地域おこし/海外協力隊のその先へ 甘楽富岡持続会議 開催レポート
2020年3月9日に、富岡市商工会議所において「甘楽富岡持続会議」が開催されました。
今回、参加したのは、富岡市、甘楽町、下仁田町、高崎市、中之条町、みなかみ町の各地から、地域おこし協力隊、NPO、農業者、職人、銀行員、地方自治体職員、国会及び県議会議員、主婦、学生など、総勢40名ほどです。
「甘楽富岡地域」とは
群馬県の西部に位置にする富岡市・下仁田町・南牧村・甘楽町が、甘楽富岡地域と呼ばれています。
荘厳な岩山である妙義山を背景に、上州と信州(群馬県と長野県)を結ぶ、私鉄である上信電鉄沿線や、世界遺産「富岡製糸場」や「荒船風穴」など豊かな自然、文化を誇る地域です。
この地域で最大の人口を擁するのは、富岡市です。平成27年度国勢調査および富岡市総合戦略(平成28年3月)によれば、「平成 7 年(1995)の 54,535 人をピークに減少」、「人口減少は加速が続き、25 年後の平成 52 年(2040)に 38,433 人、45 年後の平成 72 年(2060)に 28,116 人まで減少すると推計」とあります。
つまり、この先、この地域では、20年で現在の人口の約1/4、40年で人口の約1/2が減少するかもしれないということです。この傾向は、甘楽富岡地域で概ね共通しています。
そのような減少社会の中でも、「甘楽富岡地域をより持続可能にしていくために役立つ仕事を、共にしていけるネットワークをつくること」が、今回の会議の目的にです。
甘楽富岡持続会議のはじまり
開会にあたり、主催者から挨拶がありました。
JICA東京の木野本所長からは「それぞれの地域で活動する方同士がつながり合い、議論し、課題を発見し合うとよいのではないかと思い、この会議を企画した。」
また、NPO法人自然塾寺子屋の矢島代表からは「若い人たちの技術や努力を活かしたい。地域の中の人、外の人が混ざり合って何かできないかという気持ちがあった」。
その後、ファシリテーターから「次世代の若者が希望を持つことができる地域をつくるために、多様な視点を持ち寄ることで、より賢い選択をしていけないか。」というお呼びかけがありました。
サステナビリティとダイアログ
「今、この地域で暮らしていて幸せだなぁと思う人はどのくらいいますか」
その投げかけに対して、会場の半分以上の方が手をあげました。
「これからもこの地域での暮らしや仕事が安心して続いていくと信じられている人はどのくらいいますか」
この投げかけに対して手を挙げた人は、数人しかいませんでした。参加の皆さんは、積極的には将来に希望を持ちづらい状況にあるのかもしれません。
それを受けて、ファシリテーターからお誘いがありました。「SDGsと聞くと、もしかしたら私たちと関係ないことなのかなと思ってしまうことがあるかもしれません。しかし、それは今の質問に対して、みんなの手が上がるようにするためのお話のことです。難しいかもしれないけれども、私たちの人生にとって大切なことだから、一緒に考えていきましょう。」
ここから、参加した皆さんがテーマに集中して過ごしはじめたようでした。
また、時間の過ごし方についてのお誘いとして「ダイアログの原理」が紹介されました。
1.意図を持って話す
(自分の経験から、目的に役立つように話す)
2.学ぶために聴く
(決めつけず、好奇心を持って話を聴く)
3.自分の影響に気づく
(話すのが好きな人は聞いてみる、聞くのが好きな人は話してみる)
「私たちの感情が動くのは、その下に大切なことがあるから。今日は大切なこと、意味あることについて話したいので、ぜひ今日は感情を頼りに大切なことを探ってみてください。」など、いくつか過ごし方についてお誘いがありました。
「選ばれる土」になるために
ファシリテーターから、この時間において皆で考えたいことについて問いかけがありました。ここからは、その発言の要旨を抜粋で記載します。
より持続可能な甘楽富岡地域をつくる仕事をみんなで育むために、いま私たちが一緒に取り組みたいこととは何でしょうか。
この問いには3つの要素があります。
1.甘楽富岡地域が豊かに続いていくということ。
