ブックレビュー「NETFLIX の最強人事戦略 自由と責任の文化を築く」
一時サブスク契約の急減に悩まされたNetflixだが、広告付きプランが3割増と好調で4~6月期は売上高ペースで過去最高を更新、44%増益、と報じられている。
本書は元々2009年にNetflixの共同創業者・会長兼CEOのReed Hastingsが”Netflix Culture:Freedom and Responsibility”と題したSlide Deckを外部にも公開したことを端に発して、それに関する多くの質問を受けたことに応えて同社のCTO(”Chief Talent Officer”)だったPatty McCordが書いた本だ。
発表当時このSlide Deckは評判で、特に冒頭の三枚が強烈だった。
この部分は、Mission/Vision/Valueを掲げるだけではダメで企業トップがそれを自ら実践することが不可欠である、ことを説明する際によく引用させてもらった。
今回本書を読んでみるとその実践の厳しさを改めて認識した。本書に書かれているNetflixが築こうとした文化("Seven Aspects of our Culture")とは次のようなものである。
Slide deckのタイトルにある通り、まずは自由を重んじるがそこには責任が伴うことを皆が自覚する必要がある。このためには率直な情報提供を繰り返し、人事考課やPIP(業績改善計画)のような従来型の人事制度は極力スクラップし、また自律性を重んじるため出張旅費や経費予算、報酬予算も定めない。
High Performerで構成するTeamを築くことこそがLeaderの最大の責務であり、このためには市場最高の報酬を迷いなくOfferする。育成は素晴らしいが、その時間的余裕が無いのであれば、現有戦力を置き換えてでも外部から優秀な人材を採用する。
NetflixではHigh Performerと一緒に仕事ができるので成長機会はたくさんあるが、決して終生務めるような企業にしようとは思っていない。本書の著者であるPatty McCord自体も組織を去っている。
上記価値観を実践するには、これまで多くの企業が依存してきた制度やシステムにも疑問を呈し、実験を繰り返してシンプルで効率的なものにUpdateしていく。EngagementやEnpowermentといった概念すら否定する。成功に貢献できればMotivationは上がるはずだし、自由を重んじれば上から目線のEnpowermentもありえない。
Slide deckが発表されてから15年が経過するが、未だに斬新さを感じる最大の理由は、Netflixでは経営理念を実践するというトップの信念に揺るぎが無いのに対して、多く日本の企業では社員は家族であり、社内政治や退職者の圧力から最大公約数的な意思決定に終始してしまうからだろう。
そこでは率直な物言いは影を潜め、議論は活発に行われず、頻繁な働きぶりに対するフィードバックも、組織から去っていく人材に対しての率直なコミュニケーションも無い。この結果、組織から去っていく人材自身も納得感が無く、その会社で働いたことを誇れるようにはならない。
ある意味でNetflixが行なっていることは日本の大企業の対極にある姿とも言える。今のチームがこの先必要なチームになると期待するのでは無く、ノスタルジアを捨て、6ヶ月先に「史上最高のチームを指揮」している姿を描くということを実践している。
日本の大企業組織全体でこれを実践するのは事実上難しいだろう。できるとしたら「出島」的な組織の一部になるだろうが、その際に強い信念を持ったリーダーが必要だ。そうで無ければ、仕掛けた黒子たる人は、Scapegoatになってしまうだろう。
そう、強い信念を持ったリーダーの存在が、発表から15年経過してもNetflixの組織文化が模倣できない最大の理由なのである。
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