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地図を創る(mapmaker)

地図のない時代だ。

高度経済成長時代は、あった。
目指すものがはっきりしてた。
そこへの道はわかりやすく、みんな一斉に同じ道を歩いた。

ところが、いまは、ない。経済は成熟し、買わなくていい時代にビジネスしなきゃいけない不条理な環境だ。ビジネスって、売ってナンボなのに。

また、会社側も、システムやデジタルを入れる。人はどんどんマシンやAIに置換されていく。

当の「人」も、画面ばかり見てる。
画面に出てくるのは誰かの過去だ。You Tube、インスタ、Tik Tok、すべて自分ではない誰かの過去の記録。

収入は上がらない(インフレでむしろ実質収入は下がってる)、生きる目標が見つけにくい。

仕事や生きることの手応えが得にくい。

画面は「チャンネル登録者数」「いいねの数」「リツイート数」で出来てる。それらは自分とはつながってない。人間が作り出したまったくの幻想だ。画面ばかり見てても、実はそこわかってるから満たされることはない。

ポールは、この本を2つのまったく違うグループに向けて書いた。

第一は、大企業に勤務している人(あるいは、過去勤務したことのある人)のグループ。

ぼく自身が「過去勤務したことのある人」として、読んだ。最初に翻訳した2004年の頃は独立してまだ4年だから、大企業のしっぽが残ってた。

大企業にお勤めの人は、しんどい時代だと思う。地図がない。
一連のこの事件は、大企業に地図がないことをも示している。

日経デジタル版より

自動車といえば、日本の代表的なお家芸なんだけど、それが転んだ。

大企業に勤務し、あるいは過去勤務したことのある人ならわかるけど、「自分で自由に地図を描きたい」という「自由」への渇望は大きいはず。
マップメーカーになりたいが、でも、同時に不安もある。

大企業の手厚い福利厚生と同様のものを自分は用意できるのか?

ぼくが旭化成を辞めるとき、思ったのはこれだ。

でも、「できる」「できない」ということと、「独立し、自由を手に入れる」ということとは、科目が違う、そんな気がした。だから見ないふりした(笑)

ポールが想定している第二のグループは、学生、アーティスト、活動家。自分のキャリアはこのままではいけない。何かしたい。でも、それを表現する適切な手段が見つからない、そんな人々。
このタイプの人々は、自分を表現したりチャレンジすることなしに人生を送るなど考えられない。

意義ある人生のためにはリスクをとることも厭わない。動機は違うにせよ、両グループの前に伸びている道は同じだ。

つまり、言い換えると、自分で自分の歩く地図を創る

考えてみれば、ぼくもそうだ。
お客さんゼロ、お金ゼロ、ニューヨークで会社を起こした。
「前例」なんて、ない。もちろん、ロールモデルなどない。

転びながら、傷つきながら、地図創ってきた。今も創ってる。

成瀬がいま流行し、多くの読者に支持されているのは、彼女がマップメーカーだから。

面白いことに、「成瀬がダメ、どこが面白いのかわからない」という人に共通しているのに「エスタブリッシュメント好き」がある。

「成瀬買うなら『ユニクロ』買うわ」

と、ビジネス書棚へまっしぐら。

既存の権威や地図が好きな人は、成瀬と話が合わない。

成瀬は、自分で自分の地図を創る。
世間常識は無視。
そうすると傍からは
「人生におけるすべてのガチャで大当たりを引き続けている」
ように見える。
そう見えるだけで、成瀬は自分の道を行っているだけなのだが。

京大生になった成瀬は、次の目標を見つけた(*)。

「これから四年かけて京都を極めたい」

極める、というが、別にSNSで発信し「いいね」を増やしたいわけではない。

こういう、SNSの「いいね」を期待しない言動こそが、成瀬のマップメーカーたるゆえんだ。

「マップメーカーになる」「SNSは幻想」「『いいね』は腹の足しにもならない」という姿勢が、大事だと思います。

では、今日は、これから海へ行きます。泳ぐんじゃなく、アーシング(earthing)。ちょっと電源オフにしてきます。

*やすらぎハムエッグ、月刊小説新潮5月号所収

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