば筆者のように看護学に関する研究で投稿するジャーナルでは、概ね3か月程度でほぼ確実に1回目の査読が返ってきます。その後、査読返答で2回ほどやり取りをし、校正も含めて最終的に投稿から公開までの総必要期間が6か月程度になるというイメージです。
ただ、これもジャーナルによって査読のスピードは変わりますし、国際誌と比較して和文誌は査読が遅かったりもするので、3か月程度で公開までもっていけたこともあれば、1年以上かかったこともあるので、本当に様々です。とはいえ、総合的には比較的論文投稿から公開までの期間が短い学術分野かと思います。
一方で、例えば数学分野などは査読期間が長いことをよく耳にします。数学系ジャーナルの査読期間リストを見ると、Submission to Final Acceptanceが12か月以上のジャーナルがかなり多くあり、論文公開するまでの所要時間が看護学よりもはるかに必要になることがわかります。
このように、学術分野による論文公開可能速度の差が大きいため、「h-指数」のような論文数も測る指標では、「1本のスマッシュヒット」も無視してしまうことになり、評価指標として適さないということもありうるのです。
Altmetrics (オルトメトリクス)
こちらは近年SNSやネットニュースの流行に伴い生まれてきた指標ですが、論文のソーシャルメディアでの拡散状況やニュース、ブログ、政策文書での引用回数を評価する指標になります。
つまりは「どれだけ世間にウケたか」という指標ですね。ニュースにおける引用であったり、政策の意思決定におけるエビデンスとしての引用は、社会的影響は大きいですが、これまで紹介した「h-指数」や「インパクトファクター」では評価されません。
ですので、そういった学術世界の外側への影響力を測るという面白い指標ではあるのですが、X(旧twitter)での投稿数などは簡単に操作できてしまいますし、ニュースで引用されているからと言って質の高い研究とも限りません。
「どういった引用を含めていくのか」という部分がもう少し整理できれば、(特に大学側にとって)今後重要な指標になってくるのではないかと思います。社会的影響のある研究者というものはそのまま大学の知名度にもつながりますし、大学の知名度は募集学生数にもつながってきます。影響力をもつ研究者を引っ張ってきたい大学なんかは無数にありますので、やはり今後我々のような大学教員は「ウケる研究ネタ」というものを準備しておくことが生き残っていくための策なのかもしれません。
終わりに
前回に引き続き、大学教員(研究者)の評価指標について私見を交えながらご紹介させていただきました。
色々な指標があり、それぞれに一長一短があります。特に、学術分野間での文化の影響を如実に受けますので、それぞれの学術分野で適した指標を複数使用するというのが指標の使い方として重要なポイントかと思います。
加えて、評価指標だけで評価しないということも大切ですね(この辺りはまた次回以降に)。
余談ですが、こういった評価指標は自然科学系の研究分野では重要視されますが、人文科学系ではそこまで重視されないようです。
筆者の友人に、文化人類学で博士号を取っている人がいるので研究者の評価の考え方について話をしたことがあります。
その中で印象的だったのが、
「自然科学系の研究者は「良い雑誌に載るのは良い論文である」と考える。人文科学系の研究者は「良い論文のある雑誌が良い雑誌である」と考える」
と話していたことです。
人文科学系の研究者らしい言葉で、評価というものが何なのかを考えさせられました。
さて、今年はこれが最後の記事になります。
また来年もどうぞよろしくお願いいたします。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。よいお年をお迎えください。