2.地域へ貢献できる活動を、どうしたら「仕事」として持続させていけるだろうか。
3.以上をみんなでやりやすくするためには、私たちはどのような関係であればよいのだろうか。
今、リモートワークやモビリティの進展によって、スキルがあれば、どこで生きていくかを選べる時代になっています。
優秀な若者や私たちの子供たち、つまり、「未来のタネ」はどこで生きていくでしょうか。
どうやって私たちが「選ばれる土」となるかは、地域ぐるみの勝負になります。
ピンチを迎える土の物語
とある地域において、グローバルな視野を持った若手リーダーを育成した結果、「気づいてしまった若者」が地域の企業などに魅力を感じなくなり、かえって優秀な人材の流出が進むという皮肉なことが起きているという事例があります。
同じように、いくつかの企業、金融機関、大学、自治体においても、「優秀な若者から辞めていくことに歯止めがきかない」という嘆きが聞かれています。「最近、私の同級生のエンジニアが、日本で豊かに暮らしていくことに限界を覚え、シンガポールへと移住したことがありました。」
チャンスをつくる土の物語
一方で、私が関わせていただいている先進的な企業や地域では、そのような状況をチャンスとして活かそうとする取組が進んでいます。
たとえば、ある衣料品メーカーは、環境保護や子供の食育に積極的に取り組んでいます。そういった事業は、現状、単体としては採算が取りづらいものですが、「サスティナブルなビジネスをしている」という認知が広がることによって、企業として地域からの信頼感を高めることに役立っています。
その結果、彼らの商品はいわゆる「寄付つき商品」のようになっており、同業他社と比べてもブランド力があり、高価格で取引されています。また、CSR/SDGs担当者として、環境や福祉への意識が高く、スキルを持った若者を高処遇で雇用しています。彼らは地域からの多様な声を広い、信頼関係をつなぐ接点として企業にとって貴重な人材なのです。
自治体の取組例としては、札幌市の「みんなの気候変動ゼミ・ワークショップ」という事業があります。今回のような、サステナビリティを学び合う対話のワークショップを連続で開催することによって、SDGsに貢献したい企業や若者を惹きつけて、つなげています。地域の中での当事者同士の信頼関係を厚くし、よりイノベーションが起きやすいエコ・システムを形成しようとしています。
私たちが読みたい未来の物語はどのようなものだろうか
今、私たちは、かつてないほどに、複雑で不確実な社会を生きています。気候変動、AI・IT進展、人口減少、少子高齢化、社会保障、政治不安。日立京大ラボのAIによる未来予測では、現在のままでは日本社会は「破局シナリオ」に向かう可能性が大きいとの問題意識が示されています。
日本は、成熟社会における課題の集積地です。その地方や中山間地域、つまり、私たちの立っている今ここが、世界の最前線です。
今後、発展していく若い国々は、私たちの背中をどのように見るでしょうか。「持続可能な発展のためのお手本」か、「反面教師(「俺みたいになるな!しくじり先生」のような存在)」か、それとも別の姿でしょうか。
それでは、今この時代について、「自分たちが置かれている状況をどう捉えているのか」、そして、「社会や世界の中で、今後どのような存在でありたいのか」について、あなたの声を聞かせてください。
以上、ここまでがファシリテーターによる投げかけの概要です。
ここからは、当日スタッフとして参加したメンバーの目線から、場を観察して見えてきたこと、また、気づいたことや学びを添えて記載していきます。
みんなで話してみよう
その後、参加者が席を交換しながら話し合うこととしました。
ラウンド1の問い:
あなたが変化に取り組む現場で 「今この時代だからこそ、このピンチ/チャンスがあるのだな」という経験について教えてください。
ラウンド2の問い:
異なる私たちが一緒にいるからこそ、つかみやすくなるチャンスとはどのようなものでしょうか?
ラウンド3の問い:
そのチャンスを最大限に活かすことができたら、甘楽富岡地域でどんなことができるようになるでしょうか?
