国営防衛装備調達株式会社を設立せよ
2005年に書いた政策提言です。
http://nippon.zaidan.info/seikabutsu/2005/01023/pdf/0001.pdf
一部ブログ読者からPDFが読めなかったというコメントが有ったので、
ここに全文を掲載しておきます。
国営防衛装備調達株式会社を設立せよ
清谷信一 軍事ジャーナリスト
東京財団研究推進部は、社会、経済、政治、国際関係等の分野における国や社会の根本に
係る諸課題について問題の本質に迫り、その解決のための方策を提示するために研究プロ
ジェクトを実施しています。
「東京財団研究報告書」は、そうした研究活動の成果をとりまとめ周知・広報(ディセミ
ネート)することにより、広く国民や政策担当者に問いかけ、政策論議を喚起して、日本
の政策研究の深化・発展に寄与するために発表するものです。
本報告書は、「防衛庁・自衛隊の武器・装備の調達会社を設立せよ」(2004 年6月~2004 年
11 月)の研究成果をまとめたものです。ただし、報告書の内容や意見は、すべて執筆者個
人に属し、東京財団の公式見解を示すものではありません。報告書に対するご意見・ご質
問は、執筆者までお寄せください。
2005 年6月
東京財団 研究推進部
目 次
■■序文
■■エグセブティブ・サマリー
■■エグセブティブ・サマリー(英訳)
■■概要
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■■第一章 崩壊に向かう我が国の防衛産業
1-1:現在のままでは我が国の防衛産業は崩壊する
1-1-1:我が国の防衛産業のハンデキャップと問題点
1-1-2:世界の防衛産業の現状
1-1-3:ソ連崩壊で変わった世界の兵器市場
1-1-4:激しい業界の生存競争
1-2:世界の兵器産業の再編から無縁だった我が国の防衛産業
1-2-1:資本の論理に晒される防衛産業
1-2-2:過度の米国依存は安全保障上危険である
1-2-3:小泉内閣における安全保障上の改革
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■■第二章 株式会社防衛装備調達会社を設立せよ
2-1:株式会社形式の国営防衛装備調達会社設立
2-1-1:防衛庁と防衛産業界を繋ぐ組織が必要
2-1-2:防衛装備調達株式会社の業務
2-1-3:本案に対して出されるであろう疑問点や反論について
2-2:他国の防衛産業基盤の民営化、集約化の現状
2-2-1:アームスコー(ARMSCOR Armaments corporation of South Africa Ltd.)
2-2-2:アブロ(ABRO)
2-2-3:パトリア社(Patria Industries Oyj)
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2-2-4:ラーグ社(RUAG)
2-2-5:キネティック社(QinetiQ Group plc)
2-2-6:ケーブ(KADDB)
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■■ 第三章 装備調達会社設立の前提条件
3-1:自衛隊の変革
3-1-1:国防計画局、ドクトリン開発コマンド(戦闘教義開発司令部)の設立
3-1-2:防衛産業の再編の前提は天下りの解消
3-1-3:幹部(将校)の予備役制度の確立と定年の延長
3-1-4:将官の階級の細分化
3-2:「武器輸出三原則等」の見直し
3-2-1:見直しの前提は業界の再編成
3-2-2:単なる武器の輸出に対しては慎重に
3-2-3:変わりつつある武器の定義に対応できる体制づくり
3-2-4:「防衛装備調達会社」で兵器・武器の定義の一元化を
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■■ 第4章 防衛装備調達会社の業務
4-1: 装備、防衛企業などの技術的な評価を行う
4-1-1:外国産装備のサンプルの購入及びその研究開発、管理を行う
4-1-2:兵器装備の研究・開発・試作と量産の分離
4-2:トライアルの開催
4-3:海外の防衛産業の実体を把握し、防衛庁に今後の装備調達のコンサルトを行う
4-3-1:国際防衛産業見本市での日本パビリオンのオーガナイズ
4-4: 広い意味での防衛産業のマーケティングを行う
4-5:防衛産業界の利害を調整
4-6:中古の装備の売却
4-7:装備のリースなど
4-8:外国からの中古兵器の調達
4-9:訓練、整備施設の運営、人材派遣等
4-9-1:国内の訓練施設の運営
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4-9-2:海外に訓練施設を設立・運営
4-10:防衛産業の再編成と、一部分野の国営化
4-10-1:国内防衛産業の再編、統合
4-10-2:コンセプトは「集中と統合化」
4-10-3:防衛産業再編のカテゴリー分け
4-11:防衛庁以外の機関の装備需要をまとめる
4-12:防衛庁や関連機関の一部を防衛装備調達株式会社に吸収する
4-13:国際共同開発の窓口
4-14:内外に対する我が国の防衛政策、装備調達の告知を強化
4-15:商社機能
4-16:人材派遣
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■■第5章 防衛装備調達会社の組織と防衛産業再編のスキーム
5-1:防衛装備調達株式会社の概要と設立準備委員会
5-1-1:会社設立のための諮問機関と設立準備委員会
5-1-2:防衛産業界の再編成
5-1-3:子会社保有の形式
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■■結び
参考文献など
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■■序 文
我が国は過去長期にわたり、世界第二位の「軍事費大国」であった。この「軍事費大国
の意味するところは、多額の防衛費用を使ってきたが、それに見合うコストパフォーマン
スが得られていないということを意味している。
諸外国の相場からみれば3倍~10倍といった法外な兵器、装備の単価が放置されてき
た。しかも防衛用の研究開発費は諸外国に比べて少なく、また試作品などの製造数や試射
なども非常に少ないにもかかわらずである。
しかもそれらの兵器、装備は有事、準有事に際しては法的には殆ど使用できかなった。
それは防衛庁・自衛隊が単なる一行政機関でしかなく、我が国に有事法制がなかったこと
に起因する。ヘリボーン作戦も、落下傘降下も、陣地の構築も、戦闘機の民間空港使用も、
野戦病院の設置も、遺体の仮葬も認められていなかった。護衛艦はいまだ臨検も許可され
ず、航空自衛隊は敵の爆撃機が領空内に侵入してきても爆弾を投下するまで、攻撃ができ
なかった。
つまり、自衛隊が防衛のための行動を行うと、その活動の殆どは違法行為になる。有事
の際、自衛隊の現場の指揮官は法に触れても、自己の使命を果たすべきか、はたまた公務
員として法律の遵守をし、国民が目の前で殺され、祖国が侵略されるのを傍観するしかな
かった。 故金丸信長官時代には事務次官が「防衛出動が発令されていない場合、目の前
で国民が殺されても自衛隊は救出をしてはいけない」信じられないような旨を公式に発言
している。
このような状態では自衛隊がまともな軍事ドクトリンを構築し、それにそった合理的か
つ、実戦的な装備体系、低コストで装備を調達するといった意識を持つことは不可能であ
った。2004年に亡くなった元統合幕僚議長の栗栖弘臣氏は1978年に、「有事に際し
ては自衛隊が超法規的に行動する可能性がある」と述べた。所謂「超法規的発言」である。
これは正に防衛庁・自衛隊の存在の根元に関わる問題であった。この発言が問題ありとし
て同氏は統幕議長を事実上解任されたが、氏の主張はまさに正論であった。
ところが政治の場では、氏の意見は省みられることはなく、その後も防衛問題は与野党
の国会対策の取り引き材料としか認識されてこなかった。また他国の国防相に当たる防衛
庁長官は単なる一年生用の大臣量産ポストとしてしか認識されず、ほぼ半年ごとに交代し
てきたため、防衛庁・自衛隊を監督することができなかった。このため自衛隊の管理は防
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衛庁の背広組と言われる内部部局任せであり、政治家が防衛庁・自衛隊を掌握するという
本来の意味でのシビリアン・コントロールはなされてこなかったのである。
このような環境が防衛庁・自衛隊の意識、常識を大きく歪め、世界の軍事常識から遠く
離れた独自の「常識」を持つに至った。まともな法的環境下での軍事的立案が出来ないの
であるから、空理空論の防衛計画がまかり通ってきた。例えば74式戦車は国鉄(現JR)
の貨車での輸送を前提にそのサイズが決定されたが、自衛隊が有事に国鉄の車輌を利用で
きるという根拠になる法令はなく、また国鉄職員が有事に自衛隊の装備輸送のために働か
なくてはならないといった法令もなかった。旧陸軍には鉄道連隊があり、参謀本部の動員
課では有事に備えて鉄道ダイアの作成をおこなっていたが、陸上自衛隊にはそのような部
署も機能もない。つまり空理空論の上に具体的な装備の開発、生産、運用を行ってきたの
である。
また、先の戦争では陸海軍の反目が敗戦の大きな要因だったにも関わらず、統合幕僚会
議は単なる三自衛隊調整機関とされてきた。このため三自衛隊の互いの協力体制が全くと
言っていい程整備されてこなかった。
このような無責任な環境下で、自衛隊は装備の調達に関しては高価で見栄えのする正面
装備の購入に偏り、それを効率的に使うための兵站、指揮通信システム、ソフトウエアな
ど見えにくいものには、費用をかけなかった。また、最新式の兵器が導入される反面、維
持費だけは莫大にかかる半世紀も前の米軍供与兵器がいまだに使われている。高価な正面
装備も調達後に技術の進歩にあわせて改良、近代化されることも殆どなかった。更に、他
国では将兵に供与するのが常識であるセーターなどの基本的な被服さえ支給されてこなか
った。
つまり、自衛隊は戦争を前提にデザインされた軍隊ではなかったのである。
なお、本論では必要と思えるもの以外、防衛庁・自衛隊用語ではなく、軍事用語を用い
る。これは本論が英訳を前提として想記しているため、用語を変換することによるニュア
ンスの変化を防ぐためである。また日本語においても誤ったイメージの固定を避けるため
である。例えば「兵站」を「後方」と呼ぶとイメージが全く異なる。だが、英語にすれば
同じlogistics である。また巡洋艦、駆逐艦、フリゲイト、コーベットなど各種の水上戦闘
艦を「護衛艦」とひとくくりし、諸外国から誤解を招く語句も多い。
小泉内閣になり、やっと有事法の制定を始めとして、多数の改革が次々と行われ、石破
前防衛庁長官の言う「存在する自衛隊から行動する自衛隊」へと変化が始まった。
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本論では、更に防衛費の合理的な活用と、コスト削減とコストパフォーマンスを追求す
るために防衛庁と防衛産業界の間に、株式会社形式の防衛装備調達会社(JDEC、Japan
Defense Equipment Corporation Ltd.仮称)の設立を提言するものである。
なお、本論は学術論文ではないこと、および一般国民にも読みやすい形にするため、一々
脚注を付けることは行わず、参考文献などは末尾に添付してある。
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■■エグゼクティブ・サマリー
防衛装備を効率的に調達するために、防衛庁と産業界の間に防衛装備の調達に対して全
ての責任を負う国有の、株式会社形式の防衛装備調達会社(JDEC、Japan Defence
Equipment Corporation Ltd.:仮称)の設立することを提言する。
官庁は生産効率や人件費、時間=費用というコスト意識が希薄である。防衛庁と防衛産
業界は天下りなどを含め、過度の癒着関係にある。また防衛産業は防衛庁の厳しい統制下
におかれており民間産業としての自由度が少なく、実質的に国営企業化している。このた
め生産効率が極めて低い。
そこでコスト意識を持ったもち、民間企業的手法やPPP(パブリック・プライベート・
パートナーシップ、官民の連携、Public Private Partnership)、PFI(プライベート・ファ
イナンス・イニシアチブ、Private Finance Initiative)などの手法も活用するなどして、
防衛費の抑制と効率的予算の執行を目指す。またFMS(対外有償軍事援助、Foreign
Military Sales)含む防衛関係の対外交渉や兵器や軍事品目の輸出入の管理を防衛装備調達
会社に一元化することにより行政の縦割りを排する。
防衛装備調達会社は経営者に民間人を迎え、防衛庁・自衛隊、経済産業省、外務省、国
土交通省、民間企業、特に防衛部門を持つ商社や金融機関などから広く人材を登用する。
省庁からの採用にしては採用者が出身省の省益にこだわる出向という形は避け、転職と言
う形をとる。防衛問題は防衛庁のみならず複数の官庁が関わってくるため、所轄官庁は内
閣府とする。これにより縦割り行政の弊害を防止する。また契約本部技術研究本部、防衛
施設庁などを一部ないし、全部、防衛装備調達株式会社に組み込む。
つまり我が国の防衛安全保障分野において広い意味での民営化を行い、防衛行政、防衛
産業の効率化を行うわけである。
政府の財政事情を鑑みれば今後防衛費の拡大は難しく、中長期的にみて防衛産業は不況
業種であり、既に防衛産業から撤退している企業も出始めている。そこで防衛装備調達株
式会社の下に、今後維持が難しい企業の防衛部門や特殊な技能持った下請け企業を集約し
て子会社する。また業界再編を行い、政策的に重要な企業に関しては政府が黄金株を保有
しこれを支配する。さらに兵器、装備の調達だけではなく、情報の収集・発信、広義にお
けるマーケティング、訓練、教育、整備機関などの運営、人材派遣、アウトソーシングな
ど行い幅広分野で、民間手法の導入を通じてコスト削減を行い、防衛費を抑制する。
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同社は防衛庁の装備調達に主眼をおいているが、プロジェクトによっては更に警察、消
防、海上保安庁、地方自治体などを加えて、装備の生産数を増やす、施設の稼働率などを
向上するなどの効率化を目指す。防衛装備調達会社の設立目的は以下の通りである。
①防衛装備調達会社は防衛庁に対して兵器・装備の調達に関して全責任を負う。
②兵器・装備の直接調達のみならず、訓練、保守など担当、ライフサイクルコスト、間接
コストの削減に取り組む。
③硬直した防衛庁及び企業の防衛部門を防衛装備調達会社の下に集約し、開発生産、経営
の効率化を図る。
④防衛庁のみならず、他の行政機関との中間関節となり、縦割り行政の弊害をただし、こ
れにより行政コスト、装備の調達コストを削減する。
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■■EXECUTIVE SUMMERY
I suggest the Government to establish “Japan Defense Equipment Corporation
Ltd.”, (JDEC) in form of joint-stock, on basis of PPP (Public Private Partner ship)
which takes responsibility in procurement of defense equipment by Japan
Defense Agency from defense industries, for purpose to obtain high quality
weapons and defense equipments effectively.
Agency, other government administrative offices has cozy relationship with
defense industries, including “AMAKUDARI” (=appointment of a former official
to an important post in a private company through influence from above). Also,
defense industries do restricted activities, actually they are nationalized,
efficiency of production is extremely low. Government administrative offices lack
a sense of efficiency in production, awareness for personnel expenses and cost
of time that equals to expense. Therefore, introducing technique of private
enterprise, establish a joint-stock corporation for procurement of defense
equipments which has awareness of cost, to aim to save defense expense and
perform budget effectively. Also the company negotiates with foreign countries
including FMS (Foreign Military Sales) for defense matters, and consolidates
import and export of weapons and defense items.
For JDEC, recruit persons for top management from private sector, and take in
human resources from Defense Agency, Self Defense Forces, the Ministry of
Economy, Trade and Industry, the Ministry of Foreign Affairs, the Ministry of
Land, Infrastructure and Transport, and private enterprises especially financial
institutions, manufacturing companies, trading companies which have defense
sector. From Government Administrative Offices, avoid “temporary transfer”
which hang up interests of each Government Administrative Offices of their
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origin, and take system of “irreversible job transfer”. By that system, prevent
adverse effect of vertically divided administrative functions. And, build in all
functions or a part of Defense Agency’s Central Contract Office, Technical
Research & Development Institute and Defense Facilities Administrative Agency
to JDEC. By establishing JDEC in above ways, do privatization a broad sense
to make defense administration and defense industry efficient.
In the future, increase of expense is difficult in consideration of financial
conditions of the treasury, too, and over mid-term or long term, defense industry
is recession-plagued industry, some companies have already withdrawn from
the defense industry. Thus, JDEC acquire business from companies, which
have difficulty to maintain operation and integrate that business to establish
subsidiary company. Also JDEC reorganize defense industries, and
Government will take golden share of vital companies for national security.
Not only procurement of defense equipments, JDEC will also does gathering
and transmitting information, marketing, training, education, management of
equipment-maintenance organization, manpower supply, out-sourcing, by
introducing technique of private enterprises to reduce cost and save defense
expense.
JDEC’s principal objective is Defense Agency’s procurement of defense
equipment, but depends on project, increase number of equipments in
production, and raise operating rate of facilities, for cost reduction to save
defense expense, by adding Police, Fire Department, Coast Guard, local
governments.
