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コラボを生み出すための話し合いのデザイン|ニーズと目的

他者と共にはたらくのは本当に面倒なことです。それでも、わざわざ境目を超えて人と人が集い、つながるためには、その中心に高いエネルギーが必要です。今日はそれを育むためにどのような話し合いができるかについて話します。

そのエネルギーとは、「どうにかして変えたい今の社会の仕組みに直面しており、一人ではどうにもできないが、なんとかしてそれを変えたい」という、心に灯る種火です。

目的が「小さな声」になっていないか

仕事をするときに、手段の話ばかりに終始してしまって、目的の話をせずに進めてしまことがありませんか。

私はサラリーマン時代に多くありました。たとえば、会議をすると、「そもそも、なぜするか」「何のためにやるのか」という目的は置き去りにしてしまう。あるいは、レジュメの最初に少し書いてあって、確認程度だけになってしまう。そしてすぐに、何から取り掛かるか。予算は、スケジュールは、上司の許可は。

もしそのような話ばかりが、組織において「大きな声」となり、目的の話が「小さな声」になってしまっているならば、そこではおそらくいいコラボレーションは立ち上がらないでしょう。目的の話は、「できるか/できないか」は関係ありません。「したいこと」に、その強い願いに集中します。

「どうせでもだって、そういうふうに現実はできていないんだよ」と言われるかもしれません。そんなことは、とっくにわかっていますよね。それを今のままにしたいのか。それとも、変えたいのか。それは選択の問題です。

目的は、人の心に火を灯す

そもそも「目的/purpose」のpurは、古代ギリシャ語の炎や雷のこと。それは「聞いた人の心に火を灯すようなこと」です。しかし、その逆では、つまり目的がわからない時、私たちの仕事は熱が上がりません。

私が先日経験したイベントでは、かなり様々な方が現場で入り乱れていました。その中の何人かが、ボランティアで受付をしていました。その時、ただ受付の手順などを伝えられただけの人と、目的を伝えられた人では、明らかに仕事の質が違いました。後者の人は、こう伝えられていました。

「この空間は人と人が出会い、つながる空間になるんだよ。受付は、そのための、入口になるのだよ」

私たちは目的がわかった時に、貢献をしたくなります。誰かに言われるまでもなく、自分の頭で考えて、想像や創意工夫をしてしまうのです。

また、目的は、「どっちが前なのか」を定義するものです。どっちが前なのかを知らないまま「よかれ」と思って動いた結果、むしろ、目的と逆行してしまい、かえって手戻りが多くなってしまった、なんてこともあるかもしれません。

そうなってしまうと、関係性やモチベーションに、残念な影響を及ぼすことになります。「せっかくやったのに」と。実のところ、目的のないはたらきとは、仕事ではなく、作業か業務なのでしょう。

目的の話をしよう

どのように目的の話をしたらよいのでしょうか。シンプルに言えば、「なぜするの?」ということなのですが、その問いかけだけでうまく目的とつながることができた経験が、今のところ私にはありません。

そこで、まずは目的についての見方を洗練してみたいのです。私たちがなんとなく「目的」と言っていることにには、実は、2つの要素があります。それが、召命(call/needs)と目的(purpose)です

①召命(call/needs) :目的より先にやってくる想い

問いとすると、このようなことをみんなで考えてみるといいかもしれません。

なぜ、今この時代に、このプロジェクトを行うことが緊急かつ重要なのでしょうか。

この中に「そもそも、今どんなことが社会で起きているから、このプロジェクトは緊急的に必要なのか?」「なぜいつか誰かではなく、今すぐ私たちがやらねばなのか」という問いが含まれていることに意識を払ってください。

■ケーススタディ

先日、自然に囲まれながら、伝統工芸品やアートを愛する方々と、こんな話をしていました。彼らは古民家をリノベーションして、持続可能な地域づくりのためのステキな拠点にしようとしていました。