なお、ここからは来賓も参加していただき、次のようなコメントがありました。
衆議院議員 小渕さん「今は難しい時代だけれども、未来を作っていくのは私たち。地域の持続のために、自分には何が出来るのかを考える機会としたい。」
群馬県議会議員 牛木さん「甘楽富岡は農地が多い。しかし農業一本だと難しい現状があるので、半農半Xで進められないかと考えている。」
衆議院議員福田達夫秘書 渡辺さん「すでに地域には色々なリソースがあり、それを組み替えることで地域がより豊かになると信じている。価値創造でアプローチできないか。」
3ラウンドを通じて、笑顔で闊達に話される様子でした。特に、3ラウンド目の問いについては「話していてワクワクした」という声があり、ありたい未来を探求することを楽しまれたようでした。一方で、終了後、「自己紹介だけでラウンドが終わってしまった」という声もありました。
私たちが話す時間を長くすることで、より深まりのある話し合いができることもあるかもしれません。ただし、農業に従事する参加者などから「毎日の仕事が、ほんとうに忙しい」と話しておられました。このため、やみくもに話す時間を長くするだけではなく、問いに焦点を当てて話し合うなど「短い時間で、意味のある話をできるようになる」ということを目指すことがより賢い工夫なのかもしれません。
未来へ向かうための課題を探る
後半は、ありたい未来に向かうための、どのような課題があるのかを把握する時間です。参加者は、自らの選択で、次のような3重の円に分かれて話をすることとしました。
1つ目の円:当事者。いま、甘楽富岡地域で頑張っている人、これから頑張りたい人。
2つ目の円:当事者に対して、なんらかの貢献をしたい人。
3つ目の円:見守りたい人。
1つ目の円への問い:
あなたが、ありたい未来に向かって 今チャレンジしていることは何ですか。 その中で、どのような やりがい・喜び/むずかしさ・悩み を経験していますか?
2つ目の円への問い:
1つ目の円に座っている人にとって、どんなニーズや課題があるように聞こえましたか。
見つかった課題仮説① 当事者が本音で話せる環境をつくる
中心の円の人が、地域の未来のことよりは、日々の事業運営についての悩みについて、感情を抑えがちに話しているように見えました。そこで、ファシリテーターから「私たちが、このような集いを重ねれば、もっと遠慮なく本当のことが話されそうでしょうか」と投げかけたところ、何人かの参加者から「そうだ」という返事とも思える頷きがありました。
個人の視点を超えて、地域や未来の視点から話すこと、そして、本音を口にすることは、いつでもどこでも誰とでも、すぐにできることではないのかもしれません。言葉を変えれば、「目的に向かって進むために、遠慮なくぶつかり合っていける関係性を、どうやってつくることができるか」ということは、他者との協働で成果を出していきたい人にとっては、課題となるのかもしれません。
見つかった課題仮説② 受け手にとって役立つ貢献の仕方を学ぶ
ファシリテーターから貢献する人に対して、「単なる情報提供ではなく、自分たちだけでは気づきづらい、より本質的な課題設定を手伝おう」とお誘いしました。
しかし、貢献する人たちからは流行のテクニックを紹介することが、少なからず繰り返されました。その熱心な口ぶりからは、「よかれ」「貢献したい」という願いを感じました。
それに対して、一つ目の円にいる何人かは、時に顔をしかめた様子でした。「その助言は役に立ちません」というような表情に見えました。
終了後、参加者の中で、海外協力隊OGの方が、「ODA(政府開発援助)も、よかれと思ってやっていても、今回のようなパターンに陥ることがある」ということを仰っていました。グローバル/地域をまたいだ視点を持った協力隊の方ならではの、鋭い指摘であると思いました。
地域の外から中に対して、あるいは、他者に対して「インスタントな解決策を与える」という構造はこの場だけでなく、社会・世界のさまざまな場面で繰り返されているパターンなのかもしれません。
支援される側が支援した気になっただけで終わってしまうだけではなく、「受け手にとって役に立つことを差し出すという貢献の仕方をすること」もまた、やろうと思ってすぐできるほどには、容易なことではないのでしょう。
課題仮説①②を超えた先にある未来はどのようなものか
上記に挙げた課題仮説を検証しながら、望む方向へと変化を起こしていくことは容易なことでありません。それは、世界規模で起きていることの一端でもあるのです。
しかし、だからこそ、それらのパターンを超える、新しい関係性ができたときに、拓かれる可能性が大きいのだと考えます。
