記憶

10歳のわたしの声に気づいたあの日から
何かが崩れ始めた
何をしてても力が入らない

その後

長女が入籍をした
彼のご両親に会うからといろんな計画を立てる
喜ばしいことなんだけど
こんなお母さんでごめんねって
ずっと申し訳ない気持ちでいっぱいだ
娘が笑っていることがせめてもの救いだ

大好きな友人たちとのお泊まり会
嬉しすぎて嬉しすぎて
こんなダメな子なのに、すみませんって
あれ?ありがとうじゃないって
なんだかとっても失礼だな

勉強会に参加した
そこで両親との関係について話したり考えたりする機会があった

誰かの両親の話を聞いた
そっかー、みんな大変だったんだなぁ
「親から愛されている」って感じたり、感じなかったりは
本当に様々な背景とかあるよなぁ

うちは色々あったけど
とりたてて不幸ではない
まぁ、酔って暴力をふるう父親
殴られる母親って、よくある話だし
昭和ってさ、そういう時代だったよね
むしろ、わたしは恵まれていたのかもしれない
そう思った
だって、わたしはお父さんからは一回しか殴られていない
お父さんはわたしのこと好きだから
わたしもお父さんのこと好きだし
お父さんからは愛されていた

あれ?
どこかおかしくない?
一回しかって
どういうこと?

いやいやいやいや
ほら、お父さんはいつもドライブに連れてってくれたじゃん

ん?
思い出してみたら
父親がひと暴れした後、車で出かけようとするときに
母親に「一緒に行きなさい」と
助手席に放り込まれていたんだった
「お父さんはあなたのこと好きだから」って言われながら
裸足で、パジャマ姿のわたしを抱えて車に放りこんだ
今思い返してみると、
あれはよその女の人の家に行くのを防ぐためだったんじゃない?
あれ?
すっごい不愉快な顔をして、舌打ちしながら運転しているのは誰?

いや、そんなはずはない
お父さんだけは、わたしのこと好きだったはず
あれ?
どこかで記憶をすり替えている?

胸がざわざわする
何かが崩れている
大きくはないけど
詰んだ石垣の隙間からじわじわと砂が流れてくる感じ
大きな崩れはないけど
その前兆のような
そんな感じ



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