Purposes of foundation of JDEC are as follows.
JDEC does marketing for defense equipment procurement for Defense
Agency in
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A broad sense of national security. JDEC bears a responsibility for Defense
Agency’s procurement of defense equipments.Reduce not only cost of direct procurement but also operational and rife cycle
cost including training and maintenance.Act as intermediate joint to integrate inflexible functions of Defense Agency
and defense industries to pursue efficiency.Have Coordinating function not only for Defense Agency but also for other
government administrative offices to eliminate adverse effect of vertically
divided administrative functions. Reduce administrative cost, and equipment
procurement cost.
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■■概要
自衛隊発足以来、我が国は兵器及び装備の極力国産化を目指してきた。これは安全保障
上極めて妥当な路線であった。しかしながら我が国は兵器の輸出を自粛してきたこともあ
り、輸出による生産量の拡大が不可能であり、また市場経済に晒される機会もなく、開発
生産上不利な立場にあった。
そのため他国よりも生産性の向上、研究開発の効率化により力をいれる必要があった。
だが、現実には生産性が無視され、他国の3倍から10倍も高く、実用性に欠ける兵器を
調達してきた。我が国の兵器は生産レートが低いため単価が高くなる、すると更に価格が
高騰し生産レートがさらに下がるという悪循環におちいってきた。これは単年度予算制も
大きな要因となっている。
装備の生産が完了し、部隊として完結、運用できるころには、既に旧式化し、廃棄が始
まるといった例が多く、効率的に予算を使っているとはいえない状態である。
更に国内の防衛市場は、分野ごとに各企業の棲み分けがなされ、契約も随時契約が多く
を占めてきたため、企業の防衛産業部門の経営は民間企業でありながら、国営企業のよう
に硬直化してきた。
しかも配備が優先されるのは所謂正面装備に編重しており、兵站、個人装備、通信、情
報に関しては、極めて限定された予算しか配分されてこなかった。
このような事態を招いた最大の原因は有事法が無かったことに起因する。自衛隊の持つ
権限は警察、消防よりも弱く、有事における交通統制すらできない。即ち、実質的に演習
地や訓練外で自衛隊部隊が戦闘集団として行動をすこるとは不可能である。戦時に敢えて
行動をおこせば、法律を無視しなければならないという状態が長らく続いてきた。これが
故栗栖元統幕議長の「有事における超法規活動」発言につながったのである。
しかしながら、法治国家であるはずの我が国でこの問題は長らく放置され、小泉内閣に
なりやっと有事法制が整備され始めたのである。自衛隊は実際の動員が不可能であるから、
現実的な装備体系や必要な装備や設備を調達するのを怠り、見栄えのいい戦闘機や戦車、
護衛艦などの正面装備、いわば見栄えのいい「箱モノ」に編重した予算配分を行ってきた。
つまり我が国の防衛産業も防衛庁も世界第ニ位と言われる防衛予算を使いながら、非現
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実的で実用性の低い、世界の常識からかけ離れた予算の執行を延々とおこなってきたので
ある。更に兵器や特殊な装備に限らず、燃料や電池など汎用品に至るまで談合、特に官製
談合が後を絶たない。即ち、これまで防衛費のコストパフォーマンスは極めて低かったと
言わざるを得ない。
ところが海外ではソ連崩壊後、世界の兵器マーケットは統合され、各国の兵器産業界は
生き残りを賭けて、合従連合を繰り返し、また徹底したコスト削減を実施してきた。
ところが防衛庁と我が国の防衛産業界は、90年代から現代に至るまで造船など一部を
除き、官界、業界共に再編やコスト削減に真剣に取り組むこともなく惰眠を貪ってきた。
しかしながらいまだ、毎年微々たる数量の高価な装備を多数調達し続けている。つまり
世界の動きから取り残されてきたのである。
云うまでもなく、我が国は巨額の財政赤字を抱えており、国家予算の縮小傾向が続いて
いる。防衛費も聖域ではない。実際に防衛予算は減少傾向にあり、経団連によれば下請け
レベルでは防衛産業から撤退する企業も増えているという。この流れは大企業や大手商社
にも波及していくであろう。
しかしながら、防衛庁を中心とする国家防衛に関連する諸省庁、また産業界も、未だ当
事者としての危機意識に欠けており、それこそ官僚用語ではなく、本来の意味での「抜本
的『構造』改革」を行なわなければ、我が国の防衛産業は近い将来、開発力の喪失と高コ
スト体質ために衰退し、壊滅する可能性がある。
このため提言者は、防衛庁と産業界の間に自衛隊に対する兵器や防衛装備調達に全面的
責任を負う、中間関節、緩衝として国有の株式会社形式の防衛装備会社(JDEC、Japan
Defense Equipment Corporation Ltd.仮称、所轄は内閣府)を設立することを提案する。
株式会社形式という自立的かつ、経営が透明で、経済性を重視する組織を官庁と産業界
の間に挟むことにより、今までの因習にとらわれない効率的な調達を行うのが目的である。
国営企業を設立するのは時流に反するのではないか、という疑問も出よう。だが、国営
会社でも、資金の調達も民間から行うような自律的企業形態であれば効率的な経営は可能
である。 また、PPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ、官民の連携、Public
Private Partnership)、PFI(プライベート・イベート・ファイナンス・イニシアチブ、Private
Finance Initiative)手法なその手法なども活用する。
後述するように他国にはそのような先例がある。
防衛産業にダイナミズムを取り戻すためには、監督官庁との直接的な関係を切断する必
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要がある。
本提言はむしろ国営化というよりも、防衛庁などの行政組織の一部組織も含めて企業化
する、広い意味での民営化である。また防衛、安全保障は郵政と異なり、民間企業がコン
トロールできる分野ではないことも忘れてはならない。
防衛装備会社の経営陣は民間出身者を据え、社員は民間、防衛庁・自衛隊、経済産業省、
国土交通省、文部科学省などから募る。また防衛庁・自衛隊からの調達本部や、研究開発
本部、防衛施設庁の機能の一部ないし全部を防衛装備会社に転籍する。
防衛装備会社は単に兵器や装備を調達、購買するだけではなく、俯瞰的に安全保障問題
を捉え、広い意味での防衛に関わる川上から川下までのマーケティングをも担当する。例
えば単独の企業では難しい研究開発の取捨選択、兵器等の整備、訓練、輸出輸入の管理な
ど兵器・装備に関するトータル・ソリューションを行う。調達にしても購買に限定せず、
リース、他国からの中古装備を購入、これを近代化するなどの多様な方法で調達を行う。
また特定の国益のため必要と思われる国家規模のプロジェクトの振興、例えば我が国の
航空宇宙産業が世界の民間航空機市場へ参入を目的とした汎用ヘリコプターの開発を行う
と云った場合、開発費やリスク、製造単価の低減のため、防衛庁のみならず海上保安庁、
警察庁、消防、地方自治体に働きかけ、調達初期の数量の確保するといったことや開発費
用の分担依頼するなどの調整を担当する。
さらに防衛装備会社をコアにして、零細規模である我が国の防衛航空宇宙産業を再編す
る。特に航空宇宙産業は今後、我が国にとって重要な分野であるが、いまだ産業として自
立しておらず、防衛庁需要に頼り切りである。
防衛庁は長年にわたり、割高な国産機を調達してきた。これは民間部門を含めた航空宇
宙産業の自立のための、補助金的性格が強かった。ところが航空宇宙産業界は利益が低い
が安定した防衛庁需要に頼り切り、民間部門では、これまたリスクが少ない外国企業の下
請けに徹している。宇宙産業ではH2 ロケットなどの度重なる失敗など産業として自立して
いるとは言い難い状態である。これが防衛費の大きな負担になっている。
また欧州ではヘリコプターメーカーは世界の軍民マーケットを相手にしたユーロコプタ
ーとアグスタ・ウエストランドの二社に集約されたが、我が国では防衛庁需要のみに依存
した、川崎、三菱、富士の重工各社の三社が存在する。我が国では民間はもとより、消防、
警察、海上保安庁、地方自治体までも欧米製ヘリを使用している。即ちメーカーが三社も
ありながら、国内のマーケットすら支配できていないのである。
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このような「おおらか」な体制は右肩上がりで経済規模が拡大し、税収が増大した時代
なら許されたかもしれないが、現在では許されるはずもない。防衛・航空宇宙産業の大胆
な構造改革が必要不可欠である。
防衛装備調達会社はこのような防衛産業の構造改革の司令塔としての役割も担う。コス
ト意識が働かず、縦割り意識が強く、国益よりも省益庁益を重んずる官庁よりも、経済効
率を意識した株式会社形式の組織が有利である。このような革命的な変革をもたらす事業
の発想、実践には既存の官僚機構では不可能である。
防衛装備会社のタスクは防衛費を極限まで効率的に行使することにある。
「税金、所詮は人のカネ」という意識を捨てなければ、安全保障に限らず国家財政の再建
はかなわない。
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■■第一章 崩壊に向かう我が国の防衛産業
1-1:現在のままでは我が国の防衛産業は崩壊する
戦後我が国は安全保障上の観点から自衛隊の必要とする多くの武器、装備を国産開発、
ないしは外国製品をライセンス生産してきた。それを可能としてきたのは、我が国の高い
工業基盤と経済の高度成長による国家予算の拡大であった。
兵器の自律的な開発生産基盤確立・維持可能であれば、国家の安全保障上、有利である
ことは言うまでもない。だが、我が国の防衛費が削減傾向にあり、政府のポリシーで輸出
もできず、現在の体制のまま武器・装備の調達を続ければ近い将来、産業として成立しな
くなる。官僚作文の修飾句ではなく「抜本的改革」を断行せねば近い将来我が国の防衛産
業は近い将来緩慢な死を迎えるだろう。
本論ではその「抜本的改革」案として、株式会社形式の国営企業、防衛装備調達会社(JDEC、
Japan Defense Equipment Corporation Ltd.仮称)の設立を提言するものである。
1-1―1:我が国の防衛産業のハンデキャップと問題点
我が国は政府の方針(武器輸出三原則等)により、兵器およびその生産手段・技術の輸
出を自粛しており、外国に兵器を輸出できず、ユーザーを防衛庁のみに頼らざるをえない
ハンデキャップを背負ってきた。このため本来ならば、他国よりも熱心に官民あげて調達
の効率化に取り込むべきであるが、多くの場合国内に競争が無い随時契約であり、企業間
の担当の棲み分けが固定化してきたため、実際は社会主義国以上に無駄が多く、官僚的で
生産性が低い。民間企業の防衛部門は事実上、国営企業化しているといってよい状態にあ
る。
さらに輸入やライセンス生産される兵器も他国に
比較して非常に割高である。これはユーザーたる防衛
庁・自衛隊が諸外国の軍隊と全く異なる、内閣府に属
する一行政機関であるため直接的に他国の軍隊と比
較されにくく、このため「世界の常識」を無視できた
ことが大きい。具体的には以下のような問題点が指摘
できる。
① 調達コストが高い。そのために更に調達数が減るという、悪循環が続いてきた。単年度
予算という硬直した予算方式がこれに輪をかけてきた。このため我が国の兵器の生産レ
六四式MAT。六四年に採用された旧式兵器が未だ現役である
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ートは工業品ではく、工芸品のレベルである。無論諸外国と比較して同様の兵器が数倍
から一〇倍以上と割高である。
② 防衛庁の装備調達関係部門、自衛隊、特に各幕僚監部は諸外国の動向や先端技術に関す
る知識と研究意識が乏しい。また装備調達の意志決定過程が不明瞭かつ、遅い。
情報収集も商社など外部に頼より切っているのが現状である。商社は情報料を製品に上
乗せするので、このため輸入品、ライセンス生産品の価格や輸入手数料が高くなりがちで
もある。
③ 開発途中の装備に明確に欠陥がある、または失敗作であることが明らかなった場合、さ
らには環境の変化により必要とされないと分かった場合でも防衛庁はそのまま漫然と調達
を続けてきた。2004年、当時の石破茂防衛庁長官は航空自衛隊のF2 支援戦闘機を予定
の130機より少ない約100機程度で調達の打ち切りを決定したが、これは前例のない
「画期的決断」であった。完成しても性能、完成時の環境の変化などを考慮した技術評価
をおこない、場合によっては敢えて採用を見送るといった見識が必要であるが、それがい
ままで防衛庁には無かった。
④ これまで戦時における自衛隊の行動に対する法的な裏付けがなく、このため運用構想が
観念的であった。故に装備調達が主要兵器(正面装備)に偏重し、兵站や通信、情報部門
などが軽視され、近代化が怠られることが多かった。その反面、予算の不足を理由に隊員
にセーターなど基本的な被服の支給すら怠ってきた。これは諸外国の軍隊ではあり得ない
異常な状態である。
⑤ 装備の調達が長期にわたるため、調達が完了し「戦力化」された頃には既に旧式になっ
ている。年に一ないし数機(両)といった低いレートでの装備の調達は非効率のみならず、
部隊単位の訓練や運用の面でも不利である。
⑥ 企業に支払われる直接的な基礎研究費、装備の研究開発費が少なく、実質的に製品にそ
の費用が転嫁されており、実質的に研究開発費と装備の価格の内訳が不透明である。
⑦中古兵器装備を外国に売却できないために、破棄費用が高くつく。
⑧防衛産業各社の規模が世界レベルでみれば零細である(企業自体が巨大でも防衛部門は
小さい。特に三菱重工や川崎重工などいわゆる重工各社においては、防衛部門が更に航空
機、車輌、エンジンなど更に細かく分割されている)。
⑨輸出されないので、他国で運用、実戦を経験することもなく、市場において「顧客」か
らの厳しい評価に晒されてこなかった。
15
1-1-2:世界の防衛産業の現状
いまだ、国家の手厚い庇護下にあり、減少しているとはいえ一定の仕事量が保障されて
いる我が国の防衛産業と異なり、世界の兵器市場では生き残りを賭けた熾烈な生存競争が
行われている。
1-1-3:ソ連崩壊で変わった世界の兵器市場
世界ではソ連崩壊後、地域紛争こそ増えたものの、主要国はこぞって軍隊を縮小、国防
予算を削減した。これにより、列国の国防産業は国内だけでは成立しなくなり、輸出に力
を入れざるを得ないようになった。しかも東西冷戦構造が崩れたことで、世界の兵器市場
が統合された。このため、それまでの東西陣営の棲み分けも崩れ、ロシアをはじめとする
旧東側、イスラエル、南アフリカ、韓国、シンガポール、さらにトルコ、ヨルダン、イラ
ンなど途上国、更にUAE やサウジアラビアなど産油国までが兵器の生産、輸出に参入して
いる。途上国でも各種コンポーネントの入手が容易となり、また民生品を軍用に転用する
こと、先進国や旧東側諸国からの技術者を雇用できるようになったことがこの背景にある。
更に主要国が不要となった装備を売却し、これが市場に流れ込み、中古市場まで形成さ
れ世界の兵器市場は供給過剰となっている。
1-1-4:激しい業界の生存競争
当然激しい国際的な防衛産業市場では生存競争が起こり、企業は合併、統合、買収、な
どにより規模を拡大したり、共同開発、または徹底したコストダウンを促進するなどして、
体力、研究開発力を高めていった。それの端的な例がジェネラル・ダイナミックスであり、
ボーイングであり、EADS、BAE システムズ、タレスなどである。特にジェネラル・ダイ
ナミックスはボフォース(スウェーデン)、サンタ・バーバラ(スペインの国営兵器工廠)、
モワーグ(スイス)など多くの欧州系の企業をその傘下に収めている。フランス系のタレ
スは英国にも進出、英海軍次期空母をBEA システムズと共同受注した。また同社は二〇〇
四年、オーストラリアの軍事複合企業、ADI の株式の50パーセントを収得した。欧州大
陸大手の防衛航空宇
宙企業EADS(欧州
航空防衛宇宙会社)
が同社を買収すると
もいわれており、実
現すればボーイング
