今日か明日

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『月と六ペンス』

2014年 サマセット・モーム『月と六ペンス』金原瑞人訳、新潮文庫 お昼時に部屋の窓を開けて、どこかの工事の音を聞きながら、ふかふかの肘掛け椅子でゆるりと読んだ作品。 日本語訳が分かりやすく、するすると内容が頭の中に入ってきて少し驚いた。まるで日本語の小説のような読み心地で、私にとっては初めての体験。 イギリス出身、40歳過ぎの男(ストリックランド)が、家庭も、仕事も、地位も名声もすべて放り出して挑んだ「絵描き」への道を書いた小説。 完全フィクションだが、エッセイの形

    • 「明日のナージャ」を観た話

      アニメ「明日のナージャ」をご存知だろうか。 2003年からおよそ1年間、テレビ朝日系列で毎週日曜朝8:30~から放送されていたアニメ。(おジャ魔女どれみが終了した後、同じ時間枠で放送された。)因みに、この「明日のナージャ」が終了した後、プリキュアシリーズが放送開始した。 それでは、「明日のナージャ」が本当に好き。という話をする。 幼い頃に観た覚えはあったものの、内容の記憶はほとんど曖昧だったため、大学生になってから興味本位でもう一度見返したら衝撃を受けた。 以下、あら

      • ノルウェイの森

        最後、直子が首を吊ったことが悲しくてならない。生と死の境界をふらふらしながら外の世界へ出るのだと思っていた。キズキの死とは対照的に、世界の内から外へ生きてほしかった。しかしページ数とストーリー展開からすればそれはあり得ないし、実のところ直子が死ぬことは予想していた。 外とのつながりがワタナベ君しかおらず、またキズキが亡くなってから、その影響をもろに受けている直子にとって、外で暮らすことは非常に難しいことなのだろう。もし直子が生きるとすれば、それは死よりも遥かに強烈な生の象徴

        • はつこい

           時子先生の手は暖かい。 発表会の前に緊張して泣いた時もどうしようもなく悲しくなってお稽古部屋で泣いた時も、時子先生の手は暖かった。 時子先生のスカートはとても淡い色でいつもふわりふわりと揺れる。そのスカートに包まれて時子さんの匂いを感じたい。そのスカートは夏のうだるような暑さをかわし夏の美しさをうたっていた。 時子先生と出会ったのは10年前の8月7日。お稽古部屋へ入ると、いつものみすず先生はおらず知らないおばあさんが白黒の鍵盤を静かに叩いていた。一つにまとめ上げられて

          誕生日

          いとこ家族に、男の子が誕生した。 母親から写真が送信された。写真の向こう側で、新たないのちの誕生を喜ぶ声と、妻に感謝の言葉をかける夫の愛しい声が聞こえる。 この子の将来は明るいか。この世に生まれてきて良かった、と将来思うことができるか。 その子の顔写真を見ながらそんなことを考えてしまった。 つまずいて転んで、泣きませんように。誰も見ていないところで理不尽に泣くことがありませんように。ごきげんに生きることができますように。その子の前にある石を一つ一つ退かしたい。そう思っ

          「杳子」を読んだ話

          古井由吉著「杳子・妻隠」に収録されている「杳子」について話してみようと思う。 まず登場人物はたったの3人。神経を病む女子大生「杳子」、男子大学生「S」、そして「杳子」の姉。 Sと杳子が出逢い、お互いがお互いの「存在」に引き寄せられて「ひとつ」となる物語。恋愛小説と言えなくもないが、巷の書店に並ぶ甘い恋の物語などではない。 杳子は彼の目の前で、三十分か一時間前にどこかここから遠いところで途方に暮れて立ちつくした気持の中へ、また沈んでいく様子だった。だがすぐにまた精気がいら

          「杳子」を読んだ話

          「彼女は頭が悪いから」を読んだ話

          姫野カオルコ氏著「彼女は頭が悪いから」読了。メディアで取り上げられ、話題となった時期とは少しずれているが、気が向いた故レビューを書いた。  ではまず、あらすじから。(作品紹介引用) 深夜のマンションで起こった東大生5人による強制わいせつ事件。非難されたのはなぜか被害者の女子大生だった。 現実に起こった事件に着想を得た衝撃の書き下ろし「非さわやか100%青春小説」! 横浜市郊外のごくふつうの家庭で育った神立美咲は女子大に進学する。渋谷区広尾の申し分のない環境で育った竹内

          「彼女は頭が悪いから」を読んだ話