『ダンスフロア』
ダンスフロア。
人影はまだまばらだ。
角のテーブルで瓶を手に揺れる若い奴ら。
盛り上がるのはもっと遅い時間だ。
客が増えてフロアをひしめく男女。
ブロンドの外国人も多く国際色豊かだ。
その人波の奥に君の姿を見つけたけど、
声をかけなかった。
思い思いがそれぞれに
好きなようにやれば。
誰かが傷ついて、
片方は知らん顔。
それが世の常、人の常。
君の姿を、
本当は見つけたけど
声をかけなかった、
それで良かった、と言い聞かせた。
ある日道端を歩いていると
洒落たカフェが軒先に飾っている鉢植えに綺麗な花が咲いている。
でも、僕はその花の名前も知らない。見たことはあるのかもしれない。
水をあげて、僕のこの手で、へし折ってやりたい。
急にそんな無邪気な憎しみが込み上げる。
そっと そっと 愛でるように、撫でて、水をあげて。
そっと 壊したい。ぐちゃぐちゃに、その土から根っこごと抜き上げて。
まるで、その花に誰かの姿を重ねた僕は心の中で呟く。
逃げて 逃げて 思い切り。
早く逃げて 傷つけちゃう、壊しちゃうから。
誰にともなく、自分の心の中でそう呟く。
またとある日のダンスフロア。
”明日の朝は早起きする約束、
したのをちゃんと覚えてるかい?”
ここへ来る前にちゃんとそう決めただろう?
「まだ帰りたくない」
”このまま朝になればいい。”
結局、飲んだらそう思い始めて、今宵も終わりさ。
自分との約束なんて、そうしてすぐ忘れる。
道端のあの花だって、腰を揺らして踊るあの子だって、
ましてや人波の奥で楽しそうにしていた君だって。
綺麗に見えるのは、ただ名前や中身を知らないから。
一度やればこんなものか、と 興味も色褪せるんだ。
興味?性欲?なんだかもうわからないけど。なんなんだか。
壊そう、こんな関係はもう壊そう。
それとも、どうでもいい?
壊そう、こんな関係は。どうでもいい?
もう、どうでもいい。
「ごめん」ってそう言うことになる日が来るのは心外だ。
君を欲しがってた 、僕が欲しがってたはずなんだけど。
誰だって、僕らはきっと 卑しい奴になる、そんな日が来て、
いつか 裏切って手放して イイヒトでいることも諦めて。
ある時立ち止まって、僕らは 「だってまだやれるから」って 泣き出して。
気づいたら 取り返しのつかない 朝を迎えてた。
もう朝だ。
君がいてくれた事はそう。奇跡だったって思ったって。
今ここに君はもういなくて、馬鹿な俺だから。僕だから。
旅立って「いつかは」なんて、終着点はまだ見えなくて、
ひとりで踊り終わった後は、どこへ行くんだろう?どこ行くの。
ただこの音楽を止めないで!
居場所も行き先もどこにもないけど。
こうしていることも無駄な時間なのかも。
それでも、こうして踊っている間だけでも、
君が僕だけのものかどうかなんて気にせずにいられるから。