UAEに輸出されるGiat社のルクレール戦車ダッソー社のラファール戦闘機
16
に匹敵する企業規模となる。
反面、伝統的に兵器の輸出と外交をセットに展開してきたフランスでは国営の兵器メー
カーのGiat 社がルクレールMBT の輸出が成功したのは、サウジアラビアとUAE 二カ国
のみであり、いずれも原価割れの赤字受注である。同社の営業成績は悪く、2004年に
は3度目の政府資金の注入を受け、9カ所ある工場の内、3カ所の閉鎖を決定した。
またミラージュ・シリーズで有名な戦闘機メーカー、ダッソーの最新型戦闘機、ラファ
ールは現在まで一機の輸出も決定していない(本提言書提出後の05年4月、サウジアラ
ビアへの輸出が決定:提言者注)。
1-2:世界の兵器産業の再編から無縁だった我が国の防衛産業
このような状態の中、ひとり我が国の防衛産業は武器輸出を行わないことを国是とし、
防衛庁のみを顧客としてきたため、官民共がもたれ合い、外界の生存競争とは無関係であ
った。しかし、年々防衛費、装備の調達、研究開発費は総額として下がっている。造船な
ど一部の防衛産業部門では事業の統合の動きが進みつつある。
今年になり危機感を募らせた日本経団連も「武器輸出三原則等」の緩和などを政府に提
言した。だが、「武器輸出三原則等」を見直すにしても積極的な兵器の輸出はこれまで築い
てきた我が国の国際的なイメージを壊すことになり、トータルで考えた場合国益に反する。
まずその前に、防衛産業の再編、防衛庁の調達
方式の見直しを行うのが正当な順序であろう。
それを行わず、兵器の輸出を解禁するでは国民
の理解は得られまい。
自衛隊創設以来初の欧州製作戦用航空機とな
ったアグスタ・ウエストランドのEH―101を
採用したのは米国に偏る我が国の装備調達にイ
ンパクトを与えたが、僅か14機の調達数である
にもかかわらず、川崎重工がライセンス生産する。次期攻撃ヘリコプター、ボーイング
AH-64D アパッチも同様に富士重工でライセンス生産されるが、事実上のアッセンブリー
(組立)に過ぎず、両プログラムともメーカーに仕事量を確保するための単なるバラマキ
公共事業に他ならない。
実際に海外に兵器を輸出するにしても前述のように既に兵器市場は過当競争状態である。
コストが高く、実戦の実績もない我が国の兵器を導入しようという国がどの程度あるか疑
海自が採用したアグスタ・ウエストランド EH-101
17
問である。
確かに我が国の電子部品や炭素繊維、精密ベアリング、フラット・ディスプレーなど軍
用に利用されているコンポーネント、素材、工作機械などは優秀である。だが、兵器その
ものを開発するために最も必要とされるインテグレーション技術に関しては、依然我が国
には十分な能力、競争力がない。
更に本格的に輸出を行うのであれば、営業やサポート体制を整備するのに莫大な投資が
必要となる。零細規模の我が国の防衛産業にとって非常に重い負担である。しかも、輸出
が順調に延び、採算ベースにのって利潤を上げるまでの先行投資期間中、巨額の赤字にも
耐えなくてはならない。つまり、安易な兵器産業の輸出拡大指向は無理がある。「武器輸出
三原則等」を緩めるのは共同開発や、共同研究、調達コスト削減などのためであることが
望ましい。
1-2-1: 資本の論理にさらされる防衛産業
我が国では防衛産業の専業ないし、売り上げの大半を防衛部門に頼っている企業はない。
大半の企業において防衛部門は売り上げの10パーセントを切っている。最大手の三菱重
工でも防衛部門の売り上げは15パーセント程度に過ぎない。また、経団連の調査では既
に下請け企業の中小企業からはビジネスとして成立しないことを理由に防衛産業分野から
撤退している企業が増えているという。
更にバブル崩壊後の不況と、産業構造の変換、金融機関などの破綻、国際化を迎えて、
防衛産業部門を保有する企業は以下のような事態が予想される。
★ 海外の企業ないし投資家による買収、資本参加
この場合、防衛産業部門の技術が海外に流出する可能性がある。また、それを理由に経
済産業省が買収や資本参加を認めないのであれば、その企業が売却を可能とするために防
衛部門を廃止する可能性がある。
実際にニッサンの経営危機に際してフランスのルノーの資本が入り、カルロス・ゴーン
氏が社長となった。同社は防衛部門をIHI に売却したが、かならずしも買い手が見つかる
とは限らない。その場合、それまで蓄積されてきた防衛技術が霧散することになる。
★ 株主からの圧力
我が国の場合、上場企業でさえも、長年金融機関や取引先と株式の持ち合いをおこなっ
てきた。また多くの場合経営陣は社内から出世というケースが多い。このため経営に株主
の発言や監視が活かされてこなかった。だが、現在では株式の持ち合いの解消が進み、主
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要株主、特に海外を含む機関投資家の発言力が増している。株主から今後成長が見込めず、
利益率が低く、さらには本業とあまり関連のない防衛部門の売却、ないし撤退を迫られる
可能性は高い。
★ 企業自体の倒産、廃業
企業自体の業績が悪化し、防衛部門からの撤退を行うのみならず、その企業自体が倒産、
会社整理などに追い込まれる可能性もある。
★ 生産拠点および企業自体の海外移転
工場は元より、本社機能までも海外に移転する可能性があり、その場合防衛部門が閉鎖
される可能性がある。
★ 商社の撤退
防衛庁需要が低迷し、事業の将来性が怪しくなれば、防衛部門からの撤退する商社もで
てくるだろう。経営再建のために防衛部門からの撤退、または商社自体が倒産することに
より、調達中の製品の供給に混乱が生じる可能性もある。
1-2-2:過度の米国依存は安全保障上危険である
我が国の安全保障上、米国との同盟関係がその機軸であることは今後も大きく変わるこ
とはないであろう。GDP 世界第一位で、軍事面でも唯一の超大国である米国と世界第二位
の経済大国である我が国の親密な同盟は世界平和の安定のためにも必要不可欠である。ま
た、自衛隊の主力輸入兵器は米国製が殆どを占めている。
しかしながら、だからといって兵器の調達、軍事面技術面で過度に米国に依存、盲従す
るのは、国益上望ましくない。例えば歴代の空自の主力戦闘機などは一応欧州製の機体も
候補にあがってきたが、実質的には米国製機体に限定されてきた。このため価格や条件の
交渉ができず、事実上言い値で決まってきた。
また交渉ができる機会があっても活かしてこなかった。例えばAWACS(空中早期警戒管
制機)の主契約をボーイング社ではなく、電子システムを担当するレイセオン社にすれば、
機体はボーイング社とエアバス(当時はコンソシアームだったが現在は株式会社)との間
で価格を競わせることもできたはずである。
2004年、防衛庁は航空自衛隊の130機を調達するはずだったF2 支援戦闘機を価格
の高騰と能力不足を理由に削減を決定、約100機で調達を打ち切ることを決定した。F2
は国産機として、開発される予定であったが米国からの圧力により、米国の戦闘機、F―1
6をベースに開発されることになった。我が国で開発された技術は全て米国側が利用でき
19
るという米国に一方的に有利な条件であった。しかも、開発決定後、米国議会が我が国に
対して同機のソース・コードの開示拒否の決定した。これによりソース・コードを自主開
発することになり、F2 の開発は著しく遅れ、開発費も膨らんだという経緯があった。この
ようなカントリー・リスクを無視すべきではない。
さらに会計検査院の調べによると2002年度末の段階で米国からのFMS(対外有償軍
事援助、Foreign Military Sales)の前払金した内、出荷予定時期を過ぎたものの金額が1
596億円にも達している。つまり必要があるから発注し、前払いしたにも関わらず、い
つになったら納品されるか分からないのである。このような事情が放置されてきたという
ことは防衛庁がFMS で要求した装備は必要性が低い、ないしは必要ないと判断されても仕
方あるまい。
残念ながら我が国と米国の関係は対等なパートナーとは言い難く、このような状態が続
くことは国益上好ましくない。
また米国は世界兵器輸出市場の6割のシェアを握っており(読売新聞2004年9月4
日)、これを背景に米政府、および米防衛産業界は米英共同開発のJSF(統合攻撃戦闘機、
Joint Strike Fighter)プログラムに参加している他のパートナー諸国にライセンス生産権
を渡さずに米国内での生産を主張している。このためパートナー各国は困惑を深めている。
トルコ政府は参加メリットが認められないと同プログラムから脱退を決意した。
このような米政府の政策が長期わたれば、我が国を含め、多くの国が先端兵器の自国生
産基盤を失い、米国から先端兵器の購入を強要される可能性が強くなる。
また、ボフォース(スウェーデン)、サンタバーバラ(スペイン)、FN ヘルスタル(ベル
ギー)、モワーグ(スイス)、シュタイアー・ダイムラー・ピンチ(オーストリア)など多
数の欧州の名門兵器メーカーが米資本の支配下に入っている。これは軍事技術の米国の一
国集中化であり、憂慮すべき状態である。
我が国は世界有数の兵器輸入大国であり、このバイイング・パワーを有効に使えば特に
対米関係では政治的、外交的に大きなカードとなる。これを有効に使うべきである。
また、特に地理的に遠いため利害関係が生じにくく、工業水準が高いEU との軍事技術
交流や協力、輸入を増やすことは、米国への軍事力、軍事技術の一極集中を防ぎ、また我
が国が米国と軍事関係の交渉する際により良い条件を引き出すために必要不可欠である。
その他の地域でも、オーストラリア、南アフリカ、シンガポール、イスラエル、ロシア、
ウクライナなどの国々も優れた技術を有している。今後、これらの国々との技術移転や輸
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入、さらにはエンジニアや研究者などのスカウトなどまで視野にいれるべきである。そう
すればより低コストでの装備の開発調達が可能となるだろう。
1-2-3:小泉内閣における安全保障上の改革
現小泉内閣は行政の構造改革を旗印としている。メディアや一般国民には認知されてい
ないが、そのうちで最も目見える改革が進んでいるのが安全保障と防衛庁関連である。
小泉内閣以前、防衛庁長官は、一年生大臣生産用ポストとしてほぼ半年で交代しており、
長官が多く任期が短いため、政治力を発揮できず、また安全保障の知識が無い政治家が派
閥の論理で就任することが多かった。それ故防衛政策に関しては防衛庁長官の意志が反映
されず、内局官僚の策定した政策が閣議で了承されることが多かった。有事法を始めとす
る多くの改革は過去の内閣では到底不可能であったし、実際安全保障に関して改革らしい
改革がなされなかった。
提言者はこれらの改革の断行が、政府、官僚、民間防衛産業界の意識を変え、国営防衛
装備調達会社(JDEC)設立の実現が現実味を帯びてきたと考える。以下に改革例を示す。
☆ 有事基本法の制定
☆ 有事関連7法案の制定
☆ 2005年より統合幕僚会議を発展的に解消し、統合幕僚監部(仮称)を設立
☆ 防衛長官直属の「中央即応集団」設立を決定
☆ PKO 教育部隊の設立
☆ 陸自に狙撃手部隊を新設
☆ 陸自に特殊作戦群を新設、これを長官直轄部隊とした
☆ 空自の F2 支援戦闘機が高額、かつ性能不十分として調達の打ち切りが決定された
☆ 冷戦時の北部偏重配備を見直し、西部を重視
☆ 島嶼防衛を明言、陸自西部方面隊に専門の西部方面隊普通科連隊を設立
☆ 空自基地警備に装甲車を導入、基地警備専門部隊の設立を決定
☆ 陸自の戦車、火砲の大幅削減と部隊、装備の大変換を決定
☆ 参事官制度の見直しを検討
☆ 災害時における地方自治体と自衛隊の協力関係を強化
☆ 偵察衛星の配備を決定
☆ 3自衛隊の通信の統合を決定
☆ 情報本部を長官直轄部隊とした
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☆ 海自が自衛隊初の欧州製作戦用航空機である伊英共同開発の EH―101ヘリを導入
☆ 防衛駐在官は今まで外務省経由でしか内閣府、防衛庁に情報を送れなかったが、直接防
衛庁に情報を送れるようになった。
☆2005年にサイバー戦の専門部隊を陸自に設立を決定
☆ 海自地方隊の廃止、護衛艦の総数削減、自衛艦隊の編成の見直し
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■■第二章 株式会社防衛装備調達会社を設立せよ
2-1:株式会社形式の国営防衛装備調達会社設立
2-1-1:防衛庁と防衛産業界を繋ぐ組織が必要
これまで述べてきたように我が国の防衛産業を再編、本来の意味でのリストラクチャリ
ング(構造改革)を効率的に行う必要がある。国営企業化した防衛産業の意識改革と業界
再編、防衛庁を始めとする関連省庁の意識改革と縦割り行政から生じる弊害の除去を、ド
ラスティックかつ迅速におこなわなければならない。
その司令塔として国有企業たる日本防衛装備調達株式会社(仮称)を設立する。この組
織は防衛庁と防衛産業の間の中間結節であり、また行政機関と企業の二つの機能を統合し
た存在である。
株式会社にするのは、民間企業同様にバランスシートを公開し、経営の透明度を高める
ことで防衛費の効率的な使用を目指すためである。行政機関としての機能と、経営効率の
追求を両立させるためである。
2-1-2:防衛装備調達株式会社の業務
防衛装備調達株式会社のタスクは以下の通りである。
① 防衛庁・自衛隊の武器、装備の調達に関して全責任を負う
② 武器の輸出入に対して最終的な責任を負う。および内閣、防衛庁に対して政策提言を行
う。
③既に装備されている兵器、今後装備が検討されている兵器、更に防衛企業自体に対する
技術的な評価を行う。
④ 世界の防衛産業の実体を把握し、政府、防衛庁に対して適切な装備調達のコンサルトを
行う。装備調達の企画から配備、ライフサイクルコストの管理まで、広い意味でのマーケ
ティングを行う。
⑤ 防衛産業界の利害を調整する。このため、人員を民間、内閣府、防衛庁、自衛隊、経産
省、税関、会計検査院、財務省などから募り、縦割り行政を排除する。
⑥不要となった中古の装備を別目的に改良したり再使用ないし、別目的に転用するなどの
提案を行う。また売却や破棄も可能な限り経済的な方法で行う。これにはB to B (役所間の
取引、bureau to bureau)、及びその取り次ぎを行う。例えば自衛隊の装備を海保や地方自
治体に転売するなどの業務を行う。このためには各種法改正が必要である。
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⑦ 武器、装備の調達のみならず、訓練施設の運営、整備、人材派遣等も行い、総合的かつ、
効率的に防衛庁のサポートを行い、防衛費の効率化を実現する。
⑧防衛産業再編を主導する。民間で成立が難しい防衛部門、また技術はあるが単独では存
続の難しい零細を吸収し、防衛工業基盤の維持を図る。また防衛庁の組織も技術研究本部、
防衛施設などを吸収ないし、子会社化する。
⑨ 兵器や装備の輸入(FMS 含む)や国際共同開発の総合的窓口となる。また商社機能を持
たせ、海外のメーカーやコンサルタント、設計専業企業などと直接取引を行う。
⑩自衛隊のみならず、小火器、船舶、ヘリコプターなど海上保安庁、警察、消防などに装
備の共同調達を提案し、これにより調達コストの低減を図る。
⑪談合撲滅、特に官製談合を防止、排除するシステムを作る。
2-1-3:本案に対して出されるであろう疑問点や反論について
本案に対しては当然以下のような異議が出てくるだろう。
★Q1:防衛庁と産業界の中間関節となる国営企業を設立すればその分だけコストが上乗せ
されるのではないか?
☆A1:狭義における防衛産業、即ち兵器産業は機密性を保持し、かつ他に転用できない特
殊な技術が多いため、随時契約が多い。しかも防衛庁の強い管理下にあり、自主的な経営
努力の余地が少なく、事実上防衛庁と一体となった国営企業であるのが実態である。
その中間に効率を追求する自律的な国営株式会社を介在させることによって両者を分断
し、防衛庁に対しても、防衛産業界に対してもコスト意識の徹底を要求することが可能と
なる。
また行政分野においては防衛政策のまとめ役として防衛産業に関連する諸官庁の縦割り
行政の弊害排除が可能となる。またそのために各分野に精通したプロの人材を育成する。
官庁では特有の2年から3年ごとのキャリア(自衛隊ならば幹部)の頻繁な人事移動のた
めプロフェショナルな人材が育ちにくい。換言すれば官僚は自分の官庁には詳しいが、業
務には精通していない。また、その地位にいる数年が安泰であればよしとする事なかれ主
義、問題解決の先送りが恒常化している。企業であればこのような弊害を排除しやすい。
また財政の緊縮が叫ばれている現在でも電池や燃料、食品といった汎用品ですら、いま
だ談合(一部は官製談合)が絶えない。これらも「経営効率を重視する国営企業」をはさ
む方が排除し易い。
更に、一部の装備に関しては警察、地方自治体、海上保安庁、消防、文部科学省(宇宙
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開発含む)などまで「顧客」とすることで防衛庁以外の「マーケット」を拡大することが
可能である。
これらの理由からも防衛装備調達会社は防衛庁や経済産業省の管轄ではなく、内閣府の
管轄とすることが望ましい。
★Q2民間企業の防衛部門を防衛装備株式会社の子会社として国営化することは民営化、構
造改革に逆行するのではないか?