発起人は、ものすごいやる気になっているのですが、周囲の人は断片的な情報しか受け取っていません。とはいえ、「発起人がやるなら、俺らは手伝うよ!」と。

ここで、発起人の信頼貯金を崩して取組むのもアリです。しかし、ここは一つ、もっと「きみのことを手伝ってあげるよ」を超えて、集まるようにしたい。

また、いずれ信頼関係を結ぶであろう、まだ見ぬ友人と出会うときに力を発揮する、発起人の想いも明確な言葉として持っておきたい。そんな状況で、私はお招きいただいて、大切な話し合いが始まりました。

数日間の話し合いを経て、最後にこのような話にたどり着きました。

「今、私たちの身の回りにあるモノが作られる過程に、つらさや悲しみ含まれてしまっている時代だから。ファストファッションとか。私は、そういうものを身につけることがつらい。そうやって暮らしていきたくない。」

そのレベルでの自覚を、召命(call)と呼びます。文字通りそれは、電話がかかってくるような状態です。

このケースで言えば「ああ、誰かが機械のように扱われてできた服を着ているのはいやだな。子どもが働いてできたチョコレートでお腹をいっぱいにしている自分は気持ち悪いな。」

それは、はじめは小さな違和感だったかもしれません。なにかのきっかけで、私たちは、その音が聴こえてくることがあります。私出会ってきた人を見る限りは、それが聴こえてきてしまうきっかけは、次のようです。旅に出た時、仕事で辛い目にあった時、大切な人との別れを経験した時、誰かの圧倒的な仕事に触れた時、映画を見たとき、自分の置かれた環境に怒りを持ったとき。

もちろんあなたは、それを無視すること、そこから逃げることもできます。それでも、どこへいっても、いつでも、その電話は鳴り続けます。「誰かその受話器を取れよ。だれかなんとかしてよ」とも思います。

でも、その音はあなたや、一部の人しか聞こえていないことがあります。あなたが「ねえ、なんか鳴ってない?」といっても、それを聞いた人はこう言うかもしれません。「はは、それって夢とか希望みたいなやつ?若いねー。」

もしかしたら、それが聞こえているのに、聞こえていないふりをしている人もいるかもしれません。その電話をとれば、不都合な目にあうことがわかっているからです。(実際は不都合どころか、ものすごくひどい目に逢うこともあります)

それでも、その呼び鈴は、日に日に大きくなっていきます。あなたが、その電話に出るまでは。

それを聞いてしまったあなたは、「成さねばならぬことがある」と掻き立てられた状態になります。その電話の主は、フランクル風に言うと、人生そのものかもしれません。その声を「掻き立てるもの(call)」と言います。

一方で、needは、そのような自分の内側からの渇望感だけではなく、社会/他者からの要請が重なるところから現れます。それゆえに、needは、パターンとして(=何度も繰り返し現れている)必要性です。つまり、「それな」「たしかに、私もそう思っている。」「俺もそう思っている」「そうだ、今がその時だ」ということです。このようなneedに基づいたよびかけは、多くの人の共感や参加を惹きつけます。

■callの構文例

ちなみに、私の経験上では、召命はそうやすやすとは出てきません。やすやすと出てくるようなものは、あまりパワフルではありません。むしろ、このパートが、コラボワークを始めるときに最も困難であり、根気と創造性を要する時間となり得ます。

ここをあやふやにすると、プロジェクトの最後まで何か釈然としない思いがつづく、あるいは、道のりの途中でプロジェクトが厳しい状況に陥った時、それ以上チームが前に進む意欲が絶えてしまうことがあります。

それゆえ、何がこの取り組みを掻き立てるのかは、できる限り明確に言葉にしておくことが助けになります。それを読めば、少なくともチームメンバーの意欲が喚起されるものを作るのが第一歩です。

例に書いたようにシンプルでクリアな形で結晶化することを、私は個人的に好みます。その背後に、数千ものストーリーを抱えたような短い文章です。

A : 今、私たちの身の回りにあるモノが作られる過程に、つらさや悲しみ含まれてしまっている時代だから。ファストファッションとか。私は、そういうものを身につけることがつらい。そうやって暮らしていきたくない。

