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水栽培の猫誕生秘話1

 私の四番目の詩集『水栽培の猫』(思潮社)が第32回萩原朔太郎賞最終候補に選ばれましたこと、今でも夢のように感じています。今年度の最終候補詩集は私を含めて6冊。その中で最果タヒさんの『恋と誤解された夕焼け』(新潮社)が受賞作として選ばれました。『水栽培の猫』のために栞文を書いてくださった野木京子さんの『廃屋の月』(書肆子午線)も最終候補にノミネートされていました。野木京子さんは、中国新聞の詩壇の選者で、私の敬愛してやまない詩人のお一人です。お互いが候補になったことを知って戸惑っている私を「同級生ね」と励ましてくださった優しさは、一生忘れません。
 萩原朔太郎賞とは、Wikipediaによりますと「前橋市が1993年より同市出身の詩人萩原朔太郎にちなんで設けた文学賞で、前橋市と〈萩原朔太郎賞の会〉が主催、新潮社が協力」。第一回は、谷川俊太郎さん『世間知ラズ』が受賞。第三回は私の詩神、吉原幸子さんの最後の詩集『発光』が選ばれました。誰もが歌ったことのある「ぞうさん」を書いた、まど・みちおさんも第12回の候補者のお一人です。昨年度は杉本真維子さんの『皆神山』です。何度読み返したかわからないくらい好きな詩集でした。ということで、今回私の詩集がノミネートされたお知らせを手にしたときには、嬉しいというよりは驚きで号泣しました。自分とは無縁の世界だと思っていました。
 私と朔太郎の出会いは、広大附属中学二年生の時です。担任でもある国語科の足立悦男先生が詩の研究をなさっていた関係で、ほぼ一学期間、グループ学習の形式で萩原朔太郎の詩を勉強したと記憶しています。とはいえ夢見がちな少女であった私は、朔太郎の湿度の高い、臭うような感性が苦手でした。反発するように中原中也や立原道造の詩を読みあさるようになりました。ただ、今回、最終候補に選ばれて朔太郎の詩や詩論を読み返しましたら、目から鱗が落ちるようにその魅力にとり憑かれてしまったのです。私の若い頃の詩は抒情的でしたが、年を経るに連れてシュールレアリスムの傾向が強くなり、そういう意味で朔太郎の世界に非常に近しいものを感じています。非現実的な動物が物怖じせずに登場するのも彼と私の詩に共通する部分です。つまり、今回候補に選んで頂いたのは、私に朔太郎の魅力を再認識させるための、神様の計らいであったと気が付いた次第です。

11月24日、広島県詩人協会主催秋の詩祭の講演のためために書いています。

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