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雨のウェンズデイ

壊れかけたワーゲンの
ボンネットに腰かけて
何か少し喋りなよ
静かすぎるから

海が見たいわって言い出したのは君の方さ
降る雨は菫色 Tシャツも濡れたまま
wow wow Wednesday


 大学を卒業して、大学院に行こうか迷って、まずは広島大学の研究生として勉強していた頃のこと。いわゆる花の女子大生、聖子ちゃんカットでフリフリワンピースの私は、真面目に勉強していたにもかかわらず、周りから浮いていた。そんな時、浪人して広島大学に入学していた高校の同級生のY君に出会った。実は、彼には既に年下の彼女がいた。私もそれは知っていたけれども、気にならなかった。恋というよりも、大学で異邦人だった私は、誰でも良いからそばにいてくれる人が欲しかっただけかもしれない。
 男って面白い。キャンパス内では付き合っていることを秘密にしてと頼まれた。彼女がいるのに、二股かけてるって思われたくないって。もしかしたら、私の方を本当は好きなのかもしれないけれど、乗り換えるわけにはいかないと。その理由は、彼女は日赤の看護師で、私は病院長の娘だからと。つまり、資産がある方を選んだとかんぐられると、狡い男みたいだからと。お嬢の私がエプロンをつけてアパートの台所で「お帰りなさい」と言う姿も想像できないと。何も気にならなかった。やはり恋ではなかったのだと思う。
 大学から少し離れたボラボラというパスタハウスでランチして、近くの公園のベンチで川を見ながらおしゃべりした。水曜日はなぜだか雨降りが多くて、あいあい傘をしてベンチに腰掛け、「雨のウェンズデイ」を口ずさんだ。上田正樹の「悲しい色やね」を、彼が突然歌いだしたことがあった。「泣いたらあかん泣いたら‥」のところで、涙ぐんでいた。私たちはそれからまもなく別れた。卒業後、彼は実家の尾道に帰って、彼女と結婚した。雨降りの水曜日には、彼のことをふっと思い出す。

https://youtu.be/O70Ebd0cODg?si=eqx2uzxHTKKoPVZt




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