Aは、私が実際に聞いた発言にほぼ忠実です。これを裏返すと、こうなりますね。

B : モノが作られている過程に喜びが含まれているものを身につけて暮らしていきたい

Aは「不」にフォーカスした表現で、Bは「可」にフォーカスしています。両方持っておくと、誰にどう伝えるかの表現の選択肢が広がります。発起人にとって、仲間にとって、あるいはこれから出会う人にとって、それぞれピンとくる表現を選ぶのでよいと思います。

②目的(purpose):「これができるようになりたい」という新しい物語/ビジョン

召命からの呼びかけから現れてくるのが目的です。

先ほどの例で考えてみましょう。

今、私たちの身の回りにあるモノが作られる過程に、つらさや悲しみ含まれてしまっている時代だから。ファストファッションとか。私は、そういうものを身につけて暮らしていきたくない。そうじゃなくて、私はこの場所で…ができるようになりたい!

その「…」に入るのが、目的です。多くは「・・・・をする」という動詞の形で語られます。

それは「今はできなくても、こういうことができるようになりたい」という新しい物語にも聞こえるものです。

召命の熱量が高く、なおかつ、はっきりしていれば、それはシンプルな問いから集合的に紡ぎだすことができます。

この取り組みがフルポテンシャルを発揮した時に、私たちはどんなことができるようになるだろうか?

■ケーススタディ

上の例の一部で言えば、次のような発言が目的の一つであると私には聞こえました。

手芸品づくりを自分の手と心で、体験できる場所をつくる。その中で、人と人、人と作品が出会う、つなぐ。モノが生まれる過程の中に、喜びと癒しがあるものに囲まれて暮らしていく生き方を提案する。

それをつかむと、私たちは方向性を持って動きはじめます。

5W1Hで語ることができるように、絵にかけるくらい/寸劇にして未来の物語として演じられるくらいに具体的に語ることができると、とてもパワフルな目的になりやすいと考えています。

ちなみに、目的をつかむことの重要性をこちらで深掘りしているので、よかったらご覧くださいね。

召命と目的の関係性

召命と目的は、密接に関係していて明確に区分することが難しいものです。

あえて分けるとすればそれらはこのような関係にあります。弓矢を見た事ある方がいらっしゃると思います。それに例えると、それらはこのような関係にあります。

召命は、「弓をどのくらい強く引くか」
目的は、「矢をどっちの方向に飛ばすか」。

矢を強く引いても方向が間違っていれば、地面にズドン!と落ちてしてしまいます。方向が適切でも、弓を引く力が弱ければ、チョロン…と落ちてしまいますよね。両方が必要なのです。 

ただ、個人的には、それらを区分することには、あまり多くの時間をかけないようにしています。なぜなら、プロジェクトの始まりにあるこの段階は、何かを論理的に整理する時間帯ではありません。あくまで、「人をやる気にさせる」表現ができればいいのです。

第1ステップは、チームやコミュニティーなどが、決まった答えのない問題に取り組むときに、一緒に走り出すのに十分な程度の、ねらいの明確さをつかむために作ります。「俺らにとってどっちが前なのか」ということです。

その上で、第2ステップとして、チームメンバーだけではなく、「参加型」のプロジェクトにしたいならば、それを読んだ人がワクワクする、熱を感じるようなものにする必要があります。(これは「お呼びかけ」を作るというプロセスです。今回のnoteはあくまでコアチームの内部で想いを明確化する手続きを書いています)

召命と目的の紡ぎ出し方

これは、実践の領域なので、いくらでもやり方があろうかと思います。

代表的なのは、シンプルに問いに答えるということです。

なぜ、今この時代でこのプロジェクトを行うことが緊急かつ重要なのでしょうか。

「このプロジェクトを通じて、(たとえば、・・年後に)、どんなことが、できるようになりたいのですか」

しかし、わたしの認識の仕方の問題なのか、このシンプルなやり方であまりうまくいったことがありません。そこで、最近はこのよう問いで、ペアやトリオで行っています。まずは、話し手が物語を話します。その中から、聞き手が召命や目的を抽出するように聞きます