☆A2:後述するが火器など直接的な兵器の輸出は、これまで築いてきたわが国の平和国
家としてのイメージを損なうので慎重に行う必要がある。また先に述べたが、現在我が国
の防衛産業の生産現場では、装置の設置など些細なことでも防衛庁に伺いを立てなければ
ならず、硬直化している。
また、小火器を例に挙げれば諸外国で最も厳しい銃規制を行ってきた我が国では民間市
場も含めて小火器の市場も極めて小さい(拳銃の民間市場は存在しない)。銃規制の強化は
EU をはじめ、先進国でも進んでいる。銃器大国と呼ばれる米国でも規制が強化されつつあ
る(民間むけの拳銃の装弾数規制など)。しかも多くの小火器メーカーが市場でひしめき合
っている。つまり国内でも海外でも売り上げ増加を期待できない。
むしろ、各企業の零細規模の銃器部門を国営企業として統合・合理化しフル・ラインの
銃器メーカーを設立た方が効率的である。その上で警察や海上保安庁など防衛庁以外の需
要も調整し、計画開発生産プランを実行する方が経営効的である。
また民間企業がすべて効率的であるとは限らない。完全に市場経済にさらされた自動車
産業において「銀座通産省」と揶揄される程硬直した経営体制の日産自動車や、自社の欠
陥を長年にわたって隠してきた三菱自動車が経営危機に陥ったことはその証左である。要
は経営スキームと経営の透明度と責任の所在を明らかにすることが企業経営の健全化、効
率化につながる。
ビジネス規模の小さい民間防衛部門の乱立している現在では効率的な研究開発、調達は
不可能である。例を挙げればわが国が得意とするエレクトロニクスに関しても、防衛分野
においては大手電子メーカーの防衛部門が別々にシステムを提案しているために、コンピ
ューターのプロトコルはもとより、接続コードなどすらも統合化されていない。
さらにネットワーク化が進む現在、例えばネットにしても通信にしても有事の際に効率
的なシステム構築は防衛庁だけで孤立したものでは使い物にならず、他の省庁、さらには
地方自治体まで関連してくる。現在の体制ではそのような要求に応えられない。
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システム・インテグレーター、指令塔となる一定規模の防衛電子企業の存在が必要であ
る。その企業を中心に、業界との協力体制、またサブ・コントラクターとなる各メーカー
を競わせるをシステムをつくる必要がある。このコアとなる防衛電子専門企業はを設立す
ることは国営以外に設立が不可能であろう。
しかしながら、防衛装備調達会社の子会社はストラクチャーが整い、経営が安定した後
には、民営化を行うことも検討すべきである。この場合、政府が黄金株を保有し、その経
営権を維持しつつ、一定の株式を民間に売却する。むろん安全保障上の理由により外国か
らの投資家などに対する一定の規制は必要となろう。しかしながら、投資家による経営監
視により、より効率的な経営が可能となるだろう。
2-2:他国の防衛産業基盤の民営化、集約化の現状
世界では多くの国々で防衛産業基盤維持のための試みが行われている。我が国が参考とな
る例を以下に挙げた。
2-2-1:アームスコー(南アフリカ兵器会社ARMSCOR、Armaments Corporation of South
Africa Ltd.)
提言者が本提言の基本的なコンセプトを得たのが南アフリカのアームスコーである。ア
パルトヘイト時代、国連決議による経済制裁及び、兵器及びその生産設備の輸入が困難と
なった同国は、兵器や軍の装備などそのほぼ全てを国産化せねばならかった。
そのために国営兵器会社、アームスコーが設立されたのである。ここで最も注目すべき
は、第一に国営の工廠ではなく、効率を重視して株式会社形式の組織が採用されたことで
ある。これは当時同国が防衛装備調達の効率を極限まで高めなければ国家が存続できない
という状況であり、そこから生まれた知恵であった。
第二にアームスコーは、国内マーケットたる国防軍及び警察など国内の組織を対象に如
何に効率的に装備を開発供給することを主目的してきた。これは国是により輸出が禁じら
れてきた我が国にとっては非常に興味深いケーススタディである。
第二次大戦後、宗主国、英国から独立した南ア共和国は、独立後、主として旧宗主国の
英国、フランス、米国などから兵器を調達してきた。だが、人種差別法、アパルトヘイト
法を制定したため、国際社会から孤立し、次第に兵器の調達が困難となり、あらゆる種類
の兵器、装備の国産開発を推進することとなった。特に1960年代に入り、多くのブラ
ックアフリカ諸国が独立してからは国連において立場が悪化し、1962年には国連総会
で各国に任意に武器の対南ア禁輸が求められた。1963年同国に対する兵器の輸出を制
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限する国連安保理決議の181号、182号が採択され、その後1977年に安保理決議
418号により強制力をもった兵器禁輸が決議されて実質的に兵器およびそのサブコンポ
ーネント、製造技術の輸入が困難となった。
南ア政府も手をこまねいていたわけではなく、1964年にはMPB(弾薬製造委員会
Munitions Production Board)が設立され、その配下に弾薬メーカーのPMP、銃器の保守、
生産を行うLIW などの国営企業が設置された。MPB は1968年に購入を担当する
ABSA(南アフリカ兵器委員会、Armaments Board of South Africa)と開発生産を管理する
ADAPCOSF(南アフリカ兵器開発製造会社、Armament Development and Production of
Corporation of South Africa Ltd.)に分離された。
ADAPCOSF は株式会社形式であり、傘下に国営企業群を納めていた。ADAPCOSF にす
でにアームスコーの原型がみられる。1977年、この両組織が再び合併し、南ア国防軍
の兵器の調達と生産、それに兵器の輸出入に全面的に責任を負うアームスコーとなった。
先述のように通常であれば、国営兵器工廠として設立されてしかるべきのアームスコー
は、独特のストラクチャーをもった国営の株式会社として設立された。アームスコー本体
は生産設備を持たず、マーケティングや技術評価、投資などを行ういわば商社的な役割を
担い、実際の生産はアトラス・エアクラフト(航空機)、ケントロン(ミサイル・システム、
誘導爆弾やUAV)Lyttleton Engineering Works(拳銃、小銃、軽機関銃など小火器、及び
機関砲、迫撃砲、火砲など火器類)、ソーカム(火砲の装薬、爆薬、ロケット弾やミサイル
の推進システム)など俗に「マジック・イレブン」と呼ばれる11の子会社が担当してい
た。これらの企業は兵器の生産を行うために政策的に設立されたり、民間会社を買収、合
併して国営会社となったものである。更に大型民間自動車会社のTMF 社とロイメック・サ
ンダック社もアームスコーの監督下のもと、装甲車輌の製造を担当してきた。更にこれら
の企業の下には民間の下請け企業が多数存在し、ピラミッド的な組織を形成していた。冷
戦当時、アームスコーは南ア最大の企業体であった。
この間、南アではあらゆる分野において、兵器国産能力獲得のために努力をはらってき
た。この時期協力関係にあったのが、アラブ諸国と対立し国際的に孤立していたイスラエ
ルと、中華人民共和国が多くの国連加盟国から正当な政府と認められ、国家としては認め
られなくなった中華民国(台湾)である。この3カ国はレクサス同盟と呼ばれ、相互扶助
をおこなっていた。特にアメリカとのパイプが太く、独自の既に軍事産業を構築していた
イスラエルとの協力関係が南アの兵器開発・生産を軌道に乗せるまでの時間を大幅に短縮
27
した。
また南ア政府は兵器生産に関して欧米各国政府及び、企業から有形無形の援助を受けて
きた。例えば、兵器メーカーの開発者や技術者が一旦会社を離れて「個人」として、南ア
国防産業に就職する、といった手法がとられた。
また優れた研究者をスカウトするという、こ
とも行われた。火砲の権威であるカナダ人、バ
ル博士(イラクのスーパーガンの開発者)をス
カウトして、1983年に世界に先駆けてロケ
ット・アシストを使用せずに射程を大幅に延長
できるベース・ブリード弾、モジュラー型の装
薬を使用する最大射程39キロの長射程155
ミリ牽引型榴弾砲、G5を実用化した。ロケット・アシスト弾は砲弾内にロケット推進剤を
装填するため、その分弾頭部が縮小されて威力が減少する。G5 はNATO 諸国で採用され、
陸自も使用しているFH70(射程は通常弾で24キロ、ロケット・ブースター使用弾で3
0キロ)等の他国の155ミリ榴弾砲に比べて非常に長い射程を実現した。これは当時世
界で最も高性能の榴弾砲であった。またG5 をベースに、高い戦略移動能力を有する装輪自
走砲G6 を1986年に実用化した。皮肉なことに国連の兵器禁輸の結果として南アは国防
軍の使用する殆どの兵器や装備の開発・生産能力を高めたといえる。
アームスコーは徹底して合理的な生産システム構築を試み、それに成功したといえよう。
効率的な装備開発の例を挙げれば例えば、南ア陸軍は中型から大型まで全てのクラスの部
品を共有化したSAMIL(サウス・アフリカ・ミリタリ
ー)トラック・ファミリーを採用、これにともないそ
れまで使用していた軍用トラック、ウニモグが不要と
なったのでその駆動系を利用して、耐地雷装甲車マン
バが開発生産された。また、1970年代に南ア機械
化部隊の主力ラーテル6X6 装甲車ファミリーは20
ミリ機関砲に搭載したICV をベースモデルに、指揮通
信型、60ミリ迫撃砲搭載型、80ミリ迫撃砲搭載型、90ミリ砲を搭載した火力支援型、
スイフト対戦車ミサイル搭載型、8×8の兵站型(これは試作のみ)など殆ど全てをラー
テル・ファミリーでまとめ、兵站の負担を大幅に軽減した。
ベースブリードにより39キロという長射程を実現したG5榴弾砲
ファミリー化されたラーテル装甲車
G5 155ミリ榴弾砲
28
人口規模から兵力が限定されていた南アでは兵員の人命を極力失わないために、耐地雷
装甲車をいち早く導入した。また長い兵站を少数の人員で維持するために装備のコンポー
ネントをモジュラー化したり、入手が容易で安価な民生用部品の転用をするなどして兵站
の負担を減らし、前線での整備性と稼働率を高めた。即ち、1990年代以降各国が行っ
てきた合理化をアームスコーはすでに1970年代から行ってきたといえる。それ故同国
兵器の国際的評価は高く、90年代初頭の国際社会復帰後、同国の兵器輸出は急増した。
なお、民主化後の南アは国防軍の縮小に伴い、兵器の輸出に力をいれており、1993
年にはアームスコー傘下の製造企業群を国営コングロマリッド、デネル社として分離、現
在南ア兵器産業の国内向け売上高は4割に過ぎず、売り上げの6割が輸出であり、日本が
参考とするモデルとは成り得ない。
アームスコーの元幹部(都合により匿名)によれば、「南ア政府がアームスコー兵器工廠
ではなく、株式会社を設立したのは正解だった。行政機関は効率に無頓着であり、縦割り
の弊害もある。また防衛産業を単に国営化するというのも効率を落とすだけだ。アームス
コーは行政と、営利企業の二面をもち、行政機関と企業のバッファーとして、また国防相
と産業界、双方の審判として機能している」と述べている。
アームスコーは政府から無制限に資本を提供されるわけではなく、出資された資本の中
で経営を行ってきた。その子会社であるメーカー群も限りなく営利企業に近い経営形態だ
った。アームスコーの経営陣は民間出身のビジネスマンで占められており、民間的な経営
に徹してきた。また社員には複数の行政機関の出身者がおり、縦割り行政の弊害を廃して
政府、国防省に対して合理的な提案をしてきた。
「行政機関とメーカーの間にアームスコーのような新たに組織を設立することは、中間
に余分なコストが上乗せされるだけではないかとの批判はなかったのか?」との問いに対
して同氏は「無論、軍人や官僚からの抵抗はあった。だが、逆にこのような緩衝となる機
関を置くことが、国防費を合理的に執行できるのだ。それはアームスコーの過去の実績が
雄弁に物語っている。この場合、独立採算の組織であることが大事だ。無制限に政府に頼
れば企業としての活力と、経営的自立を失うだけだ。
アームスコーは研究開発に力をいれてきた。メーカー単独では採算面から投資しにくい
ような研究や基礎研究などを行ってきた。単独の企業では自分たちの目先の利益を優先し
た研究に力を入れがちになるからだ。だからアームスコーでは広い視野に立ち、国益を踏
まえたR&D に傾注してきた。
29
また、経営の効率化の面では世界有数の車輛テストレンジであるジェロテックのような
施設にも独立採算性と経営的自立を求めた。ジェロテックは現在では、日本の自動車メー
カーを含め、多くの自動車メーカーが利用している。また車輛の試験だけではなく、試乗
会や子供を対象としたイベントなど様々なビジネスを行っている。企業として生き残ろう
とすれば知恵もでてくる」と語る。
アームスコーは政府から利益率が決められている。故に、民間企業のように営利を追求
できる立場にはない。ただ、兵器関連の輸出入に関して一定のコミッションが認められて
いた。それに軍の払い下げの装備を外国に販売するのがそこそこの利益となった。
このような会社の性質故に社員にストックオプションを与えたり、経営陣が多額の収入
を得ることもない。社員のボーナスにしても年に月給の一ヶ月分程度である。
アームスコーの社員は公務員と、民間企業の中間的な立場にある。アームスコー職員の
賃金は公務員よりよく、民間の大企業よりは低い。だが保険や年金、医療保険などふくめ、
民間より身分は安定している。つまり民間企業のトップクラスの人材、野心を持った人間
は少ない。それ故、社員はハードワークこそが生き残るためにもっとも大事な要素である
とのことである。なお、冷戦時代の南アでは経済停滞のため、就職の機会が極めて限定さ
れていたことを補足説明しておく。
日本は余剰兵器も含めて、兵器及びその生産設備を輸出することができないが、アーム
スコーのような企業の存在は可能かとの問いに対して同氏は、
「可能だろう。我々も国連の兵器禁輸の制裁が解除されるまでは、それほど多くの輸出を
行ってきたわけでない。兵器産業を効率化、構造改革を行えば十分可能だろう」と述べて
いる。
2-2-2:アブロ社(ABRO)
アブロ(陸軍基地補修機構、ABRO 、Army Base Repair Organisation)は元来陸軍の
整備工場群をまとめ、会社形式の経営により効率化しようという趣旨で1993年に陸軍
から分離、MoD(英国防省)の直轄組織として設立された。その後、トレーディング・フ
ァンド(trading fund、行政サービスを目的に設立されたエージェンシーの中でも特に自
己収益性の高い部門)形式の組織に改変された。現在国内9カ所の事業所及び工場、施設
を有し従業員は約2700名である。また「顧客」は陸軍だけではなく、空海軍、さらに
は地方自治体などにまでビジネスを広げている。アブロは2003年、米Defense News
誌の防衛産業ベスト100社に選ばれているほど経営は順調である。2003年の売り上
30
げは1億5075万5千ポンドで粗利益が3286万6千ポンド(2002年はそれぞれ
1億5721 万5千ポンド、3364万3千ポンド)。
同社は資金を民間金融機関から調達しており、政府からの資金調達はない。例え経営が
悪化した場合でも、基本的に資金の調達は民間の金融機関からの調達に限られている。
アブロの本社工場は戦車や装甲車など複数の車輛のオーバーホールをおこなっているが、
四年ほど前からホンダやトヨタの指導を受けて、効率化を図っている。このカイゼンの導
入でめざましい効率化を達成したという。ここでは車輛が分解され、塗装が落とされ、再
整備された後、再塗装される。この工場では車体のみならず、駆動系、電気、電子系統の
整備も行われている。また不要となった部品は分解され、再利用可能なものはリサイクル
され、廃棄品とコストを削減している。
さらにワークショプではパーツなどで量産するとコスト高になる場合、自作する場合も
ある。また、兵器は長期にわたって使用されるために、リペアに必要な古い技術や設備の
継承も維持している。余分な部品の在庫をもたず、ごく少数のスペアコンポーネントがバ
ッファ用としてストアされている。
火砲などは近くにある別な工場で整備され、さらに試射施設で試射が行われる。ライン
各セクションには大きなボードがあり、そこにそこのセクションが現在行っている仕事の
売上、利益が表示されており、これが従業員のモチベーションを上げている。また同じボ
ードには、部品の調達、修理に関して、一日で調達とか、三日とか、色ごとに区分され現
場の作業員が視覚的に工程の進み具合を把握できるシステムが採用されている。
工場には装甲車や火器などのメーカーの社員が常駐しており、トラブル発生の際の解決
や連絡を担当している。またメーカー各社相互の人事交流もある。
同社のマイク・ヘイル社長によれば、アブロ設立は軍や国防省、メーカーからも抵抗
