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展覧会 #01 生誕120年 安井仲治 僕の大切な写真@東京ステーションギャラリー

美術館入口

3月上旬、東京ステーションギャラリーを訪れた。
安井仲治(1903年~1942年)は18歳で関西の名門・浪華写真俱楽部に入会してから38歳という若さで病没するまでの約20年という短い期間に多彩な作品を発表した。


絵画のような質感

1920年代の作品は「ピグメント印画法」という、印画の際に顔料を調整しながらイメージを生み出したり、不要な部分を取り除く技法が採用されていて、まるで精緻な風景画を見ているような独特の雰囲気の作品だった。
ソフトフォーカスで捉えた都市の風景は繊細な陰影がとても美しくて、写真であり絵画でもあり、その絶妙なバランスが素晴らしい。

眩しい日差しと陰影の効果

建設現場の労働者が行き交う地面や海辺で遊ぶ子供たちのいる岩場は、日中の強い日差しを受け、照り返しとともに周囲に深い陰影を生み出している。見ていると思わず目を細めてしまいたくなるような日差しの強さを感じた。
また、日差しのもとで作業する漁師に網の影が重なり、着物の模様のように見えたり、室内に置かれた無地の花器にカーテンの模様が映っているさまなど、自然の光が作り出すコラージュのような効果を捉えた写真がとても面白い。逆光に照らされた工事現場の鉄塔の硬質な陰影も印象深い。

影のかたちと見立て

今回好きな作品のひとつは「斧と鎌」(1931年)で、階段状の場所に並んで置かれた斧と鎌がくっきりとした影を作っている。そのジグザグ模様の影が斧と鎌と一体となり、離れがたい結びつきを持っている。その存在感の強さがとても印象的だった。

そしてもうひとつ心惹かれた作品は「帽子」(1936年)。立てかけた流木に帽子が被せてあり、作家の意図は分からないけれど、自分には流木を人に見立てているように思えて、高台から景色を眺めている人物の後ろ姿を見ているようで面白い。

100年前の日常風景

今から100年ほど前、1920年代~1930年代初めの日常の風景。
ワンピース姿の女の子、短パンにランニングシャツの男の子の姿があるかと思うと、普段着で着物を着ている子供の姿があったり、袴と帽子の組み合わせなど、洋装が取り入れられる過渡期の時代の人々の装いに目を引かれた。着物に関しては、家の前に洗い張りをした板が立てかけてあったり、染め物店の看板など、日常に着物があった時代の風物を垣間見られる作品が面白かった。

展覧会について

冒頭でも触れたとおり、約20年という期間に実に多彩な表現を探求した作家だった。所々にキャプションとともに安井自身が作品について述べている文章が添えられていていたのが良かった。当時の心境や制作について語る言葉が自分と作品の架け橋となって、作品に親しみ易くなった。
そういう展示の工夫があることでより深く作品を楽しむことができる。地味だけれど大事なことだと思う。

美術館について

重要文化財でもある東京駅舎内にある美術館。煉瓦壁の展示室もあり、展示室を繋ぐ螺旋階段のステンドグラスとシャンデリアがとても素敵。
ミュージアムショップで鉄道関連のオリジナルグッズが購入できるのもこの美術館の特徴。

シャンデリアとステンドグラス

展覧会Data

「生誕120年 安井仲治 僕の大切な写真」
2024年2月23日(金・祝日)~4月14日(日)
東京ステーションギャラリー
東京都千代田区丸の内1-9-1
JR東京駅 丸の内北口 改札前

https://www.ejrcf.or.jp/gallery/index.asp

[2024-001]

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