話し手 :   あなたがこれまで、このプロジェクト(のテーマやメンバー)と関わってきた中で、実は気持ちが動いた出来事を教えてください。/何があったからあなたは今ここにいるのですか/どのようなストーリーがあなたをここに連れてきましたか

聞き手 :    話し手は何に書き立てられて、どこに向かおうとしているように聞こえましたか

もちろん、このやりとりが機能するために、かなり多くの複雑な工夫があります。また、個別のケース次第での調整もあるので、必ず上記がうまくいくとは言えませんが、ぜひあなたもやってみて発見したことを教えてください。

一つ、大きく気をつけることがあるとすれば、召命は必ず「自分の体験談の中」から生まれてくるということです。どこかの誰かが言ったかっこいいことではなく、あなた自身が体験した生々しい感情、多くは恐れや痛み、怒りの裏に、それが隠れていることがあります。ゆえに、それは一人では明らかにしづらいもので、他者との質の高い対話が有効だと考えています。

召命や目的には、普遍性と時代性が必要です。このテの話の行き先は「世界平和」「幸せ」「愛」「社会的公平性」など抽象的で、普遍性があるテーマになります。しかし、それだけでは多くの人がピンときません。もっと切れ味鋭くにいきましょう。「なぜわざわざ今、それをするんだ」という時代性が必要です。

なお、わざわざワークという形ではなくても、人の話に聞く時に上記の問いを持ちながら聴いてみてください。あなたがいたからこそ聞かれた声が、言葉になり、行動となります。それを皆でやっていくということをしたら、より共にいい仕事がしやすい環境や社会が広がっていくのではないでしょうか。ぜひ一緒に実践をしていきましょう。

・・おまけの実践知・

呼びかけにはレイヤー(上流〜下流)がある|チームで召命や目的を描く時には、様々な抽象度の話が聞かれます。それらは地続きですが、抽象度のレベルで並べると呼びかけのポイントが見えてくることがあります。たとえば、「人の尊厳を大切にしたい」「多様性を大切にしたい」というのは、かなり抽象度が高い、上流にある大義です。その川下には、「開発地域で無視されている人たちの意見を大切にしたい」という構造レベルの話があります。さらにその川下には、「誰かの指示命令ではない形で生きていきたい」という個人レベルの話。そして各階層には「みんなが自分のしたいことを助け合って実現していくチームづくりをしたい」と実践レベルがあるように私には見えます。

外に出すときには引き算してハッキリと|召命と目的は、チームでつかむために、少なくとも数時間以上の話し合いを要します。チームの中で聞かれた召命や目的が声として上がってきた時、それらにはすべてに敬意を払って、大切にしましょう。しかし、それらすべてを外部に出すと、ほとんどの場合、メッセージはぼやけます。それに、忙しく毎日を生きているチームの外側の人たちに、「ねえちょっと5時間話を聞いて」と、急にお願いすることはできませんよね。チームの外側には、5分で読める文章にする必要があります。それゆえ、対外的に出すときは、どのレイヤーで呼びかけるかを戦略的に選択する必要があります。たとえば、「人の尊厳を大切にしたい」の大義をそのままお誘いにすると、「ねえ、人の尊厳を大切にしませんか?」となります。これは、もし相手がコアチームと文脈を共有していない/熱量が異なる場合、引かせてしまうかもしれません。もし、実践レベルで「指示命令なく、それぞれが自分らしく働きやすいチームづくりを学ばない?」となると、よりハンディな感じがします。しかし、それだとあくまで手段の話なので、かえって相手によっては、軽率に聞かれてしまう恐れもあります。どのような相手に呼びかけたいのか?そこから、呼びかけの質感を変えることも戦略的な選択になります。



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