があったが、成果が上がるにつれて、抵抗が減少したとのことである。また英国国防省で
は兵器の開発、生産と整備は別物であり、それぞれを分化した方が効率的である、との認
識が浸透しているという。
アブロは陸軍だけではなく、海空軍の車輛、地上ベースの兵器、装備なども整備してい
る。海空軍にも整備組織があるが、これらは企業化が難しく、国防省に属しており、アブ
ロほど効率的ではない。
アブロは国防省から独立した会社組織となったことで効率化が進み、生産性は大きく向
上した。同社は国に、税金を払う必要はないが、利益の3分の1を国に支払い、3分の1
31
を社員にボーナスとして還元(全社員同じ率)するので、社員に連帯感が生まれ、モチベ
ーションも向上している。また他の3分の1は研究開発、設備投資、社員の教育などに利
用される。現場の社員からも改善提案があり、これも高いモチベーションの賜物である。
創業2年目には経営効率化のために370人をレイオフしたが、その後レイオフはない。
アブロは医療器具の整備も陸軍時代から行っているが、これは複数の異なるメーカーの
製品を一箇所で整備することにより効率をあげるためで、黒字部門となっている。
アブロの強みは車輛、火器、電子装備などあらゆる陸用装備をオールイン・ワンで整備
できることであり、これは他にない強みとなっている。同社の最終的な顧客は国防省であ
るが、実際はBAE システムズ・ランドシステムズ、H&Kなどメーカーを顧客としており、
整備のアウトソーシングに徹している点である。即ちメーカーと競合関係ではなく、補完
関係を構築したのも成功の要因と考えられる。
現在アブロは軍の要請により、イラクに展開している英軍支援ため、クェートに社員を
派遣しているが、万が一社員が、戦争によって死傷した場合は公務員同様の補償を受ける。
またアブロ自体も政府から補償を受ける。
同じ国防省下の組織DLO(防衛兵站機構、Defence Logistics Organisation)とは補完関
係にあり、競合はしていない。なお、DLOとDPA(防衛装備調達庁Defence Procurement
Agency)は本年9月に合併が決まった。
装備のライフサイクルコストの低減を目指すならば、我が国でも調達にとどまらず、ア
ブロのような整備に特化したオールイン・ワンの整備専門組織の設立を検討しても良いの
ではないだろうか。
現在同社はカナダのボンバルディア社と提携し、民間鉄道会社の列車の整備ビジネスに
参入している。これは英国で近年国鉄が分割、民営化されたため、列車整備のための施設
や人員が分散したためで、民営化された鉄道会社の整備を集約することにより、アブロは
新たなビジネスチャンスを得、また鉄道会社は整備をアウトソーシングし、コストを削減
できるメリットがある。
2-2-3:パトリア社(Patria Industries Oyj)
フィンランドは、冷戦時代西側にありながらフィンランド化といわれるように、ソ連と
の関係も重視する政策をとってきた。特に軍事では顕著で、兵器は概ね3分の1を西側か
らを3分の1をソ連から、3分の1を国内で開発してきた。防衛産業の約70~80パー
セントは国営企業だった。ところが90年代に入りソ連が崩壊し、国際兵器市場が統合さ
32
れ、小さな企業が多いフィンランドの防衛企業は生き残りが難しくなってきた。そこで9
7年に、小規模な防衛関係企業を統合・淘汰し、国有企業パトリア社として再出発した。
社員は民間企業と同じ待遇で、公務員としての待遇はまったくなく、政府も将来を保証し
ていない。ビジネス分野としては装甲車輌、火器システム、航空、電子、ネットワークソ
リューションの部門があり、10の子会社がある。
現在では、株の30パーセントをEADS 社が保有しており、他の欧州企業との関係を深
めている。この提携によりNH―90ヘリコプターのプロジェクトを一部請け負うなど仕
事量を確保している。パトリアは多くの小さな企業集団から成り立っており、企業間の人
事交流もあり、グループ内の労働力は流動的である。兵器の輸出に関してはかなり厳しい
政府の規制があり、紛争地域などに対して輸出は許されない。最終的に輸出は外務省が決
定する。また、同社の所轄は国防省ではなく、産業省の下にある。社長、副社長は民間人、
役員は、産業省、外務省、国防省、そして外部役員はEADS から迎えている。現在、同社
はその売り上げの50パーセントが輸出となっている。フィンランドのような小国では国
内市場が小さく、輸出がなければ経営は難しい。
因みに03年の連結決算2億5910万ユーロ、税引き前利益1640万ユーロ(02
年はそれぞれ2億3250万ユーロ、550万ユーロ)、親会社単体の03年の売上は40
0万ユーロ、税引き前利益は10万ユーロ(02年はそれぞれ260万ユーロ、210万
ユーロ)。
経営がうまく行かなければ、まず社長、副社長が責任をとり、次に取締役会、そして社
員のボーナスや給料が減らされる、最悪の場合レイオフもあり得る。国防省との間の契約
で、同社の国防省に販売する場合の利益は10パーセント以下と決められているが、プロ
グラムによりパーセンテージの交渉が行われる場合もある。また、国内市場でも外国の企
業が参加してのトライアルの場合、外国企業に負ける可能性もある。
パトリアは様々な企業の寄せ集めで、統合によるスケールメリットがでにくいのでは、
という問いに、シニア・アドバイザーのウォルフ・ヘッセル氏は「最新型のAMV 装甲車は
装甲車メーカーだけでなく、暗視装置メーカー、通信機メーカー、その他ファミリー企業
がサブシステムを担当するので、相乗効果が上がっている。国内の防衛産業がパトリア社
として統合され企業規模が大きくなることにより、企業の体力が増した。また不採算企業
の穴を、好調な企業が埋めることにより、全社ではトータルとして安定した経営が可能と
なっている」と述べる。因みに同社はまた売り上げの2割をR&Dに当てている。
33
2-2-4:ラーグ社(RUAG)
スイスでは1996年に8つの国営工廠が4つの国有企業に統合され、1999年にそ
れらが再統合され、航空宇宙防衛産業企業、RUAG(防衛産業株式会社)となった。更に
2000年に現在のラーグ社となった。株式は100パーセント国が保有している。同社
は火砲の弾薬を担当するラーグ・アモテック、指揮通信、情報、シュミレーター、トレー
ニングシステムなどの部門を担当する、ラーグ・エレクトロニクス、陸戦兵器を担当する
ラーグ・ランドシステム、小火器などの弾薬を担当するラーグ・ミュニション、航空宇宙
部門を担当するラーグ・アエロスペース、その他の部門や様々なコンポーネント担当する
ラーグ・コンポーンネントを中核として傘下に26の子会社を保有し、従業員は約580
0名である。
同社は外国企業を買収もするが、自社の子会社を手放すこともある、だが、その重要性
にあわせて一定の株式をラーグが保有し続ける場合もある。2003年の売り上げは12
億2140万スイス・フラン、営業利益は2600万スイス・フラン(2002年はそれ
ぞれ10億600万スイス・フラン、4400万スイス・フラン。)
身分が公務員から会社員に変更されることに職員の間にそれ程抵抗はなかったそうであ
る。社員の子会社間の移動は行われている。現在防衛産業だけではなく、売り上げの32
パーセントが民間向けであるが、民間企業からは特に「民業圧迫」という不平はでていな
いという。
報酬は基本的に成果主義で、ボーナスで調整を行っている。業績が向上すれば、サラリ
ーが上がる。逆に悪化すれば、ボーナスは減るか無くなる。更に業績が悪化した場合はサ
ラリーが下がり、レイオフもありうる。だが、レイオフは社員のモチベーションが下がる
ために、安易なレイオフは行わない経営方針で
ある。
会社の中で技術者などの専門職が社員の48
パーセントを占めている。ソ連崩壊後、スイス
は軍を縮小しており、国内だけでは売り上げが
成り立たない。外国から兵器を導入する場合で
も、極力ラーグ社が国産化する方向である。ド
イツから導入したレオパルド2戦車にしても、
アメリカから導入した戦闘攻撃機、F/A-18にしてもできるだけ国産化するようにしてい
F/A--18スーパーホーネット
34
る。
ラーグにはスイスの兵器メーカーで世界的にビジネスを展開している機関砲の名門エリ
コン・コントラバース社や小火器のSIG(現スイス・アームズ)社は参加しておらず、い
わば弱者同盟であったが、シナジー効果を発揮し、成績を伸ばしている。
2-2-5:キネティック社(QinetiQ Group plc)
98年、英国政府はMoD(国防省)のPPP 手法による
民営化の方向を示し、このため国防省の研究機関である
DERA( 防衛研究評価庁、Defence Evaluation and
Research Agency)から核関連など一部のセンシティブ
な研究を除き、キネティックとして2001年に分離。
会社組織となる。国防省に残った部門はDstl(防衛科学
技術研究所、Defence Science and Technology
Laboratory)となり、約3千人が残った。Dstl は核や外国との仕事などセンシティブな案
件を担当している。2002年にMoD はキネティックと民間企業であるカーライル・グル
ープの提携を認めた。本年同社は完全民営化を果たしたが、政府は同社の黄金株を保有し、
影響力を維持している。
キネティックには約9千名の社員(内約7千名が研究者)が42カ所の研究所などで働
いており、欧州最大の研究開発会社である。売り上げの8割は国防省である。同社のカバ
ーする分野は航空、陸上、海洋、ネットワーク、兵器、宇宙、訓練と、マネジメントなど
の分野があり、縦軸に、コンセプトワーク、設計、開発、製
造、テスト、ライフサポート&近代化、破棄技術など国防に
関する様々な分野にまたがっている。
具体的には、UAV の開発、垂直離着陸機の研究、センサー
などの開発、空洞実験、タッパウェア戦車とマスコミに呼ば
れた、複合材料で成型された装甲車の技術実証車(ACAVP:
Advanced Composite Armoured Platform)の開発、ロボッ
ト、地雷処理、トリマランと呼ばれる三胴実証船の開発など
である。
社長、CEO は民間人で、役員会は上記の2人のほか、6
名であり、社員の最年長は70歳、最年少は37歳である。
トリマラン(三胴船実証船)
タッパウェア戦車ことACAVP
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最大の顧客は英国防省で、年間500万ポンド以上の売り上げがある。国防省内に25
0以上の顧客があり、3000以上のプロジェクトを請け負っている。
キネティックは政府からの資金援助を受けていないが、むろん会社の原資たる資本は政
府から出されている。資本こそ、政府が出資しているが追加の支援を受けたことはない。
フランスの国営の陸戦兵器メーカーGiat 社が3度目の政府資金注入を受け、経営者が交代
し人員や工場の削減に追い込まれているのとは大きな違いがある。
社員の収入は成果主義であり、成績がよければボーナスが増えるし、悪ければ減る。サ
ラリーも同様である。研究開発専門だけに、売り上げに対する研究開発費は社外秘である。
研究自体も他に例をみないような独創的な研究・開発に従事しているが、製造は行って
いない。製造はメーカーに任せる、ないしは共同プロジェクトとして製品化している。こ
のため、民間企業から民業圧迫であるとの非難はない、という。研究現場では若手とベテ
ランを組み合わせることが比較的多く、このやり方が成果があがる場合が多いそうである。
同社は26の子会社をもち、その多くは国内にあるが、6社はアメリカにあり、米国企
業とも提携している。
2-2-6:ケーブ(KADDB、アブドゥラ二世国王設計局、King Abdullah II Design and
Development Bureau)
ヨルダンの国営兵器工廠、ケーブはケーススタディとして興味深い。中東諸国、UAE や
サウジアラビアなども、1990年代末ぐらいから自国での兵器の開発を行ってきた。そ
の中でも1999年にケーブを立ち上げたヨルダンは、中でも最も真剣に兵器開発を行っ
てきている国家である。ヨルダンは人口550万人、サウジやUAE と異なり、非産油国で
ある。このため、主たる産業は農業、軽工業、観光などで比較的国家財政は厳しい。
人口面からみても重工業や自動車産業などを起こすために必要な国内需要が見込めない。
これはイスラエルも同様で、イスラエルでも車両は生産されているが、その殆どは軍用車
両であり、最も重要なエンジン、トラッスミッションなどは米国などからの輸入に頼って
いる。鉄鋼産業なども同様である。
ケーブは元来軍人で特殊部隊の司令官でもあったアブドラ二世の強い指導力の元に、兵
器開発を元に国家の工業化を進めようと云う意図で運営されている。まず、自国軍隊の使
用する装備の国内調達率を上げ、それにより外貨の流出を防ぐ。また中東の気候、環境に
あった特徴ある兵器を開発して、周辺諸国を中心に輸出を行うことにより、外貨を獲得、
さらに、兵器産業で育成した人材や技術を、民生産業にスピン・アウトして、産業育成の
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基盤としようという狙いもある。
また兵器産業を介して周辺諸国と協力関係をもち、外交力の強化を狙っている。例えば
今年首都、アンマンで行われた兵器見本市SOFEX2004はUAE との共同開催である。
敢えて誤解を恐れずにいえば、ヨルダンは兵器産業面においてアラブ社会のイスラエルを
目指しているといえるだろう。
現在のところ開発は殆ど、外国から招聘した技術者や外国企業とのジョイント・ベンチ
ャーが中心である。例えば、英国から導入したチャレンジャー戦車の近代化の一環として
開発されたファルコンII 無人砲塔はスイスのラーグ社、南アのメカノロジー社、米国のレ
イセオン社などの協力で開発されている。
合弁会社の例としては英国の特殊車両メーカー、
ジャッカル社、南アの装甲車両設計会社、メカノロ
ジー社とケーブでヨルダン国内に合弁企業を設立
している。ケーブは、戦車の近代化、戦術UAV、
拳銃、航空機、各種軍用車両、特殊部隊用装備など
を幅広い分野の兵器、装備を開発している。
ケーブは1970年代に開発されたラーテル歩兵戦闘車、1980年代に開発された装
甲偵察車ロイカットなど南ア国防軍の余剰兵器を輸入、これらに改良を施し、自国用に使
用している。低価格で購入した既存兵器に改良を施し、販売すれば国防予算が乏しい第三
世界において需要はかなり見込まれるだろう。
これらのケーススタディから導かれることは、民間と競合しない分野において国営企業
はかならずしも非効率的とは限らないこと、ただしその場合、株式会社形式にするなど経
営責任を明確にし、政府が安易な資金注入を行わないこと、民間的経営手法をとることな
どが挙げられる。
また小規模のメーカーを一つのグループに統合することでシナジー効果と効率化が生じ
ること、外国の企業からの技術移転、ジョイント・ベンチャー、更に既存兵器を改良する
ことで、低い費用コストで、装備の調達が可能であり、技術力の向上につながる可能性が
あることが指摘できる。
ファルコンII無人砲塔を搭載したチャレンジャー1戦車
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■■第三章 装備調達会社設立の前提条件
3-1:自衛隊の変革
防衛装備調達株式会社設立を実現し、機能を発揮するためには防衛庁・自衛隊も変わら
なくてはならない。
防衛庁は2005年度に、単なる三自衛隊の調整機関に過ぎない現在の統合幕僚会議を、
三自衛隊を統合運用するための統合幕僚監部(仮称)に改変する。また、三自衛隊間での
指揮通信系統の統合、更に装備購買や、医療、兵站の統合化を進めている。この取り組み
は過去に例を見ない大きな変化であり、評価に値する。
この自衛隊の統合運用化は、防衛装備調達会社を設立し、より効率的な兵器、装備の調
達、訓練、兵站の整備、実戦的な装備体系を整備するためには前提条件となる。
3-1-1:国防計画局、ドクトリン開発コマンド(戦闘教義開発司令部)の設立
防衛庁にも自衛隊にも、中期長期的な視野で将来の環境を分析し、それに対応するため
の具体的な戦略、自衛隊のコンセプトやあり方、またその装備体系のあり方を策定する組
織が存在しない。このため防衛庁にそのような機関として国防計画局設立する。この組織
においては文官、制服組両方から人材えて設立することが望ましい。
また、統合幕僚監部においては、中期的長期的視点から我が国を囲む政治、外向的環境
の変化や、科学技術の進歩を考慮して、俯瞰的な立場から全自衛隊にどのような装備を開
発、配備するべきかをより具体的にするドクトリン(戦闘教義)開発コマンドを設立する
必要がある。そのドクトリンに沿った装備体系の収得を提案する。また三自衛隊にもそれ
ぞれドクトリン開発司令部を設置する必要がある。
3-1-2:防衛産業再編の前提は天下りの解消
ソ連崩壊後も我が国の防衛産業の再編が進まない原因のひとつは、防衛庁の退職者が多
数の天下り先を必要としていることにある。防衛庁・自衛隊は我が国最大の公務員組織で
