研究ノート 耐震安全論 私は、森重晴雄さん(元三菱重工業、原子力耐震工学)が、福島第一原発1号機の事故後の耐震安全性について、これまで発表してきた成果(webで公開されている数多くのYouTube映像、学会発表内容、2023.12に刊行された88ページのブックレット)を吟味し、さらに、同問題にかかわる東京電力と原子力規制委員会の最近(2024.3)までの技術報告も吟味し、次のような結論に、・・・

私は、森重晴雄さん(元三菱重工業、原子力耐震工学)が、福島第一原発1号機の事故後の耐震安全性について、これまで発表してきた成果(webで公開されている数多くのYouTube映像、学会発表内容、2023.12に刊行された88ページのブックレット)を吟味し、さらに、同問題にかかわる東京電力と原子力規制委員会の最近(2024.3)までの技術報告も吟味し、次のような結論に達し、
・実際の原発は、ポンチ絵で示されているほど単純な構造ではなく、外側を約3 mの鉄筋コンクリートで覆われた厚さ2.5 cmの炭素鋼製原子炉格納容器内に、厚さ1.2 m高さ約10 mの円筒形コンクリートペデスタル(強度補強のために円筒形中心部には厚さ3.6 cm高さ1 mの円形炭素鋼製インナースカート設置)、さらに、その上に約1.2 mの鉄筋コンクリートで一体化された高さ約25 mの円筒形遮蔽構造物、原子炉圧力容器は、円筒形遮蔽構造物の内側で、円筒形コンクリートペデスタルの上に乗っており、地震時対策として、原子炉圧力容器と遮蔽構造物の間に支持構造物(原子炉圧力容器スタビライザー)、遮蔽構造物と原子炉格納容器の間にも支持構造物(原子炉格納容器容器スタビライザー)があり、遮蔽構造物は、部分的に、鉄筋コンクリート製の床が原子炉格納容器と一体化されており、横方向には、強固な構造物があり(二年前に、福島第一原発5号機内部見学・調査、note本欄バックナンバー記事・写真参照)、
・円筒形コンクリートペデスタルの下部の高さ約1 mまで、事故時の高温溶融物の熱的影響で、厚さ方向に約60 cmもコンクリートが溶け(1200℃)、表面が腐食・損傷した炭素鋼鉄筋(縦筋と横筋)が、剥き出しになっており(1500℃)、開口部の外側も流れ出た高温溶融物により、部分的にコンクリートが溶け、
・腐食・損傷した炭素鋼鉄筋の強度は、いまのところ、最初の強度の何割になっているか分からない、事故時の熱的影響で、原子炉圧力容器スタビライザー(最高500℃、東京電力編『福島第一原子力発電所 東北地方太平洋沖地震に伴う原子炉施設への影響について』、2012.5改訂版)と原子炉格納容器容器スタビライザー(最高700℃、同文献)の強度が、どの程度低下しているか、機能維持が推定できても、内部の詳細が観測されていないため、確定的なことは言えない、
・該当部位に対し、「単純モデル」で、原子炉建屋内地下二階床面(原子炉建屋基盤上)で震度六強を想定した耐震評価をしても、耐震安全を正確に評価できるほどの信頼性は、望めず、
・有限要素法計算コードを採用し、原子炉建屋内と原子炉格納容器内に対し、「超詳細三次元モデル」でコンピュータシミュレーションしなければ、正確な耐震安全の結論は、えられず、不確実性があるため、考えられるモデルで十数ケース計算すれば、約3000万円の金がかかる、
・有限要素法計算コードでの主な計算条件は、
①いくぶん甘い計算条件  剥き出し鉄筋の最初の強度を想定、コンクリートペデスタルの下部高さ1 mまでインナースカート込みのコンクリート厚さ約60 cm想定、原子炉圧力容器スタビライザーと原子炉格納容器容器スタビライザーも最初の機能を想定、横方向構造物の強度も考慮、震度六強(東京電力は600-900ガル想定)の三次元的地震加速度分布考慮の耐震計算の実施、
②最も現実的計算条件  剥き出し鉄筋の強度をゼロと想定、コンクリートペデスタルの下部高さ1 mまでインナースカート込みのコンクリート厚さ約60 cm想定、原子炉圧力容器スタビライザーと原子炉格納容器容器スタビライザーの機能は、事故の影響による機能低下を想定、横方向構造物の強度も考慮、震度六強(東京電力は600-900ガル想定)の三次元的地震加速度分布考慮の耐震計算の実施、
③最も保守的計算条件  剥き出し鉄筋の強度をゼロと想定、コンクリートペデスタルの下部高さ1 mまでインナースカート込みのコンクリート厚さ約60 cm想定、原子炉圧力容器スタビライザーと原子炉格納容器容器スタビライザーの機能は、ゼロ想定、横方向構造物の強度ゼロ想定、震度六強(東京電力は600-900ガル想定)の三次元的地震加速度分布考慮の耐震計算の実施、
・私の軽水炉安全解析の経験に拠れば、①②③でも(③は厳しい結果になる)、森重さんが主張するような原子炉倒壊は、発生せず、
・森重さんは、原子炉圧力容器スタビライザー部に、非常に甘い地震加速度353ガルを想定していますが、根拠が分からず、勘違いではないのか?
・私は、全体的に、経験も考え方も異なるものの、森重さんの社会への問題提起を契機に、独自調査と計算の機会が持てたことに、感謝、
などです。

いいなと思ったら応援しよう!