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足立正生『REVOLUTION+1』 / コゴナダ『コロンバス』
※各作品の画像は公式サイト・ニュースサイトより転載
《Day Critique》140
足立正生監督作
『REVOLUTION+1』(2022)
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安倍晋三銃撃事件の犯人・山上徹也を描いた劇映画。9月に行われた安倍の国葬儀に合わせて暫定版が上映されたが、このたび完成版を公開。私は運良く、足立正生の盟友である若松孝二が名古屋に作ったミニシアター、シネマスコーレで鑑賞できた。
作中では山上の行為と70年代の新左翼のテロが重ね合わされるなど、足立による肉付けはあるものの、実際に山上が育った環境や事件に至る歩みを追う内容は重く切実だ。しかし銃撃の翌月にはクランクインし、9月27日の国葬の日に暫定版を公開したという勢いをそのままパッケージしたようなフレッシュなタッチで、意外にも痛快なエンターテインメントになっていた。
まず山上(劇中では「川上」)を演じるタモト清嵐のモノローグがいい。銃撃事件前、狭いアパートの一室でコンテンポラリーダンスのようなものを踊るシーンは『ジョーカー』のホアキン・フェニックスを思わせる(実際に山上が『ジョーカー』に強いこだわりを示していたことから、このシーンを作ったのか)。彼の心象風景を示すように画面にかぶさる雨や、何度も繰り返される大友良英のノイジーなテーマが映画のトーンを決定している。低予算であることを隠しきれない映像も、むしろ足立らスタッフの躍動を伝えていい。
自殺した山上徹也の父は、「オリオンの星になる」と言ってテルアビブ乱射事件を起こした安田安之と京大時代の麻雀仲間だったそうだ。そのつながりから、足立は「川上」に「俺も星になる」と何度も言わせる。さらにシングルマザー、宗教二世、派遣労働といった現代社会の諸問題をまとめて糾弾していく。もっともこれは足立の勝手な肉付けではなく、実際に山上が置かれていた状況なのだが。その点で山上の人生は足立のような政権批判者にとっては格好の題材であり、本物のテロリストである足立が山上に強い「連帯」を感じたのも肯ける。
映画の中で「俺も星になる。なんの星かはわからないけど」と語って安倍を撃った「川上」は、ラストで「俺は星に向かって歩いている」と独白する。彼は安倍への私怨を晴らして星になったわけではなく、今やっと星に向かって――本当の自分の人生に向かって歩き始めたのだ。とても爽やかな余韻が残るラストだった。
(2022年12月28日記)
《Day Critique》153
コゴナダ監督作
『コロンバス』(2017)
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韓国系アメリカ人監督・コゴナダの初長編作。コゴナダという監督名は、敬愛する小津安二郎との仕事で知られる脚本家・野田高梧からとったとのこと。
コロンバスはアメリカのインディアナ州に実在する都市で、人口4万人にも満たない規模ながら近代建築の傑作が立ち並ぶ建築の街である。物語は、講演のためにここを訪れた著名な建築学者が倒れて入院するところから始まる。
主人公はこの街で生まれ育った建築好きの少女。学者の講演を楽しみにしていた彼女は、その息子の韓国人男性と知り合う。元薬物中毒の母と自らの将来の間で悩んでいる少女と、仕事に誇りを感じられず父へのわだかまりも抱えた男は、不在の学者に導かれるようにしてコロンバスの建築を巡っていく。
すべてのショットが美しい建物を内外から捉えた本作の映像は、一般的な映画の語り口としては特殊である。説明を省いた導入もあいまって、序盤は人物よりもカッコいい建物やおしゃれな内装に目を奪われる。しかし教授の本に書かれていた「建築には人を癒す力がある」という言葉が引かれてから、少女と男の内面がグッと浮かび上がってくる。
建築の街であるコロンバスでは、どこにいてもふたりは建物に包まれているようだ。コロンバスの名建築を何度も訪れるふたりは、やがて心を解きほぐされ、新しい道、新しい生き方へと踏み出していく。歳の離れた少女と男の関係は淡い恋愛のような微妙な距離感を保っているが、ふたりが最後に交わす感謝の言葉はとても清々しい。
(2023年3月10日記)