あると同時に他の公務員、民間企業に比べて退官年齢が低い。民間企業や他省庁の定年が
65歳に対して、将官でも60歳、隊員の多くが53~55歳(士クラス除く)であり再
就職を捜すのは非常に困難である。特に将官、佐官の天下り先として防衛産業はなくては
ならない「必要悪的」存在となっている。また、現制度では中途で退官すると経済面から
非常に大きな不利を被る。これも解消する必用がある。
1999年の自衛隊法改正にともなって2000年に自衛隊員の再就職手続きが改正さ
38
れ、いわゆる天下りの是正に一歩踏みしたが、いまだ防衛産業界に防衛庁・自衛隊の天下
りが多い事実には変わりがない。再就職問題を更に悪化させているのは幹部自衛官の予備
役制度がないことである(予備自衛官は陸自のみ二佐まで、空海自は曹クラスまでである)。
このような異様な人事制度は諸外国の軍隊ではみられない。これは自衛隊の人事制度のも
っとも致命的な欠点である。
将校の予備役制度をもっていた旧日本軍ですら、日清戦争から第二次大戦まで、戦時に
おいては、常に消耗した将校の補充が追いつかなかった。育成に長い年月がかかる将校と
くに、佐官クラスの予備役が存在しないのは、継戦能力の面でも著しく不利である。防衛
庁は過去の戦訓を軽視しているとしか思えない。
将校(幹部)への多様な予備役制度を導入し、若年での退役や、若いときに一度予備役
となり、研究機関や学校、民間や他の仕事に就き、また自衛隊に戻れる、といった柔軟な
制度改革が必要である。まず防衛産業界への天下りをなくすことが業界再編の条件である。
更に自衛隊内では、再就職援護という非直接業務に多くの人手を取られており、これも
人員及び人件費を押し上げている原因となっている。再就職問題を解決しなければ防衛業
界の再編成は不可能である。
3-1-3:将校(幹部)の予備役制度の確立と定年の延長
自衛隊の組織とその人事の柔軟性を確保するためには、幹部の予備役制度が必要不可欠
であり、装備調達会社設立のための人材確保と防衛庁の効率化に関してもぜひとも必要な
前提条件である。
現在でも一旦退官した自衛官、事務官などを再雇用する再任制度があるが、これを更に
充実させる必要がある。この場合、給与は定年時の5~6割程度となるが、特に地連など
非直接戦闘業務に関して再任者をあてれば、相当の人件費の圧縮と、同時に再雇用の確保
が可能となる。また、研究機関、医官、経理などの職種などであれば、現在の定年をこえ
て60~65歳くらいまで個人差を見ながら定年の延長ないし、再雇用すべきである。
またパイロットや、艦艇乗組員、車輌、船舶、航空機などの整備員どは予備役として民
間企業に就職を斡旋し、ある程度の給与を防衛庁が保証すれば、定年の延長が可能となる
し、また有事の際の予備役確保にもなる。このため、以下の提案を行う。
① 定年の延長:地連や事務職、各種学校教官、研究職、情報関係など非戦闘職種に関して
は定年を延長、また再雇用者を優先的に当てる。
再雇用:一旦退官した職員を能力、技能、体力などを査定し、契約社員的に再雇用する。
39
② アウトソーシング&ヘッドハント
自衛隊では外部委託が可能な部門の業務に多くの若い隊員が専従している。例えば、広
報関係などは短期で転任する将校ではなく、PR 会社経験者などを採用しこれにあてるべき
である。これらの業務をアウトソーシングやその道のプロに順次置き換えていき、業務の
効率化をはかれば自衛官の数を減らせる。実際に医官では既に民間医を防衛医官に採用し
ているのだから民間人を自衛官として登用ことが出来ないはずはない。
③ 若年で即応予備役化、関連業界に再就職
例えばパイロット、艦艇の乗組員などの特殊な技能保持者、航空機、艦艇、車輌の整備
員などを航空会社や、商船会社などに斡旋する。その際、年に一定期間の密度の高い訓練
を義務づける。その代わりに、給与の一部を防衛庁が負担する。こうすれば企業側として
は人件費を低く抑えられる。
特に国際航路の船舶に関しては我が国の税金が高いため、我が国の商船会社の保有して
いる商船はリベリアやパナマなど税金の安い外国船籍となっている。また日本人船員はほ
ぼ船長のみで、後は外国船員、といったケースが多い。これでは有事の際に船舶の確保が
不可能である。
財務省は船舶に対する課税の軽減を行うべきである。自国の商船が日本船籍となれば結
果として税収は増える。また商船会社やエアラインには予備自衛官を乗員や整備員などと
して採用した場合、減税や補助金等の優遇政策実行する。これに加え、海上自衛隊予備役
の採用によって日本人船員を増やし、有事における海自予備要員及び、最低限の海運機能
の確保をはかるべきである。
④ 地方自治体への再就職
現在でも、自衛官を防災などの部門で採用する地方自治体が増えているが、これを増
やしていく。彼らは防災担当及び、災害時の自衛隊と自治体との連絡員の役割を担える。
その際、③と同様に年に一定期間の密度の高い訓練を義務づけ、その代わりに、給与の一
部を防衛庁が負担する。こうすれば採用する自治体側としても人件費の抑えられ、防衛庁、
自治体双方の利益となる。
⑤ 教員
現在我が国の大学には安全保障論の講座は存在するが、軍事史や、戦略論、軍事技術な
ど軍事を専門とする講座が存在しない。これが我が国で防衛論議が常に「神学論争」とな
ってきた一因である。現在では学生の間でも軍事に関する興味が高まっており、大学に軍
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事学(理系、文系問わず)の設置を働きかけ、その教官として退官自衛官を斡旋する。
⑥ 他の省庁への再就職
経産省、警察庁、税関などには武器の専門家がいない、ないし非常に少ない。これらの
官庁との連携を強めるために兵器の専門家などの退官者の再就職を斡旋する。
⑦ 防衛装備調達株式会社に再就職
必要と思われる人材を、防衛装備調達株式会社にリクルートする。その際単なる天下り
ではなく、仕事本位の評価基準を設け、それに基づき採用する。更に防衛装備調達株式会
社が子会社としてアウトソーシングと人材派遣の専門会社を設立し、退官した人材を雇用、
派遣や、防衛庁・自衛隊の業務を請け負うなど「官業」を「民業化」して効率化はかるこ
とも検討すべきである。
3-1-4:将官の階級の細分化
諸外国の軍隊と比較して、自衛隊が異様なのは将官の階級が、それぞれが少将と中将に
当たる将補、将の二つのみしかないことである。三自衛隊の幕僚長、及び統合幕僚長のみ
が、非公式な大将待遇である。総兵力26万人の軍隊で、大将が四名(しかも非公式)し
かおらず、あとは少将、中将というのは異様な悪平等である。企業ならば役員といっても
専務なのか常務なのか明確でない状態であり、放置すべきではない。
将官の階級を他国並に准将・少将・中将・大将とし、相応に処遇もや人事評価が外部か
らも分かりやすくすべきである。これは防衛装備調達会社や他の企業に、出向や転職する
とき明朗な目安となる。また人件費の抑制につなげることも可能となる。
3-2「武器輸出三原則等」の見直し
2004年夏、防衛庁に設置された「防衛力のあり方検討会議」、首相官邸の「安全保障
と防衛力に関する懇談会」、更に経団連が相次いで「武器輸出三原則等」の見直しを求めた。
「武器輸出三原則等」の見直しは防衛装備調達株式会社の設立においても不可欠である。
だがそれには二つの面から見直すことが必要である。
3-2-1:見直しの前提は業界の再編成
第一に現在のままでは諸外国との共同開発、ジョイント・ベンチャーが出来ない。この
ため高度な装備を開発する際に、その開発費及びリスクを我が国のみで負担せざるを得な
い。また生産にしても自国で完結するため量産効果が期待できない。更には研究開発や投
資の集中と選択の幅も狭くなる。また、今後も生産数が減少する状態が続けば、調達コス
トは高騰し、防衛装備の効率的調達が難しくなる。このため、国際共同開発、共同研究、
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技術移転などの面からは見直しが必要である。
逆に安易な兵器輸出による短期的な利益確保を念頭に置いた見直しは防衛産業界の効率
化を妨げ、さらなる保護につながりかねず、結果として更に我が国の防衛産業の競争力を
下げることになる。
このため「武器輸出三原則等」の緩和の際にはまずは我が国の防衛産業界において、業
界の再編成・合理化を行う必要がある。さらに外国からの積極的な技術移入、さらには外
国人研究者、技師などの人材の受け入れ、外国の企業に設計の委託やコンペティションへ
の参加を促すなど、一歩踏み込んだ政策の検討も必要である。
3-2-2:単なる武器の輸出に対しては慎重に
特に火器の輸出に対しては慎重に対処すべきである。特に紛争地域で多用されている銃
器などの小火器や携行型対戦車ロケット、迫撃砲などの軽火器に関しては引き続き自粛す
ることが望ましい。我が国が、兵器輸出を自粛してきたことは外交上クリーンなイメージ
を形成することに役だってきた。これは否定できない事実であり、我が国の外交上の財産
である。
更に輸出を自粛することは技術移転や共同開発の相手国にとっては移転された技術を、
第三国に輸出されたり、我が国が自国の潜在的競争相手となる可能性が低くなる。これは
技術提携国に対して大きなメリットになる。これを安易に捨て去ることは国益に反する。
モデル例を挙げよう。例えば多目的戦闘機を開発するのであれば、独自に戦闘機を開発
し、運用環境が似ているスウェーデンと提携するとしよう。この場合、我が国及びスウェ
ーデン双方とも輸出を禁じる。我が国が200~250機程度を採用するのであればスウ
ェーデン側にもメリットは大きい。現在スウェーデンは同じ機体で制空、攻撃、偵察をこ
なす多目的戦闘機グリペンを生産、輸出しているが、輸出営業は同社の株式の30パーセ
ントを保有するBAE システムズ社が協力している。同社の世界的な営業力をもってしても
グリペンの採用国は南アなど一国あたり30機適度がせいぜいで、合計しても輸出は10
0機も越えないレベルである。しかも輸出が成約してもBAE システムズにマージンを払う
必要がある。営業コスト、輸出が振るわない場合のリスクを考えれば、互いに輸出を制限
しても我が国との共同開発のインセンティブは大きいだろう。
3-2-3:変わりつつある武器の定義に対応できる体制づくり
第二に科学技術の進歩と、民生品の軍事転用などが進み、過去の意味での兵器の定義は
時代遅れとなり、実質的に武器禁輸は相当な分野で有名無実化しているのが現実である。
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その中でも高性能CCDカメラ、精密ベアリング、炭素繊維、薄板高張力鋼などは我が
国しか供給できない、もしくは我が国が圧倒的な性能的優位もっている製品が多数軍用に
転用されている。
更に工作機械も我が国はその主要輸出国であり、我が国の工作機や検査機器などを使わ
なければ、精度の高い兵器の生産はできない。「武器輸出三原則等」では現在武器のカテゴ
リーに入っていない分野や、漏れている製品や素材、ロボット技術など日本が得意とする
先端技術の軍事転用には、逆により強い歯止めをかけることも必要であろう。このため何
が兵器か、軍事技術かということの抜本的見直しが必要である。
また制度の面からも空洞化が進んでいる。経産省の見解では我が国の航空産業が開発に
参加した外国の民間用航空機例えば、ボーイング767など機体が早期警戒機や、空中給
油機など軍用機に転用される場合、これを日米以外の第三国に輸出されるのを禁じており、
国内の航空機メーカーや炭素繊維など素材メーカーが輸出できないことになっている。
だが、ボーイング社は第三国に対する767ベースの軍用機の輸出売り込みを行ってお
り、経産省の見解は事実上無視されている。また日本の航空機メーカーはその他にもエア
バス、ボンバルディア、エンブラエルなどの航空機メーカーのパートナーないし、下請け
として航空機開発生産に参加しているが、経産省が厳格に規制の実施を行えば日本企業が
参加して開発生産した機体は軍事転用が不可能となる。
航空機産業は非常に投機性が高い産業であり、メーカーは一機でも多く売り、開発費を
回収し、利益を確保する必要がある。はじめから軍用機転用を禁じられるのであれば日本
企業は外国の機体メーカーのパートナーないし、下請けからはずされる。即ち我が国の航
空機メーカーは民間機市場から事実上閉め出されることになる。
また、NGO などが国内産業と組んで、地雷処理機を海外に輸出し、地雷除去おこなった
り、国内メーカーが地雷処理機を外国で生産しているが、これらの機器は諸外国では工兵
用兵器として認識されている。これに対して政府は02年に対人地雷処理用の製品は特例
であると発表している。
だが、経産省の見解では「対戦車地雷処理機などは兵器扱いとなるが、対人地雷処理機
材は輸出に個別審査が必要であるが、『汎用品』として扱われる」との見解を示しており、
国家として見解が統一されていない。だが一部のメーカーでは対戦車地雷も除去できる製
品が「人道援助向け」として開発されている。このような曖昧な「例外」が今後増え続け
れば、「武器輸出三原則等」は更に形骸化する。
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国際的に見て「兵器」と認められるものは「兵器」として扱い、その上で「特例」扱い
するのであれば、定義を厳しく行い、更に輸出後の追跡調査まで含めて責任をもって同一
の組織が行うべきである。
3-2-4:「防衛装備調達会社」で兵器・武器の定義の一元化を
また我が国においては武器の製造、輸出、輸入、保持に関して関係する省庁は警察庁、
財務省関税局、経産省、防衛庁、国交省等、文部科学省があり、それぞれで兵器・武器の
定義が異なっている。このため複雑化した現在の複雑化、国際化した兵器・武器問題に対
応できないし、国家として統一見解が無い状態が続いている。
また、ワッセナリー条約などに対しては経産省が対応しているが、ワッセナリー条約以
前のココムの時代から他の参加国では長年同じ人物が担当することが多く、サロン化して
いる。ところが我が国の担当者は、キャリア官僚特有の短期の人事ローテーションため、
常に担当者が変わるのでこの「サロン」に加われず、実質的に議論の埒外におかれてきた。
これらの現状を是正するために、武器に関する統一機関を防衛装備調達株式会社内に設
け、警察庁、財務省関税局、経産省、防衛庁、国交省、更に外務省、文部科学省からの出
向者らで構成する審査機関を防衛装備調達社内に設立し、継続的にワッセナリー条約など
国際条約を担当する専門部署を設立しエキスパートを育成する。
つまり省庁縦割りの弊害を避けるために、防衛装備調達株式会社が一元的に兵器、武器
とは何かという定義を決定し、輸出入に関する認証の最終決定機関とする。
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■■第4章 防衛装備調達会社の業務
4-1:装備、防衛企業などの技術的な評価を行う
配備が予定されている装備、実際に自衛隊に配備された兵器や装備の性能や、運用成果
を評価する。配備されたが、不都合のあるもの、また使用環境が開発時には想定しないも
のに変わってしまい、兵器、装備が効果的(費用対効果含む)に機能しているかを技術面、
経済面から常に見直す。必要とあれば改良したり、他の目的に転用する、ないしは廃棄す
ることを防衛庁に進言する。
4-1-1:外国産装備のサンプルの購入及びその研究開発、管理を行う
更に、現在ほとんど行われていないが、航空機や装甲車輌などの正面装備から兵站用の
装備など、研究用のサンプル購入なども行う。これには、仮想敵となるであろう、旧ソ連
諸国などの装備も含む。実際に使用してその性能を評価して、必要とあればそれらを自衛
隊の装備として、輸入ないしはライセンス生産、また技術移転を防衛庁、自衛隊に進言す
る。またこれらの装備と自衛隊の装備の比較なども行う。
4-1-2:兵器装備の研究・開発・試作と量産の分離
基礎研究、新装備開発のための研究開発、試作、これらを量産品の生産と分けて考える
必要がある。現在は研究開発費が開発メーカーに適正に支払われておらず、不明瞭な形で
製品の調達費に上乗せされている。このため我が国の兵器、装備の表面上の兵器開発費は
額面上よりも少なくなっている。また、メーカーは防衛庁から正式な開発の発注がある前
からリスクを抱えて独自に開発を進めているのが実状である。故に一旦開発が開始された
装備に欠陥が有ったり、時代に合わなくなっても量産される傾向がある。
諸外国では開発、試作のみを行う会社も多い。基礎研究、R&D、アイディア、コンサル
ティングなどに対して予算を組み、相応の対価の支払いをなすべきである。それが経費の
明瞭化につながり、ひいてはコスト削減につながる。
例えば装甲車輌メーカーが一社に統合さたとする。この場合開発会社と生産会社を分離
できないとしても、開発に関してはトライアルを行い、日本の商社などを組ませて海外企
業を参加させるべきである。生産は国内企業が担当するにしても、試作トライアルで負け
れば、国内メーカーの利益は減る。これにより、国内企業の研究開発部門の緊張が維持で
