『パタン・ランゲージ』をなんとなく聞いたことのある人向けに『パタン・セオリー』を勧める4つの理由
主に、クリストファー・アレグザンダー氏の『パタン・ランゲージ』『時を超えた建設の道』や、SFCの井庭先生の『パターンランゲージ』などの既刊を読んだことのある読者に向けて、2024年10月4日に発売されたヘルムート・ライトナー著、中埜博、懸田剛訳の『パタン・セオリー』の魅力をまとめてみます。
本書は、有志でクラウドファンディングを立ち上げて資金調達を行い製作しました。
要約
『パタン・セオリー』は、クリストファー・アレグザンダーの数千ページに及ぶ理論をわずか216ページで俯瞰するコンパクトな入門書です。
アレグザンダーの後期著作である『The Nature of Order』シリーズの未翻訳部分も含め、建築以外の分野にも応用可能な「生命の質」や「センター」などの概念を解説しています。
また、日本語版では50個の参考文献も追加され、より深く理解できる内容に仕上がっています。様々な分野で「生きているシステム」「生命の質」を高めるシステム構築を目指す人々にとって、重要な指針となる一冊です。
パタン・ランゲージを始めとした、クリストファー・アレグザンダーの思想・理論に新たに触れる際に、手軽な入門書として多くの人に読んで頂きたい書籍です。
ポイント1:C.アレグザンダー氏の数千ページにも及ぶ理論を216ページで俯瞰!
アレグザンダー氏の著作は、最も有名な『パタン・ランゲージ』以外も含めると、1964-2012年の間で14冊にもなり、全部で数千ページに及びます。彼の理論は変遷を辿っており、それをキャッチアップするためにすべてを読むのは大変です。
『パタン・セオリー』は、216ページというコンパクトさでアレグザンダー氏の理論の本質とその応用分野について俯瞰できます。
本書は、元々著者のライトナー氏が、同僚にアレグザンダーの理論を知ってもらいたいと思ったときに、著作をそのまま勧めるのは敷居が高く、かといって網羅的にまとまった資料は存在しなかったことから、必要性にせまられてまとめ始めたのがきっかけです。そのため、非常にコンパクトにアレグザンダーの理論・方法論がまとまっています。
ポイント2:パタン・ランゲージだけじゃない!未翻訳の「生きているシステム」について解説!
アレグザンダーの後期主要作品の『The Nature of Order』シリーズ(NOO)は全4冊のうち1冊しか翻訳されていません。有名な前期作品である『パタン・ランゲージ』『時を超えた建設の道』と比べて、後期作品では大きく用語や概念が変化しています。
『パタン・セオリー』では後期の重要ワードのセンター、全体性、15の生命特性(幾何学的特性)、生命の質、構造保存変容という概念を使った「生きているシステム」(living system)を詳しく解説しています。
パタン・ランゲージや時を超えた建設の道では名付け得ぬ質(QWAN: Quality Without A Name)と読んでいた質についての説明を「全体性」「生命の質」と言い直しています。
一言でいうと、後期作品は「名付け得ぬ質」「生命の質」を持つ建築物を含めたシステムを、どうのように生成するかのプロセスを指します。前期作品もこのプロセスは含まれていますが、後期作品では、よりプロセスを重視しているます。
個人的にも、構造保存変容というプロセスの概念をもっと広く知ってほしいと15年前から思い続けてきました。これはNOOの2巻に登場するシステム変容のプロセスのことであり、非常に重要な概念なのですが、NOOの2巻が翻訳されていないため日本国内では殆ど知られていなかったのが残念でした。
日本では、アレグザンダーの著作を語る時には、パタンランゲージ(パターンランゲージ)の説明に終始しがちです。しかし、パタン・セオリーでは、パタンやパタンランゲージのの説明の前に、センター、全体性、生命の質、生命の特性、変容といった新しい概念の説明にページが与えられています。つまりパタンやパタン・ランゲージの前に、これらの「生きているシステム」と「生命を生み出すプロセス」についての理解が重要であるということです。
NOO以降の後期作品を読むうえで、引っかかりやすい「幾何学的特性」(パタン・セオリーでは生命特性と呼びます)については、こちらの記事もお読みください。
ポイント3:建築を超えた「生命システムの一般理論」として解説!
『パタン・セオリー』ではアレグザンダーの理論を建築分野にとどまらず、様々な分野に応用可能な生命システムの理論として紹介します。その適用事例として、ソフトウェア開発、オンラインコミュニティ、パーマカルチャーなどの事例を紹介しています。「生きているシステム」をどのように生み出し発展させて、世界の「生命」を強めていくかが、パタン・セオリーの目指すところです。
生物・非生物を含めたシステムに「生命」があるとする考え方には最初は違和感画を覚えるかもしれません。しかし実際私たちは「生き生きとした」という表現を、生物だけでなく空間や場に用いています。「生命があるか・ないか」という二元論ではなく、「生命の質」を度合いで表現することで、あきらかに「あっちよりも、こっちのほうが生き生きしている・生命を感じる」と表現することができるし、実際に感じ取っているのです。
本書は原著の執筆時の状況での、最小限の応用例、関連する分野の話題にしか触れられていません。原著は2007年に出版されましたが、2020年のコロナ禍を経て、生命論的な世界観が様々な分野で重要になってきています。
アレグザンダーの提唱する「生命」とは、生物学的な存在だけでない、より普遍的かつ古くて新しい「生命」の捉え方です。アレグザンダーはそれらの生命論的世界観を40年以上前からリードしています。時代がようやく追いついてきたと言えるのではないでしょうか。
様々な分野の方に手にとって頂き、感想を聞かせていただいたり、交流ができると素晴らしいと思います。
ポイント4:日本人向けに訳注にて参考文献を大幅に追加!
原著は160ページの非常に薄い本で、注釈もなくシンプルな本でした。日本語版はそのシンプルさを活かしながらも、日本人向けの文献、関連する分野の日本語での情報を訳注として追加し、パタン・セオリーをより深く広く知ってもらうことを目指しました。
今回の訳書で追加した日本語版独自の参考文献は、全部で50にも及びます。(これでもだいぶ減らしました)
これでもまったく充分とは言えませんが、翻訳書という制約の中で、パタンセオリーの入門者が手に触れたときに、より広く深くパタンセオリーの世界を知ることができるように網羅的に含めることを心がけました。
『パタン・セオリー』を読んだ後は、もちろんアレグザンダーの他の著作に触れてほしいですし、それ以外に参考文献に挙げた様々な文献を、気になるところから選んで読み進めていただきたいです。
終わりに
4つのポイントでパタン・セオリーを紹介してみました。ページ数的には比較的薄い本ですが、中身はとても濃いので、是非お手にとって読んでみてください。
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