ブックレビュー「東京四次元紀行」
今年の6月24日に65歳で亡くなったコラムニスト小田嶋隆氏の最初で最後の小説である。
あとがきでは、彼が小説を書くきっかけを自ら次のように語っている。
元々コラムニストとしてその筆力が卓越していた小田嶋氏だが、果たして初小説はどのようなものになるのか。そういう興味を持って手にしてみた。
本書は32編の短編から成り立っている。そしてその短編はすべてが東京の特定の場所をモチーフとしており、登場する場所はすべて異なる。各短編の内容は必ずしも排他的では無く、一部登場人物が引き継がれることもある。
関連する登場人物が出てこようが出てこまいが、それぞれのテーマは異なり、子気味良いリズム感を持っている。まるで一つの統一したコンセプトで製作されたオムニバスアルバムに収録されたジャンルの異なる曲群のようだ。
面白いことに男の登場人物は総じて寡黙だがキレると暴力を振るい、大企業の歯車になる人生を嫌っている。女は美貌だが口のききようが高飛車だ。男女とも親との関係は既に冷めている。関連する短編では、時空を自由に駆け巡り、その結果何十年ぶりかに友人達に会うことがあるが、相手の様子は昔とは大違いで、しかも自分の覚えている記憶と相手の本音とが大違いであることがわかる。彼らとは再び会うことは無い。そして多くの男はアルコール依存症で最後に死ぬ。
こういうキャラクターが登場する34編を読むのは決して楽しくは無い。ハッピーエンドな結末は一つも無い。だがそのおかげだろうか、読者に強烈にアピールするものがある。
こういった小説を過去にも読んだことがあるな、と既視感を持って考えてみると、今年の3月に亡くなった松村雄策の作品と似ているような気がする。両名とも同じ東京生まれで、ロック・ミュージックをこよなく愛していた。
共にロックを体現した人の作品だから共通点があるのかもしれない。
小田嶋氏はあとがきの中で小説について次のようにも語っている。
そうか、小説というのは作曲家が作曲するのと同じような感覚なのかもしれないな。作詞も作曲も小説も作ったことが無いけど、楽しいのであればやってみる価値があるかもしれない。折角書くのであればロックを体現したものがいい。
また一つ余生の楽しみが増えた。
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