「権利証」、コピーでも良い場合ってあるの?
「大事な書類だと言ってたから、家に置いてきたよ。」
私のご説明不足でした、、、
不動産売買契約の決済のとき(=最終代金の支払いと、所有権移転登記申請)は、売主さんに
①不動産の権利証
②不動産の固定資産税評価証明書
③印鑑証明書
④運転免許証などの身分証明証
⑤実印
をご用意していただきます。
決済当日、これらのものが揃っていないと決済はできません。
不動産の売却経験のある方ならば、書面で「以下の書類を持ってきてください」のご案内ですませてしまいます。
でも、今回の土地の売主さんは土地を売却することは初めての体験で、更にかなりのご高齢の方です。
念のために決済の10日ほど前にご自宅にお伺いして必要書類の確認をさせていただくことにしました。
その時に確認することは、
□固定資産税評価証明書は決済当日有効なものかどうか?(年度を跨ぐような場合には注意します。)
□印鑑証明書は決済当日から数えて3ヶ月以内のものかどうか?
□権利証のご用意はできているか?
このうち、一番気をつけて見なければならないのは権利証の有無です。
ご本人が「権利証だよ」と仰っている書類が権利証ではない場合があるからです。
実は、「権利証」と書かれている公的な書類がある訳ではありません。
「自分がこの不動産の所有権者です」と主張しているその人(通常は売買契約の売主なので、今後「売主」と記載します)が、本当に所有者であることを証明するための書類のことを一般に「権利証」と呼んでいるのであって「権利証」という書類がある訳ではないのです。
「権利証」と呼ばれる書類には2種類あります。
①登記済証
法務局に所有権移転登記申請書を提出すると、法務局はその申請が有効であるかを確認した上で、「登記済」の捺印と受付年月日・受付番号を記載して申請者に交付してくれます。いわゆる古いタイプの権利証であり、この登記済証という紙が権利証になります。
②登記識別情報
不動産登記法が新しくなって、権利証は①ではなく、この登記識別情報になりました。
所有権移転登記を申請すると、法務局からは「登記識別情報」と記載されたA4の書面1枚が交付されます。
その書類には不規則な文字列で構成された登記識別情報が記載され、目隠しによって見られないようになっています。
登記識別情報という情報が権利証ということになるのです。
更にややこしいことに、今は有効な権利証であっても、その権利が移転してしまうと権利証では無くなってしまいます。
なので、不動産に不慣れな方にとっては、その書類が有効な権利証であるかを判別するのは難しかったりします。
有効な権利証であるかどうか、はその権利証を見るだけでは判別できません。最新の全部事項証明書(登記簿)と照らし合わせることによって判断します。
全部事項証明書の「権利部(甲区)」には所有権者が誰か、という情報が記載されています。そこに書かれている所有権者と、売主と主張している人が一致しているか、を確認しなければならないのです。
具体的には、全部事項証明書上の「登記の目的」、「受付年月日・受付番号」、「権利者その他の事項」欄に記載されている最新の事項が、権利証に記載されている事項と一致しているかどうかを確認することによって判別します。
今回の場合、権利証の記載は訪問当日に取得した登記情報と一致していたので、有効な権利証があることを確認することができました。
まずは一安心です。
「この権利証は大事なものですから、当日決済の場所に持ってきてくださいね。」
とお願いしてその日は帰りました。
今回の権利証は①登済証のタイプでした。
このタイプの場合、この登記済証を、それに所有者と記載されている人自身が保有していること、が所有権者であることの証になります。
今回のように、不動産の所有権移転登記を申請する場合、法務局には原本そのものを提出します。
決済の場所で司法書士に原本を渡せなければ、不動産移転登記申請はできません。(=その場では売買契約の決済ができません。ただ、事前に権利証が無いことが分かっていれば対処することはできます。)
今回の場合、私が「大事なもの」と言ってしまったので、売主様は「ならば大事に家に置いておこう」と思ってしまったらしく、
「大事な原本は家から持ち出さないでコピーを持ってきたよ!」
ちなみに、もしも今回の権利証のタイプが②登記識別情報だった場合はコピーを持ってきてもらえればOKだったりします。
登記識別情報は法務局のデータベースに登録されており、この登記識別情報を知っていること自体が所有権者であることの証になります。
なので、大事なのは登記識別情報という情報であり、「原本」という概念はないことになります。
法務局に所有権移転登記申請するときは、登記識別情報通知書の目隠を剥がして、そこに書かれた登記識別情報を記載した紙を添付すればよいことになっています。(実務上は登記識別情報通知書のコピーを添付します)
登記識別情報通知書を家に置いてきてしまったような場合も、家の人に電話でその番号を教えて貰えれば登記をすすめることができます。
ただ、今回はそうはいきません。
今回の「権利証」は①なので、コピーではダメな場合です。
「すみません!権利証取りに帰りましょう!」
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