・人々が個人を超えて、地域や未来の視点を持つこと
・遠慮なく、本音で話し合える関係になること
・人と人、地域と地域が、互いにとって意味のある貢献をすること。
こういった関わり方が、このような場で繰り返し学ばれ、地域のコミュニケーション習慣となっていくことで現れる未来は、より創造的で、つい暮らし続けたくなってしまうものになるはずです。
JICAや自治体は、協力隊として優秀な若者(未来のタネ)を育てています。それと同時に、地域住民と協力することで、日本の地方・農村において、協力隊が地域のパートナーとして活躍しやすい環境整備(土づくり)を支援することは、「破局シナリオ」とは別の物語を進むための努力に他なりません。
それは、自然塾寺子屋の「農村から世界の未来を育てる」また、JICAの「人々が明るい未来を信じ多様な可能性を追求できる、自由で平和かつ豊かな世界を希求し、パートナーと手を携えて、信頼で世界をつなぐ」という大義に叶うものでしょう。
対話の力で、地域のコミュニケーションを変える
今回のような対話の手法は、「地域のコミュニケーションを変えていくこと」によって、「土を耕す」ことを志向しています。コミュニケーションの量ではなく、質を高めることです。
たとえば、地域の人々が、「挨拶できる顔見知り」から、「本音を話し合えるつながり」に、そして「目的のために共にはたらける仲間になる」ということです。こうして、地域内での信頼できる結びつき(ソーシャルキャピタル)を改善していきます。
また、それは対症療法ではなく、体質改善のような取組であるとも言えます。土づくりをしたからといって、「おいしい果実」をすぐさま収穫できるものではありませんし、即効性の高い薬でもありません。
さらにいえば、対話とは「課題解決」をするものではありません。より本質的な「課題設定」をするためのものです。問題設定が間違っていれば、その解決のために割かれる時間やお金は、誤った方向に進むために使われることになります。このため、自分たちのコミュニティは「今どこにいて」「これからどこにいきたいのか」という、大きな方向づけがあってはじめて、協働という私たちの大好きな「アクションプラン」が機能しはじめます。
それゆえに、もしかしたら、このプロセスをじれったく思う人があるかもしれません。
しかし、だからこそ、インスタントな対症療法の繰り返しに疲弊したり、他責的な要望や、一方的な依存が蔓延したりすることを、避けることを意図しています。
そのように、長い目で見て、健やかな自立と相互依存をサポートするアプローチ学ぶ機会が、日本社会にまだ十分ない中で始められようとしたのが、今回であったと考えます。
特に、「地域と地域が学び合う」は、イノベーションが待たれる今後の社会において、さらに高い価値を認められることになるのではないでしょうか。地域を横断した、より多様な視点の融合が期待できるからです。
なお、地域横断型の活動は、多くの場合、構造的に、自治体がリーダーシップを取りづらくなります。独立行政法人やNPO法人、あるいは、市民の共助こそが活躍する領域ではないでしょうか。
見たいと思う世界のはじまりに、私たちはなれる
JICAで本件を担当する佐藤さんが、冒頭に「振り返った時に、この時が始まりだったのだね、と将来に語られるような時間にできれば」とおっしゃっていました。実際に、今回のワークショップは、そのような未来へと歩んでいくための大きな扉を、皆で押し開くような時間であったと感じました。
今回のワークショップの副題である「地域おこし/海外協力隊のその先」は、その扉からつながる道のりなのでしょう。その道のりを進むかどうかを決めるのは、このレポートをお読みの方の、熱い意思や、尊いお力添えであろうと考えます。
「あなたが見たいと思う世界のはじまりに、あなたがなりなさい」というのは、マハトマ・ガンジーの言葉です。ぜひ「その先」へと共に歩んでいくために、今後も対話の実践を重ねていきませんか。
ちなみに、懇親会は、会場から徒歩数分のところにある、地元の名店「co-jiro(コジロウ)」さんで、地元食材とやかんビールをいただき、お話に花を咲かせました。つづく。
主催 独立行政法人国際協力機構(JICA)、NPO法人自然塾寺子屋
撮影 市根井直規、堀直人
文章 反町恭一郎(WORKARTS合同会社)、市根井直規、茂原明美、野沢くるみ
協力 原澤香司、掛川和輝、森山祐己、大井田ひろこ、山口貴子
なお、当日開会にあたり放映されたインスピレーションビデオは、こちらからご覧いただけます。
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