き、開発能力も高まる。
4-2:トライアルの開催
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防衛庁・自衛隊と協議し、調達装備の仕様要求を決定した上で、国内外の企業からトラ
イアル参加を求め、これを運営管理する。実際に同じ条件で各候補の試験を行うことによ
り、公平な試験が行われる。また優れた装備の調達が可能となる。
書類選考を経て、実際に機材を持ち込んでトライアルを行った企業にはしかるべき対価
を支払うべきである。
4-3:海外の防衛産業の実体を把握し、防衛庁に今後の装備調達のコンサルトを行う
自衛隊各幕僚部は装備調達に必要な専門知識、総合的な見識を十分に有していない。
また情報を収集しても、それが装備採用に反映されないという通弊がある。統合幕僚監部
(仮称)が発足しても、三自衛隊が予算獲得では互いに、予算獲得の競争相手であること
は変わりない。これは米国など統合参謀本部を有している他国でも同様である。
防衛装備調達会社は政府、防衛庁、三自衛隊、産業界など俯瞰した立場から装備調達に
関するアドバイスを防衛庁長官及び三自衛隊に対して行う。このために、北米、欧州など
主要兵器生産国に支社ないし、事務所を開設し、海外の防衛産業の情報収集を行う。
4-3-1:国際防衛産業見本市での日本パビリオンのオーガナイズ
世界各地ではファンボロー航空ショー(英国)、ユーロサトリ(フランス)、ディフェン
ドリー(ギリシャ)、IDEX(UAE)など多くの国際防衛見本市が開催されている。
防衛装備調達会社が主体となって主な見本市に出来るだけ多く日本パビリオンの出展を
オーガナイズし、防衛庁、自衛隊、防衛産業などのブースを出展させる。
この種の見本市は世界の防衛装備の現状や先端の技術が紹介され、また現場の軍人やメ
ーカーの技術者などとも交流でき、効率よく情報の収集ができる。また、ヒューミントな
情報の宝庫でもあり、各国の産軍との交流の場でもある。世界の市場の動向などについて
生の情報の入手は装備開発・導入に不可欠である。
これまで自衛隊ではこの種の見本市に対しては代表団を送っても、人数も少なく、また、
毎回違う人間が参加し、表敬訪問の域をでなかった。しかも大抵、特定の総合商社のアテ
ンド付で、通訳まで依頼している。これは特定企業の利益誘導にもつながり、産軍癒着の
温床になる。また当然、通訳やアテンドの費用は最終的には調達する製品に転嫁される。
こんなことがまかり通っているのは我が国ぐらいである。
防衛駐在官が視察してもその情報収集能力には限界がある。例えば陸戦兵器の見本市に
海自や空自出身の駐在防衛官が行っても、効果的に情報の収集はできないし、物理的に一
人で大きなショー全体を網羅することは不可能である。この種の見本市では継続して参加
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しないと、人的コネクションの構築ができず、重要な情報の入手も困難である。情報収集
には継続かつ体系的な努力が不可欠である。
防衛庁、自衛隊の各幕僚部ではこのような機会を有
効に利用していないために、国際的な常識からは無理
難題と思えるような非常識な要求を日常的にメーカ
ーや商社に要求している。それが商社の手数料やメー
カーの生産コストを高い水準に留めている元凶の一
つである。
防衛庁・自衛隊、防衛装備調達会社が共同でこの種の見本市に出展するメリットは多い。
以下にその例を挙げる。
A)自衛隊と軍隊との違いを具体的に世界の防衛関係者にアピール、説明する場として活
用できる。
B)防衛関連の情報が非常に効率よく収集できる。また実際に現場の関係者から生の声、情
報の入手ができる。できるだけ、多くの部隊、開発現場レベルの人間を派遣すべきである。
この点では常に各ショーに多数の産軍問わず多数の人員を派遣している中国を見習うべき
である。
C)近い将来自衛予定している装備開発のプログラムや、そのトライアルの発表の場として
活用できる。
D)我が国に装備やサービス、技術などを売り込みたい外国企業に対応するブースを用意し、
我が国の調達の仕組みを説明したり、商社などをパートナーとして紹介するなどして、外
国企業への窓口とすることにより、内外の競争の促進を図れる。
E)会場で記者会見を開き、諸外国のメディア、特に軍事専門のメディアに対して、直接メ
ッセージを送ることが出来る。特に防衛庁長官や制服組トップの記者会見や他国のカウン
ターパートとの意見交換の場としても利用できる。
F)見本市以外にも海外では防衛及び防衛産業関係のシンポジウムなども多数行われており、
これらに継続して人員を派遣して情報を収集すればあろう。
4-4:広い意味での防衛産業のマーケティングを行う
近年では防衛に関する技術の進歩が早い。更に陸海空軍といったこれまでの垣根が取り
払われつつある。また自衛隊の主要任務に格上げされたPKO 行動では国内とは異なった環
境での任務となり、国内とは異なった装備や訓練が必要となる。これらの状況に対応する
アブダビで開催される見本市、IDEX
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ために単なる個々の装備開発に対するマーケット・リサーチではなく、川上から川下まで
含む幅の広いマーケティングを行い、それを開発や生産、政策立案に活かすべきである。
4-5:防衛産業界の利害を調整
防衛産業には防衛庁のみならず、海上保安庁、国土交通省、経済産業省、外務省など関
連省庁が多い。防衛装備調達会社はこれらの機関の意見調整を行う。このため、人員を民
間、内閣府、防衛庁・自衛隊、経産省、会計検査院、財務省関税局(税関)などから人材
を集め、縦割り行政の弊害の打破を狙う。
現在の兵器の定義が複数の官庁で異なり、武器の調達でも経産省、国交省、防衛庁など、
関係諸官庁の縦割りとなっており、機動的な政策立案、実行が難しい。例えば、現在経産
省と三菱重工が主体となり、50席程度の旅客機の開発を進めているが、これが最近では
100席ほどの機体に変更される予定となっている。つまり初めに開発ありきであり、こ
のプロジェクトは旅客機ビジネス参入には結びつかず、単なる実験的開発に終わる可能性
が高い。これが三菱重工自身のプライベート・ベンチャーであればまだしも、経産省がそ
の開発費の半額を負担することになっており、これは実質的にCX、PX 商戦で川崎重工に
主契約を取られた三菱重工に補助金とも受け取れ、単なる税金の無駄使いに終わる可能性
が高い。
また、装甲車輌など開発において道交法に阻まれて、本来開発したいサイズの装甲車が
開発できない、等という行政と技術が絡む問題の解決には官庁間の調整が必要でそれを防
衛装備調達会社が担当する。そのため防衛装備調達会社では関連諸官庁、民間から人材を
登用する。この場合出向ではなく、転職者を中心に人員を募集するべきである。
4-6:中古の装備の売却
車輌や建機、輸送機、ヘリコプター、衣料、その他不要となった装備などは破棄するの
ではなく、他の省庁(艦艇ならば海上保安庁等)、民間や、地方自治体、外国に払い下げる
部門を設ける。また中古兵器などを防衛装備調達会社が購入し、実験用のターゲットなど
にとして別の製品として改造し、再度防衛庁に販売するなどの方法も活用すべきである。
4-7:装備のリースなど
自衛隊が使用する武器や装備を防衛装備調達会社が購入し、それを防衛庁にリースで導
入する。これにより、より柔軟な調達が可能となる。例えば防衛庁が護衛艦を防衛装備調
達会社からリースで調達し、リース期間が終わった後、防衛装備調達会社が兵装などを撤
去し、改装し、海上保安庁に販売する。この場合、防衛庁は破棄による負担を負わずに済
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むし、海上保安庁は強度の強い軍艦規格の船体を安価に入手出来るというメリットがある。
または防衛装備調達社が海外メーカーからのリースの窓口となる。この場合、輸入した
武器をメーカーに返却しても「武器輸出」には当たらない。さらに破棄の費用が発生しな
い。
特に政府専用機や連絡機など、実質的に民用機を導入に際してもリースならばリース契
約後売却するのも容易である。現在防衛庁でも既に宿舎建設などにおいてPFI(民間資金等
活用事業、プライベート・ファイナス・イニシアティヴ、Private Finance Initiative)を
導入しているが、更に英海軍のように輸送船の建造など装備調達までPFI 利用するなど、
多様な金融手法を用いて、最も効率の高い方法で装備を入手する。
4-8:外国からの中古兵器の調達
長年自衛隊は輸入兵器も含め新品ばかりにこだわってきたが、諸外国は先進国でも中古
兵器や機材を購入する場合は少なくない。例えば空中給油機などは中古の民間機から製造
されることが多い。またC130 輸送機など国際的なベストセラーとなっている機材の場合、
輸入した機材が損耗、ないし追加したい場合、新たにメーカーから購入するより中古を購
入する方が安いし、早く調達できる。さらに兵員輸送車など輸入し、これを国内で近代化
したり、歩兵戦闘車など他の用途に改造すれば安価に装備を調達できる。
4-9:訓練、整備施設の運営、人材派遣等
防衛装備調達会社は現在防衛庁・自衛隊が保有管理する訓練施設の保有、管理などを引
きつきこれをビジネスとして効率的に運用する。
4-9-1:国内の訓練施設の運営
防衛庁・自衛隊が保有しいている教育、訓練施設、例えば初等練習機やヘリコプターの
教育機関、車輌の整備訓練施設など、市街戦の訓練施設、射撃場などを譲り受け、その管
理運営をおこなう。これらを警察や海上保安庁、自治体、外国の軍隊や治安組織にレンタ
ルすれば使用料を徴収できる。
4-9-2:海外に訓練施設を設立・運営
更に米国やオーストラリアなどの砂漠に、練習、演習用の基地を確保し、その運用を行
う。これらの基地には常に使用する機材、訓練施設を常備しておく。
現在国内の演習場は狭く、大規模な部隊の演習が不可能であるばかりか、兵器の射程は
延びる一方で、火砲などの最大射程での射撃訓練もこれまた不可能である。しかも地元に
多額の対策費や補償費を支払続けている。
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航空機の訓練でも我が国の場合、海上での訓練を余儀なくされているが、これは地上を
飛ぶのと比べ、距離感が掴みにくいというデメリットがある。広い外国、特に米国や豪州
の砂漠地帯のように晴天の多い場所であれば飛行可能な日が多く、訓練が効率的に行える。
本国では冬場に日照時間の短いドイツ空軍は既に米国に訓練施設を保有している。また
英軍はカナダに演習場を持ち、大規模な地上戦闘の演習を行っている。
現在自衛隊は米国内の米軍施設で実射訓練をおこなっているが、その都度機材を運送し
ており、そのコストも無視できない。訓練基地分の装備を余分に生産し、現地に置いてお
けば、そのようなコストも必要なく、人員だけ輸送すればことは足りる。余分に生産して
も生産レートが上がればトータルの単価を下げることが出来、全体として調達費用は安く
なる可能性が高い。これらの装備は有事に際しては予備用の装備として活用できる。
国内の防衛産業は有事に際して生産を拡大、ないし再開する建前になっているが、それ
にはリードタイムが少なくとも数ヶ月はかかるので現実的ではない。
これらの施設の運営には退官した自衛官を当てれば、再就職口の確保になる。これらの
事業は防衛装備会社の単独の子会社として運用、また子会社だが、民間から資金を調達し
たPFI を導入して整備する。運営は民間会社とし、防衛装備株式会社はその株式の一部を
保有するという形も考えられる。
4-10: 防衛産業の再編成と、一部分野の国営化
4-10-1:国内防衛産業の再編、統合
先述の通り、我が国の防衛産業は事業規模が小さく、企業における売り上げ比率も小さ
い。今後、防衛費の大幅増加は見込みにくく、この状態を放置したままでは防衛産業基盤
の存続自体が不可能となることは前述した。そこで、自衛官の天下り、再就職問題を解決
した上で、防衛装備調達株式会社をコアとして産業の再編を行う必要がある。
4-10-2:コンセプトは「集中と統合化」
この場合、もっとも重要なのは「集中と統合化」である。同じカテゴリーの企業の防衛
部門を統合し、開発力と経営効率を上げる。わが国の産業界、例えば電子技術の優秀性に
関しては今更述べるまでもないが、こと軍事に関すれば、話が違ってくる。民生品に関し
ては世界レベルであるが、軍事部門の研究開発力は各社に分散されて弱体である。個々の
コンポーネントは優秀ではあるが、軍用装備として開発する能力に欠けているのである。
即ち、レーダーや軍用通信システム、ソナー、ミサイルなど特定の軍用装備を開発する
能力、またそれらを艦艇、航空機というプラットフォームに統合する能力、システム・イ
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ンテグレーターとしての能力強い企業がないのである。
ことに現在では、個々の装備やプラットフォームだけではなく、それらをネットワーク
化する能力が求められており、各企業が縦割りで作業をしていては当然ながら優秀なシス
テムができない。俯瞰的な位置から装備を開発するためには関係企業を統合して、ナショ
ナル・プログラムを進めることのできる「オールイン・ワン」体制を確立し、装備、シス
テムを開発および指揮できる組織づくりが必要となる。
防衛産業が企業の単なる一部門で、売り上げ高が少なく、利益も低ければ、社内でのプ
ライオリティは下がり、経営者は、設備投資や研究開発などの投資に際して決断が鈍る。
このため、企業から防衛部門を切り離し、更に同じ分野で統合し、経営規模を上げ、本
社機能や工場を集約することにより経営の効率化を図る。これにより、開発力とシステム
インテグレーションの能力を強化する。その上で統合された防衛専門企業は各電子メーカ
ーと協力関係を構築する。
電子部門など民生と軍用の垣根が低い分野においては量産効果、民生技術の防衛目的へ
の転用には民間企業との連携は不可欠であり、分野ごとに適したシステム・インテグレー
ターを興して、最も効率の高い協力体制を作り上げる。この方法であれば各プロジェクト
において最適なメーカーを選択でき、また各メーカーを競合させることが可能となる。
また様々な分野で零細規模の企業をまとめる方式、先述のラーグやパトリアのような方
式でこれらを一つのグループ企業とすることで経営効率と資金の調達、さらに相互の交流
を深めることによって効率的な開発生産を目指す。
航空宇宙、車輌など複数の部門をもつ所謂重工各社も同様に防衛部門を分離、独立させ
る。これに防衛産業の戦略的な設備投資、経営効率の向上を図る。
逆に、造船のように民生品を作る設備で護衛艦をつくる、また民生品分野で世界的に強
力な競争力をもっている業種の場合、民間主導で集約を進めるべきであるし、実際に造船
界ではそのような方向で合理化が進んでいる。この観点から以下のように我が国防衛産業
を区分し、それにあった再編を行う。
4-10-3:防衛産業再編のカテゴリー分け
カテゴリー1:100パーセント政府保有の株式会社
火器や弾薬のように、軍事・兵器製造に特化されている分野に関しては、防衛部門を企
業から切り離し、政府が株式を100%保有する防衛装備調達株式会社の製造部門として
統合、オールイン・ワンのフルライン・メーカーとして、経営資源を集中する。
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例1:豊和工業→小火器、軽火器 住友重機→機関砲、機関銃 ミネベア→小火器、日
本製鋼所→火砲
これらの火器製造部門を統合して、小火器から火砲までのフル・ラインの火器製造会社
を設立し、工場を集約し、重複する研究開発部門を統合する。例えば4年間で新小銃の生
産を行い、次の4年間で拳銃を生産するなどローテーションを組めば、仕事は途切れない。
更に拳銃などは警察、海上保安庁など他の官庁の発注をまとめれば量産効果によりコスト
が下げられる。
例2:三菱重工→戦車・装甲車輌 コマツ→装甲車輌
これらの装甲車両部門を統合して装甲車輌、工兵用車輌、工兵用機材、さらに特殊部隊
車輌など専門企業とする。中長期的には民間の警備会社、警察、外務省の在外公館向けの
軽装甲車なども潜在市場として考えられる。
カテゴリー2:政府が黄金株を保有する株式会社
また、防衛装備調達会社が中心となり、同分野における民間企業の防衛部門の再編統合
を促す。再編し、事業規模を拡大することが必要ではあるが、民間や防衛庁需要以外のビ
ジネスを行うような業種の場合、完全な国営よりも民間企業形態のままの方がよい。その
典型例は航空宇宙産業である。
航空宇宙産業は防衛庁需要だけでなく、産業として自立するためには民間機、衛星打ち
上げ、科学技術研究などの非軍事分野において、国際的な競争力を維持する必要がある。
YS―11以来、我が国の航空宇宙産業は、航空機は防衛庁、ロケットや人工衛星など
宇宙部門は文部科学省などリスクのない官需に頼ってきた。防衛庁が敢えて調達コストの
高い国産機を採用してきた背景には、航空宇宙産業が産業として自立するための「補助金」
