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ふん。てめえの月かよ

武器は「書く」だけだった。

独立し、フリーランスになった時。

「筆一本で立つ」という言い回しがあるが、まさに。

勉強会の案内も、クライアントさんが「じゃ、あいつにコンサルティング頼んでみようか」と思うのも、すべてはぼくが書いたものが起点だ。

あらためて、「書く」って何だろう。

JOYWOWオフィス。いまこれを書いているのもここです

「この写真について、書いてください」と出題されたら、何を書きますか?

机があります。長いです。椅子が5脚あります。うち一つはタイプが別のものです。机の奥に植物たちと何かが置いてあります。机の真ん中に割れ目があります・・・

これでは「書く」とは言えない。業務連絡だ。でも、「業務連絡」メルマガ、ブログ、SNS投稿、かなり多いよ。

ぼくなら、こう書く。

BLACKPINKとはミーティングできるが、BE:FIRSTとはできない。

ミッキーさん、ミニーちゃんが右の椅子に。
左の3つには、そうやね。ドナルドさん、グーフィー、プルート。あ。くまのプーさんの席がない。プルート呼ばなくていいか(こういうところに出るプルートの位置)。

あれだけ狭いと思ってたのに、みんな辞めてしまったいまあらためて見ると、広いもんだね。

わしら、なんでこんな奥なん?

「ただの物体」としての机、椅子、そして植物たちを主役にし、文脈をつくる。ストーリーを生み出す。ストーリーが、スケッチ(描写)に生命を吹き込む。

ぼくがいつも勉強している文章の達人・浅田次郎さん『ライムライト』(天切り松闇がたり第五巻)、こんな文章がある。

「やれやれ。とんだ恥をかいちまった。それにしても、いい月ですなあ」
車掌は立ち上がると、照れ隠しのように風流を言った。熟れた柿の実の色のお月様は、相変わらず近付きも遠ざかりもせずに、品川あたりの海の上に浮かんでいた。
おにいさんが鼻で嗤(わら)った。
「ふん。てめえの月かよ」

浅田次郎『ライムライト』内「月光値千金」

ふん。てめえの月かよ

なんともにくい。その前、「おにいさん」があることやってるんです。時代は今ほど明るくない。電力も足りないし、電飾技術もない。天涯孤独の少女がいる。それでも、輝く。おにいさんの心意気で。

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