百年
「百年」が気になって仕方がない。夏目漱石の『夢十夜』の『第一夜』が好きで、それから最近「人生百年時代」と言われている二つのことが、私の心の裡で反響しあっている気がする。
『第一夜』の女の不思議な言葉、
「死んだら、埋めて下さい。大きな真珠貝で穴を掘って。そうして天から落ちて来る星の破片を墓標に置いて下さい。そうして墓の傍に待っていて下さい。また逢いに来ますから」
自分は、いつ逢いに来るかねと聞いた。(中略)
「百年待っていて下さい」と思い切った声で云った。
「百年、私の墓の傍に坐って待っていて下さい。きっと逢いに来ますから」
(夏目漱石『夢十夜』部分)
百年が気になって仕方がなく、詩にもつい書いてしまいました。
囀り
橘しのぶ
靴は歩いていた
たそがれの鉄路のほとりだった
少し前を行く人がいて
等間隔を保っていたから
ストーカーに見えたかもしれない
一途に歩いているだけだった
どこかに行きたいとか
だれそれに会いたいとか
考えたことすらない
少し前を行く人がいて
等間隔を保っていたから
目には見えない糸に
引かれていたのかもしれない
茨であろうが蛇腹であろうが
転ばず一途に歩いていた
もうじき日が暮れる
等間隔を乱してはならない
と、誰に教わったのだろう
少し前を行く人が立ち止まって
ピースの煙を燻らしはじめたとき
赤いエナメル22cmの
靴は烈しく咳こんだ
たかがグリコのおまけみたいな男じゃないか
百年待っても後悔しないか
廃線になった駅のホームで
小鳥は囀りをやめない
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