アルバイトの事 ファンシーショップ
昨日アルバイトのことを少し書いたらなんだか思い出してしまってまた書きたくなりました。さらに今日のこの生ぬるい感じの暑さが高2の夏休みにしたバイトを思い起こさせたので、そのことを書こうと思います。
田舎の、ただ、ただ、広い畑の真ん中に、全く周りとの調和を無視したショッピングモールがちょうどそのころ開店し、その中の「ファンシーショップ」と呼ばれる雑貨、文具、おもちゃなどが売られている店で、夏休みの間だけバイトをしました。
自転車で向かう途中、畑道ですべってしまい、ひざから血を出しながらバイトに向かったこともありました。
そこで社員として働いているお姉さん二人がいたのですが、2人はまるでドラマに出てきそうな感じの凸凹コンビといったかんじで、一人はショートヘアでさばさばした性格、もう一人はロングヘアに女性らしい物腰でした。
バイトを始めて間もないころ、ショートヘアのお姉さんが、「1回だけだぞ」と念をおしながら、サンドイッチをおごってくれました。何の話をしたのか覚えてないのですが、小柄な体にマニッシュな感じの服で早口で色々と話しかけられたのだけは印象的でした。
お姉さんは仕事でもきびきびとして、よくお店では自分の好きな邦楽のロックをかけて楽しそうというよりかはむしろ誇りをもって仕事をしているように見えました。
もう一人のおしとやかな感じのお姉さんとも昼休憩でいっしょになったことがありました。店内ではあまり話さなかったのですが、休憩では好奇心まんまんの目つきで
「いいよね~高校生か~。卒業したらどうするの? 東京?そうだよね~こんな田舎にいたくないよね~。」
お姉さんの目つきは私を見ているのになにか遠いところを見るような感じにかわりました。それからしばらくして、
「わたしね。ずーっと付き合ってる人いるんだけどね・・・私は結婚したいんだけど、何も言ってくれないんだよね・・」
とけだるそうに言いました。私は答えようもなくただばかみたいに「ははっと」と軽く笑いました。
昼休みには、夏を感じるために、エアコンの効いた店内からテラスに出て眩しい日差しの中でおにぎりを食べました。
誰かかっこいいお兄さんが声かけてくれないかな~。車で海につれってくれないかな~・・そんなありきたりなことを考えてながら。
しかしそんなところでおにぎりを食べている女子高生には、期待したロマンスもなく、毎日誰かが誰かのために買うプレゼントを包んだり、棚にいつまでも売れずに残っているおもちゃを何度も拭いては並べなおしているうちに夏がすぎました。
バイトの最終日、店長が、いかにもサプライズと言う感じで隠し持っていた大きな花束をくれました。黄色い花でいっぱいの立派な花束でした。
「男の人に花束もらうなんてはじめてだろう~」といつもは無口な店長が嬉しそうに言いました。
泣いて感動するというよりは、驚きとなにかばつの悪さをかんじ、またばかみたいに「あはは」と笑って受け取りました。
・・・
その後十年以上たって父が亡くなったときに地元にかえったのですが、そのショッピングモールは閉店してその近くに葬儀場ができていました。
葬儀場に向かう道すがら私が「あれっ」と驚きの声をあげると
横で運転していた兄はあっさりと「もうつぶれちったよ」と一言だけいいました。
父の葬儀のせいなのか、そのモールもまるで喪に服しているかのように静かに雨の中ひっそりとたっているように見えました。