的な性格があったことは否めない。ところが自衛隊発足50年を越えてもいまだ、航空宇
宙産業界に官需頼みの体質に変化はなく、業界に自己変革を求めるのは不可能である。
これは主要航空メーカーが重工各社の一部門に過ぎず、航空宇宙部門が自律した経営判
断がでなかったこととが大きな要因と考えられる。民間機部門にしても、これまたリスク
の少ない外国メーカーの下請けに専念し、自らリスクを取り、果敢に挑戦するという民間
企業としての矜持を失ってきた。
今後軍民共に航空宇宙産業をビジネスとして維持するならば、民間各社の航空産業部門
を統合し、独立した航空宇宙企業とする必要が不可欠である。自国産の旅客機を開発する
にしても防衛庁が対潜哨戒機や空中給油機、電子戦機などのプラットフォームに使用、海
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上保安庁なども購入することを決めておけば国産開発民間機がビジネスとして成立出来る
下支えにもなり、軍民双方のビジネスの相乗効果が期待できる。
また、合併により規模が大きくなれば外国の民間機メーカーを買収して傘下に組み入れ
るなどして海外市場に参入するということも可能である。このため航空宇宙産業を各企業
から分離させ、統合し、航空宇宙専門企業を設立する。出来るだけ民間企業として自由度
を残した形にするため政府が黄金株をもつ株式会社とする。
再編案
三菱重工、富士重工、川崎重工、石川島播磨重工らの航空宇宙部門、新明和工業を統合
して航空機メーカーとして統合する。また、航空・艦艇用エンジン、ロケット部門も一社
に統合する。
カテゴリー3:民間主導で統合
先述の造船のように民間部門で世界的な競争を生き抜いている分野では政府は統合のた
めの一定のインセンティブは与えるが、事業統合自体は業界にまかせ、民間企業のまま残
す。
三菱重工→艦艇 その他艦艇メーカーを統合、二社体制とする。但し、現在二つ存在す
る潜水艦造船所(三菱重工と川崎重工)は競合関係がないのでどちらか一社に集約する。
カテゴリー4:その他
兵器、装備、サービスで安全保障上必要と思われる企業、ないしは防衛部門を保有する
企業が経営上の理由により防衛産業から撤退しようとしている場合国有化し、それらを防
衛装備調達会社の持ち株会社としてその傘下に統合ないし編入する。
4-11:防衛庁以外の機関の装備需要をまとめる
小火器、船舶、ヘリコプター、民間用機、通信機、暗号、コンピューター・ソフトウエ
アなど海上保安庁、警察、消防、地方自治体などと共用できる装備があれば、開発や導入
の段階でプログラムへの参加を呼びかける。これによりイニシャル・オーダーが纏まれば、
開発コストの低減、量産効果を高めることができる。防衛装備調達会社は関係省庁の働き
かけ、その調整役を担う。このような体制をとれば例えば航空産業の場合、汎用ヘリコプ
ターや初等練習機など、国内外の民間市場を狙った国産機開発が行い易くなる。民間市場
で成功し、利益が上がれば防衛装備の防衛庁への納入コストも低減できるというメリット
もある。
4-12: 防衛庁や関連機関の一部を防衛装備調達株式会社に吸収する。
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イ) 防衛庁 契約本部
防衛庁契約本部の一部の機能、特に入札に関する業務を防衛装備調達株式会社の一部門
として吸収し、防衛庁には業務上必要最低限の組織のみを残す。これにより調達の透明性
を高める。これは談合、特に官製談合の阻止を目的としたものである。
ロ)防衛庁 技術研究本部
これまで、研究機関としての機能が弱く、開発費の分配機関としての性格の強い防衛技
術本部を、吸収し、陣容を強化し研究開発能力を高め、防衛装備調達株式会社の研究開発
部門、及び技術評価部門とする。
ハ)防衛施設庁
これも一部の基幹機能を残して、防衛装備調達会社に吸収する。防衛施設庁は予算規模
が大きく、それが恣意的に運用されたり、基地対策ではバラマキ型の予算執行になりやす
い。防衛施設庁の業務はその性質から民間的経営手段が取りやすく、またその方が効率的
に予算を執行できる。
ニ)その他、各種教育機関、地方連絡部の一部機能、整備機関、社団法人日本防衛装備研
究会なども防衛装備調達会社に吸収する方向で検討するべきである。
4-13:国際共同開発の窓口
「武器輸出三原則等」を緩和し、防衛装備調達会社を外国との共同開発などの窓口とし、
内外の企業の調整を行う。この場合想定できるのは以下のケースが想定できる。またその
ための規制のガイドラインなどを決定する。
1) 国際共同開発、二カ国以上の装備の共同開発
2) 開発委託、特に我が国が保有しない、もしくは効率的に開発出来ない装備の開発、
ないし既存の装備の近代化等を外国の企業に開発を委託する(生産は国内)。
3) 国際合弁会社の設立、我が国が苦手とするような分野、経験のない分野に強い企業か
らの技術者の招聘、外国の企業とのジョイント・ベンチャーなどの促進。
4-14:内外に対する我が国の防衛政策、装備調達の告知を強化
防衛庁の調達は他の先進国と比べて過度の秘密主義が貫かれている。開発・調達プログ
ラムが公表される頃には、作業が後戻り出来ない段階まで進んでいることが多い。このた
めメディアが世論を喚起する事が出来ず、納税者や政治がその是非を議論することができ
ない。情報を権力の根元と考えるのは役人、役所の通弊である。装備開発会社では記者ク
ラブを設けず、装備の調達に関して、内外のメディアに積極的に情報を開示する。もしく
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は記者クラブへの参加を原則自由とする。この方が内外に装備調達の現状を知らせること
により、安全保障上の信頼熟成など国益にかなう。
4-15:商社機能
外国からの装備の導入やライセンス生産の収得、リース業務などを行う。これにはFMS
(Foreign Military Sale)などの管理も含む。ある程度民間の商社と競合する機能をもたせ
る。これにより、民間商社に競争を促し、輸入手数料などの低減を図る。マーケティング
機能の強化のためにには商社機能を保有することは不可欠である。
4-16:人材派遣
自衛隊の退官者の人材派遣部門を設立し、自衛隊や地方自治体、企業などに斡旋する。
例えば各種学校の教官、経理、ロジステックス、航空機搭乗員、船舶の乗組員、船舶、航
空機の整備員を人材派遣する。この場合予備役自衛官を優先する。これにより、防衛庁は
地方連絡部の経費、特に人件費を大幅に軽減できる。
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■■第5章 防衛装備調達会社の組織と防衛産業再編のスキーム
5-1:防衛装備調達会社の概要と設立準備委員会
防衛装備株式会社の概要は以下のように諮問機関、設立準備委員会をもって決定する。
5-1-1:会社設立のための諮問機関と設立準備委員会
防衛装備株式会社設立にあたっては首相直属の諮問機関を設置し、民間人を主体に構成
員を決定し、その骨子を決定するべきである。構成員は政界、産業界、関連省庁、ジャー
ナリスト、コンサルタント、弁護士、会計士、ベンチャーキャピタルなどから選出。諮問
機関の議事録は公開とし、事務局は官僚組織の干渉を避けるために、中立的な第三者機関
を当てるべきである。例えば日本財団、東京財団などが事務局を担当するのも一案である。
諮問機関の答申が出た後、具体的な会社設立のための設立準備委員会を首相官邸内に設
立し、実務面を詰めていく。この準備委員会も構成員は政界、産業界、関連省庁、ジャー
ナリスト、コンサルタント、弁護士、会計士、ベンチャーキャピタルなどから選出する。
事務方も委員会同様、官界、財界から距離を置いた中立的な組織が担うべきである。
現在の公団や特殊法人ではいまだ天下り先を確保するための子会社や孫会社、官僚OB
が設立する会社などに高いレートで仕事を振る、ということがいまだに横行している。だ
が、防衛装備調達会社の設立においてはこのような抜け穴をふさぎ、また新たな利権を生
み出す仕組みが作られる必要がある。また会社が設立された後も経営を監視する中立的な
監視機関を設立する必要がある。
5-1-2防衛産業界の再編成
防衛産業界を再編成し、一部を国営化するには困難な点も多い。既存の官僚組織や企業
など既得権をもっている組織からは多くの反対が出ることが予想される。また企業の防衛
部門を政府が一方的に国有化することは法的にも社会倫理的に許されない。
国が対象企業から防衛部門を買い取るのであれば、株式を収得するか、一定の金額を払
うかなどの方法が考えられるが、政府による株式収得の情報が流れるや、一挙に株価が高
騰する可能性は否定できない。
また買い取りの場合でもどの程度の金額が適当であるのかの算定も難しい。経営が思わ
しくない企業の場合、比較的容易に買収が行えるが、場合によっては防衛部門を売却した
企業の経営陣が防衛部門を国に不当に安く売ったとして株主代表訴訟を起こされる可能性
もある。そこで以下のような手順が必要となる。
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①防衛装備株式会社内にプロジェクトチームを作り、まず対象企業のリストを作成する。
②そのリストを元に統合ないし、国有化すべき企業とその部門を特定、これを公表する。
同時に完全な国営企業とするか、政府が黄金株をもつ企業とし、その他の株式を親会社
や一般に公開するか、民間のまま維持させるかなどカテゴリー別に分ける。
③その後特定の分野に対する、事業の統合を促す。例えば小火器の場合、すべての火器
を一社に限定すると発表する。また、要求仕様、調達数、調達年数、を明らかにして競争
入札を行う。その場合、現在では拳銃、小銃など棲み分けがなされてはいるが、外国メー
カーと組むことで、メーカーは開発生産経験のない製品でも参入が可能となる。
④このような政策を発表すれば、まず業界内で淘汰、統合が行われるであろう。しかる後
に、調達企業を絞るなどして圧力をかけて、企業から防衛部門の分離を促進させる。しか
しながら最終的には経済情勢、環境の変化等を勘案し、カテゴリー分けに関しては当初の
計画を変更する必要もあるだろう。
5-1-3:子会社保有の形式
防衛装備株式会社が子会社を保有する場合、幾つかのタイプが考えられる。90年代ま
でのアームスコーのように本社の下に各企業を並列という形(櫛型)で保有するのか、ま
たは持ち株会社を作り、子会社をグループ化(バスケット型)にするのか、もしくはその
混成型が考えられる。また、ある機関を防衛装備会社内の一部門とするのか、子会社化し
た方がいいかという議論も生じるであろう。
○子会社
A B C
D E F
子会社の保有形態①
バスケット型
防衛装備会社
A B C D E F
子会社の保有形態②
櫛型
子会社の保有形態③
B
C
D
E
F
A
混合型
防衛装備会社
防衛装備会社
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また、その子会社の下に孫会社を作ることも当然考えられるが、これらが官僚OB や防
衛装備調達会社幹部などの天下りの受け皿にならないような監視システムの構築が不可欠
である。
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■■結び
郵政や道路公団の民営化などでもわかるように、利権で固まった官僚組織や業界を自由
化、民営化するのは容易ではない。これは防衛庁・自衛隊、防衛産業界も同様である。
それ故提言者は小手先や、積み上げ式の小規模な機構改革ではく、全く新しい独立採算
性の防衛装備調達会社を設立、これをコアに安全保障に関係する関連省庁、産業界の構造
転換を提案するのである。
かつて松下電器の創設者、松下幸之助氏は数パーセントの部品削減を要求すると、現場
は出来ない、難しいと苦情を言ったが、思い切って部品点数を半分にしろと命じたらでき
た、と述べたという。ところが部品点数を半分にしろ、という極端な要求に対しては現場
の技術者はそれまでの積み上げ式の発想、方法の延長線上では解決ができない。このため、
全く新しいアプローチを迫られることになり、それが革新的なアイディアにつながって、
一見不可能であることが可能となったそうである。改革に必要なものは蛮勇である。
年金問題も含めて、政府の財政難は今後困難で有り続けることはあっても潤沢になるこ
とは考えにくい。官庁による自らの合理化案は従来の手法上の積み上げ方式であり、予算
を3割、4割減らすというドラスティックな方策は出てこない。
いまこそこれまでの延長線上からの改革ではなく、新しい視点からのユニークな、別の
次元からのアプローチによる実効性のある改革が必要である。
本提言がその一助となれば幸いである。
本提言では職務上氏名を公表できない、多数の有人、知人のご協力を得た。この場を借り
て謝意を述べたい。
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参考文献など
■参考文献
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Switzerland’s Defence industry set out its still in foreign fields
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Think big, start small Robin Hughes
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英国防省 http://www.Mod.uk/
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■インタビュー協力者
Patria Industries Oyj
Mr. Wulf Hessulf Senior Adviser
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RUAG Ammotec
Mr.Benjamin D. Miller Head of Marketing Defence
QinetiQ
Mr. John A Doe Market Planning Manager QinetiQ Managed Services
Mr.Charles Camichael Program Director Air systems Defence Channel
ABRO
Mr.Mike Hayle Chief Executive
経済産業省経済協力局安全保障貿易管理課 三浦聡 課長補佐(企画担当)
経済産業省経済協力局安全保障貿易管理課 伊那知子武器輸出管理係長
月刊軍事研究編集者 河津幸英氏
軍事評論家 多田智彦氏
■取材協力
ARMSCOR
Manager: Corporate Communications Mr. Billy Nell
ABRO
Event and Promotions Manager Ms.Catherine McCormak
■写真提供
アームスコー キネティック アグスタ・ウエストランド ボーイング 清谷信一
著者略歴
清谷信一(軍事ジャーナリスト)
ジャーナリスト。広告業界を経て、1990 年に1 年間ロンドン遊学後、ライターとなる。
軍事のみならずサブカルチャー、国際関係など硬軟併せたサブジェクトも扱う。更に出版
プロデュース、PCゲームのシナリオ、Tシャツのデザイン、小説の執筆なども行ってい
る。軍事ジャーナリストとしては、主として欧州、中東、南アフリカなどを取材。防衛庁・
自衛隊に対する仮借ない批判を行うため、自衛隊からもっとも嫌われるジャーナリストで
もある(らしい)。
「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリ-」東京特派員、日本ペンクラブ会員。
■主な著作/「こんな自衛隊に誰がした!」(廣済堂出版)、「不思議な国の自衛隊」(KK
ベストセラーズ)、「弱者のための喧嘩術」(幻冬舎)、「ル・オタク フランスオタク事情」
(KKベストセラーズ)
ホームページ http://www5e.biglobe.ne.jp/~kiyotani/
東京財団研究報告書2005-1
国営防衛装備調達株式会社を設立せよ
2005年6月
著者:
清谷 信一
発行者:
東京財団 研究推進部
〒107-0052 東京都港区赤坂1-2-2 日本財団ビル3階
TEL:03-6229-5502 FAX:03-6229-5506
URL:http://www.tkfd.or.jp
無断転載、複製および転訳載を禁止します。引用の際は、本報告書が出典であることを必ず明示して下さい。
報告書の内容や意見は、すべて執筆者個人に属し、東京財団の公式見解を示すものではありません。
東京財団は日本財団等競艇の収益金から出捐を得て活動を行っている財団法人です。
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