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CDショップ閉店 顛末記 ~番外篇

*今回のおススメBGM:Ry Cooder / Maria Elena

こういう曲に接していると、音楽を好き嫌いで分類するのがおろかに思える。
日本人であろうと、アメリカ人であろうと、何人であろうと人間なら必ずその琴線を震わせる音楽というか…
二十歳そこそこでこんな曲に出会えたことを本当に感謝している。



前回、同業他社の業務提携先に出向したハナシをしたので、せっかくだからちょっくら寄り道しよう。

企業を「勝ち組」とか「負け組」に分けるなんてアホくさって思ってたけど、いざふたつの会社を渡ってみるとワカッタ。
なんで「勝つ」のか、なんで「負ける」のか。

きのうまで40度くらいのぬるいお湯にのんびりつかってたのに、いきなり45度の熱い湯に放り込まれて顔真っ赤になっていっきに汗が噴き出る。
そういうことだった。

毎日毎日がピリピリの連続だ。
周りに、身体をこわすものやキモチがやられて離脱するものが何人も出た。
「まいったタヌキは目でわかる」という言い回しがあるが、出向社員はみんな目つきが泳いでた。
私は年齢的なものもあり、半目(一目ではない)くらいは置かれてたのでそんなに厳しい環境ではなかったが、何しろ毎日がぜんぜん楽しくないのだ。

そんなころ運よく、出向元(元々所属していた)の会社で希望退職の募集が出た。

おぉ! 飛びつかないわけがない。

辞めた後どうすんだより、辞めたいが先に立って躊躇なく手をあげた。
十四年まえのちょうど今ごろの季節のことだった。

それから毎日退職日まであと何日、何日と指折り数えていた。 例えばなしではない。 ホントに数えてた。

精神的にも身体的にも脱水状態にあえいでいたある暑い日。
仕事帰りにひと息つきたくなって、駅前のデパートに寄って屋上に上がってみた。
何度か行ったことがあるが、こんな時間に訪れるのは初めてだ。
もう暑さの果てが見え始めたころだったと思うが、冷房がきいてない屋上広場は昼間の熱気をそのまま引きずっていた。

そこから見えた夕景は今でも忘れない。
眼下に深い朱色に暮れなずむ街並みが広がり、その彼方に鏡のような海。
そこにぽっかり浮かぶキレイな円錐状の島影。
見下ろす街なかをクルマのライトが動いていなければ、静止画と見まがうばかりにキレイだった。
景色を眺めながら、「もうちょっとだな、もう少しだ。あと何日だ」…やっぱり日にちを数えていた。


やがてやってきた勤務最終日。
店の休憩室で同時に退職する数人と、残る社員たちが集まり簡単なお別れ会があった。
順番に退職の挨拶をして、なかには感極まってことばに詰まる人もいた。
「希望退職」という会社公式の退職なのでなんのわだかまりもない「円満退社」だ。

帰宅後そのお別れの会に出ていなかった社員たちから、ありがたいサヨナラメールをいくつももらった。
終わって振り返ってみればだけど、およそ17年の社歴のなかでその2年半ほどの出向期間はことのほか濃密でなつかしい。

今回の閉店騒動はおそらく私がレコード~CDに関わり続けた40年あまりの締めくくりになると思うが、不思議とあの時のような感慨深いものはない。

今のところ、だけどね。


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