やっぱり失敗だったP-1の開発・調達という選択


かつてP-1がPXと呼ばれていた当時、石破茂防衛大臣はそのプロジェクトに反対していました。ところが内局、海幕の包囲網にあって認めざるをえず、自分が反対した旨だけは記録するように命じました。
大臣と言えども組織に反対できないことは大変問題だと思います。そういう事もあって、現在では副大臣や政務官という制度ができたことだとは思います。

来年度の防衛予算案ではP-1は3機、914億円で要求されています。1機あたり305億円です。かつては200億円程度でしたから、1.5倍です。防衛力整備計画では5年間で19機を調達することになっています。果たしてその価値があるのでしょうか。

そもそもCX、PX、US-2の大型機を陣容の貧弱な我が国の航空産業界には過大でした。

次いで、機体、エンジン、システム全部専用で新規開発でした。普通の国は機体やエンジンは実績のある旅客機や輸送機を使います。機体やエンジンをできるだけ安価に調達して、維持費を抑えるためです。世界にないということは、現実的ではないから外国はつくらないということです。

それが4発のジェット機で低空を飛べる機体という「世界にないから作る」といういつもの論法で押し切りました。これがP-1の高コストの原因です。世界で最大の予算を使っている米海軍ですらベストセラー機、737をベースに開発しました。
機体もエンジンも専用ですから、量産コストは下がりません。極めて高いものになります。当時のP-3Cですら予算が足りずに共食い整備をしていたわけですから、全部専用のP-1の整備費が足りずに稼働率が低くなるのは当たり前の話です。


しかもエンジンのキモである信頼性も相当怪しいわけです。試験運転時間も民間旅客機のものより相当少なかったわけです。石破茂氏は大臣当時海幕から「生存性のためには4発機が有利なんです、大臣はそれが理解できませか」と詰め寄られたと。「だけどねえ、現場の隊員は『信頼性の低い4発よりも、信頼性の高い双発がいいんです』。

そして肝心のシステムですが、これまた能力が低く、残念なレベルです。昨年グアムで行われた米海軍が主催する固定翼哨戒機の多国間共同演習「シードラゴン2021」で、成績はP-8がトップ、次いでP-3Cでした。P-1は旧式の他国のP-3Cにも及ばず、米海軍のP-8がホレ、ここだよ、と示した潜水艦すら探知できませんでした。この話は武居智久元海幕長が自民党の国防部会で話した内容です。

そもそも国内の対潜システムの能力は低いわけです。素子などハードは能力の高いものが作れますが、ソフトがだめです。昔の話ですが、海自のヘリやP-3Cがリムパックに行くときは国産のソノブイではなく、米国製を使っていました。それは米国製の方が性能がよく、コストも安いからです。
海自OBによればソナー、ソノブイのメーカーである沖電気とNECには音響学の博士号を持った社員はいないそうです。ですからソナー関連では米国や欧州のメーカーに太刀打ちできません。国産ソナーを搭載したDDや潜水艦は、イージス艦の米国製のソナーに勝てません。ソナーの実力は米国にはかないません。

P-1用のソノブイの解析装置も国産は使い物にならず、カナダのメーカーのものを導入しました。そんな国内メーカーが対潜システムで米国と互角のものが作れるはずもありません。

その米海軍はP-1のシステムを既存のP-3Cにも移植しています。これは教育や兵站の面で大変有利になります。海自ではこのようなことをやっていないので、2種類のシステムにそれぞれ教育と兵站が必要になります。

日本がお家芸と思われている光学電子センサーもだめです。P-1の搭載している光学電子センサーシステムは富士通製ですが、欧米メーカーの同等品の2倍も高いのに、能力は及ばず、故障も多く、これがP-1の稼働率低下の原因になっています。これはいくら予算を増やしても解決する問題ではありません。

XP開発当時、ぼくはP-3Cの延命化を唱えました。当時P-8の革新的な発想が成功するかどうか、分からなかったからです。主翼を全取替すれば機体構造の寿命は新品近くにまでもどります。事実川重傘下の昭和飛行機が米軍のP-3C延命でそれを担当しています。ですから我が国でできないわけがない。
更に申せばエンジンを新型に、アビオをグラスコクピットに換装し、システムの更新も行う。こうすれば進出速度も向上して燃費があがり、整備性も向上します。そう申し上げてきました。

そして現在では哨戒任務はかなりの部分、無人機に置き換える事が可能です。ですからP-1の調達は派生型含めて止めるべきです。不足分はP-3Cの延命化、無人機の導入で補う。システムはP-1もP-3CもP-8のものに換装して互換性を持たせる。無人機の導入によって、人的な負担は大きく減るでしょう。無人機のクルーは退職した隊員の雇用の受け皿にもなります。

不要になったP-3Cは同様の近代化を行って米国企業と一緒に輸出をすればよろしい。やるのは機体の改修だけですからやりやすいでしょう。特に昨今は円安もあり日本の労賃は下がっているので主翼の再生含めて、米国企業が担当するより安価にできるでしょう。


景気のいい軍拡よりも、防衛費の無駄使い、非効率という出血を抑えることを優先すべきです。防衛費を増やして無駄使いすることが国防の強化ではないでしょう。

■本日の市ケ谷の噂■
防衛省はイージス・システム搭載艦については、アショア用のフルサイズのSPY7を搭載すると明言したが、海幕では既にセル数を減らして軽量化を前提に話を進めている。ソナーもFMSでイージス艦と同じソナーを調達する予定で、事実上SPY7を搭載した「イージス艦」となる、との噂。


●東洋経済オンラインに以下の記事を寄稿しました。
自衛隊の装備稼働率が防衛費増でも向上しにくい訳
装備調達の構造的欠陥を放置したままでいいのか
https://toyokeizai.net/articles/-/641769
防衛省の「次期装輪装甲車」決定に見た調達の欠陥
体系的に進められず問題意識なき前例踏襲が続く
https://toyokeizai.net/articles/-/640971

●Japan In Depth に以下の記事を寄稿しました。
軍拡政策はアベノミクスが失敗だったから
https://japan-indepth.jp/?p=71966

●European Security & Defence 誌に以下の記事を寄稿しました。
The Sun Sets on Japan’s Defence Industry
https://euro-sd.com/2022/12/articles/28449/the-sun-sets-on-japans-defence-industry
防衛省の「次期装輪装甲車」決定に見た調達の欠陥
体系的に進められず問題意識なき前例踏襲が続く
https://toyokeizai.net/articles/-/640971

●Japan In Depth に以下の記事を寄稿しました。
軍拡政策はアベノミクスが失敗だったから
https://japan-indepth.jp/?p=71966

●European Security & Defence 誌に以下の記事を寄稿しました。
The Sun Sets on Japan’s Defence Industry
https://euro-sd.com/2022/12/articles/28449/the-sun-sets-on-japans-defence-industry/
防衛省の「次期装輪装甲車」決定に見た調達の欠陥
体系的に進められず問題意識なき前例踏襲が続く
https://toyokeizai.net/articles/-/640971

●Japan In Depth に以下の記事を寄稿しました。
軍拡政策はアベノミクスが失敗だったから
https://japan-indepth.jp/?p=71966

●European Security & Defence 誌に以下の記事を寄稿しました。
The Sun Sets on Japan’s Defence Industry
https://euro-sd.com/2022/12/articles/28449/the-sun-sets-on-japans-defence-industry/


#イージスシステム搭載艦 #P -1

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