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【ソシガヤ格闘記】突撃!ごはんから始まるコミュニティ──僕はヨネスケになりたい
『小澤隆生 凡人の事業論』を、販売当日から繰り返し読んでいる。
小澤隆生氏は、日本のビジネス界で数々の成功を収めてきた経済人だ。CSK(現SCSK)からキャリアをスタートし、ビズシークを立ち上げて楽天へ売却。楽天イーグルスの創設に関わり、PayPayの立ち上げを主導するなど、大企業とスタートアップの両方で実績を積んできた。現在はベンチャーキャピタリストとして、多くの起業家を支援している。
その小澤氏が著した『凡人の事業論』には、「特別な才能や資金がなくても、シンプルな手順を踏めば大きな成果を出せる」という力強いメッセージが詰まっている。まずは何を成し遂げれば合格か(“51点ライン”)を明確にし、数ある施策から“センターピン”となる最重要要素を見極める。そして小さな仮説検証を重ね、うまくいったものを徹底的に実行する。そこでは、「お客さんの根源的なニーズをどれだけ満たせているか」が勝負を決めるのだと、小澤氏は説いてやまない。Yahoo!ショッピング出店料の無料化やPayPayの急拡大といった事例は、その言葉に説得力を与えてくれる。
この話を、いま取り組んでいるキザシプロジェクトに重ねてみる。たとえば行動指針として数字を掲げるのは悪くないが、「街に頼れる仲間がいる」「孤立の不安がなくなる」といった目標は、数値だけで測れない部分が多い。だからこそ、小さく試しては修正し、地に足のついたやり方を模索することが重要だ。どれだけ美しい企画を描いても、“根源的ニーズ”から外れてしまえば、本質に届かないまま労力だけが増えてしまう。
実を言うと、僕がいちばんやりたいのは「人と一緒にご飯を食べる」ことだ。大掛かりな祭りや派手なイベントを用意するより先に、週末の昼下がりや休日の朝など、“ちょっと集まって一緒に食べる”というささやかな時間を増やせないだろうか――その思いがずっとある。一人より二人、二人より三人で食べたほうが、普段のごはんだって何倍もおいしいし、そんな小さな喜びこそが孤立を減らす最短ルートになるんじゃないか、と思っている。
加えて、ヨネスケさんの“突撃!隣の晩ごはん”への憧れも大きい。無邪気な図々しさで他人の家に上がり込み、一緒に食卓を囲んでしまう――そんな光景には、人を隔てる壁を一瞬で取り払う魔法のような力があるように感じる。もちろん番組のようには簡単にいかないけれど、誰かとごはんを食べて笑い合う時間が、どんな大げさな口約束よりも心強いコミュニティづくりの源になるはずだ。
そして今、「フランスの隣人祭り(Fête des voisins)を参考にして、実際にやってみたい」と思うに至った。けれど、やりたいことが多すぎるうえに人手も足りない現状では、大規模に仕立て上げるのは正直リスクが高い。あれもこれも詰め込むほど、準備や調整が追いつかなくなるし、肝心の“根源的ニーズ”からも遠ざかってしまいそうだ。そこで小澤氏の言う「まずは小さく試す」方針がしっくりくる。
たとえば、数人で夜ごはんを作って食べる会を一度やってみる。もし終わったあとに「これ、またやりたいね」という声が上がれば、“51点ライン”は突破だ。うまく響かなければ別の形に切り替えればいい。その小さな試行錯誤の積み重ねが、やがて大きな隣人祭りにつながるモメンタムになるかもしれない。“センターピン”としては「誰でも気軽に参加しやすい雰囲気づくり」を掲げるのがよさそうだ。実際、イベントの成否はまず「入りやすさ」で大きく左右される。カチッと枠組みを決めすぎると「手伝う余地がない」と思われ、作り手不足も改善しづらいが、小さな集まりなら参加者が「自分もこんなことやってみたい」と自然に言い出しやすい。そうして少しずつ作り手の輪が広がり、いずれは本格的な隣人祭りを動かせるかもしれない。
結局、「孤立をなくす」「仲間を増やす」といった壮大なテーマも、“一緒にご飯を食べる”という小さなアイデアを積み重ねるうちに、いつのまにか達成してしまうのではないか。数字に表れにくいけれど、純粋な楽しさや欲求こそが人を動かす原動力だ。それを満たしていく中で、新しいメンバーが加わり、ときに突拍子もない企画が飛び出し……気づけば街には“頼れる仲間”が増え、“孤立の不安”なんてどこかに消えている。ヨネスケさんみたいに突撃するのはハードル高いが、そのエッセンスを少し取り入れれば、人と人との距離は意外なほど簡単に縮まるんじゃないだろうか。