立派な恵方巻にかぶりつけなくなった話
正直,僕が1番おどろいてる。
こんなことになるなんて。
よりによって,こんな日に。
先日妻から,よくお世話になっている近所のお魚屋さんで,恵方巻を予約したという報告を受けた。
だから今日は,美味しい恵方巻にかぶりつくのを夢見ながら,仕事を頑張った。
仕事が終わって,予約をしていた歯医者に寄った。
いつも通りの治療のつもりで,席に着いた。
どうやら僕の歯の1本は,神経の通り道が曲がっているとかで,
前回の診察の時に,次は「外科的に処置しますね」と言われていた。
そして今回も。
「じゃあ,前回のところ外科的に処置していきます。」
という説明を受けて席に着いた。
17時30分。
1時間後には,恵方巻,食べられるかな。
席について,顔にタオルをかけてもらう。
「じゃあ,麻酔打ちますねぇ。」
「はい。口ゆすいでください。」
「じゃあ,麻酔足していきますねぇ。」
(麻酔…足す?…)
その記憶を最後に,
僕の意識は朦朧として,そのまま寝てしまったようだった。
糸のようなものが肌に触れる感覚とともに,目が覚めた。
これは,なんだ?
糸だ。糸に違いない。
でも,ここは歯医者だ。なぜ糸が…
チクチクする。
「針,ここに置いておくね。あ、いや大丈夫。そっちお願い。」
耳元で歯医者さんの声が聞こえる。
(針…)
意識が徐々にはっきりしてくる。
どうやら,麻酔が切れてきたようだ。
痛ぇ!
痛ぇ!
痛ぇ!
寝ている間に,僕は歯ぐきを「外科的に」切開されて処置されていた。
そして傷口は,黒い糸で,縫い合わされている。
先生の説明を受ける。
いろいろ話をされるが,さっぱり頭に入ってこない。
寝ぼけていてボーっとしているのもあるし,
何より・・・痛い!
覚えているのは,
「傷口には触らないこと。うがいしすぎないこと。歯磨きは傷口を避けること。」
でも,よく分からない状態で,歯医者を出た。
車の中で,つばを飲み込む。
(これは…血の味…しかしない…。)
途中,コンビニでトイレを借りる。
手を洗って,つばを吐きだす。
(真っ赤!)
それでも何とか,家に帰ってきた。
机の上には,そう。立派な恵方巻。
あんなに楽しみだった,立派な恵方巻。
冷静に考えれば,今の僕の口では,
かぶりつくどころか,噛むこともままならない。
それでも,僕は諦めなかった。
血の味のにじむ,立派な恵方巻を,一生懸命咀嚼した。
痛みを感じても,噛むのをやめなかった。
そして今……出血が止まらない。
さて,明日はセブンの恵方巻だ。
僕の両親は,セブンイレブンを家族経営している。
そんな両親からの贈り物なのだから,
味わって食べようと思います。