ぬいぐるみの話
我が家には大量のぬいぐるみがいる。ほとんどは水族館や動物園に行った時にお土産ショップで買ってもらったもので、そしてその全てにはきちんと名前がついていた。ぬいぐるみに名前をつけるのが一般的なのかどうかは分からないけれど、少なくとも私は家にいる全てのぬいぐるみの名前を今でもちゃんと覚えている。
自分が覚えている中で一番古いぬいぐるみは、初めて行った動物園で買ってもらった小さいキリンのぬいぐるみ。当時四歳だった私がそのキリンにつけた名前は「ののか」だった。「のんびり」とか「のっぽ」とか、とにかく「の」という文字はキリンに似合う、と考えていたんだろうなと思う。今でもその感覚は持ち合わせているから、もしかしたら私の感性は四歳の頃からあんまり成長していないのかもしれない。同じ日に水色のゾウのぬいぐるみを買ってもらった弟は「ぱおぱお」と名前をつけていた。
ののかとぱおぱおが家に来てからも、数年に一度のペースでぬいぐるみは増え続けた。カメのミント、クジラのオーロラ、カモメのモモ、ペンギンのペン太、クマのブラウニー、etcetc。安直なものもあればかなり凝ったイメージの名前もあって、幼い頃から私は名前を考えるのが好きだったんだな、としみじみしてしまう。ニトリで欲しい欲しいと泣き叫んで買ってもらった犬のぬいぐるみには「毛布みたいにふわふわだから」という理由で「もふちゃん」と名前をつけて、本物の子犬のように本気で可愛がった。今年の夏に行った旭山動物園ではレッサーパンダとシロフクロウのぬいぐるみを買って、妹と一緒に考えた名前は「アサヒ」と「ヤマ」だった。安直すぎる。
名前をつけられたぬいぐるみたちは、しかし綺麗に飾られたり遊ばれたりすることはなく、今は私の部屋のクローゼットにおもちゃ箱ごと突っ込まれている。弟や妹が小さい頃はごっこ遊びをしたりもしていたけれど、最近ではすっかりそんなことも無くなった。
しばらく外に出していないぬいぐるみたちのことをふと思い出したのは、多分、もうすぐこの部屋が私のものでは無くなることを考えていたからだと思う。半年も経たないうちに私はこの家を出てひとりで暮らすことになるけれど、その時にぬいぐるみたちを連れて行ったら少しはさみしくないかなあ、と思った。大量のぬいぐるみたちに囲まれてぬくぬくで眠りたい。なんとなく、ちょっといい夢が見れる気がする。