Kのこと 2

Kとの出会いは9年前の春。大学卒業してすぐくらい。当時の僕は社会人として、まともに生きようとしたがっていて、絵を描いていた自分を捨てたいとすら思っていた。美術以外での人間的な暮らしがしたかったから。大学生の頃は、はっきり言って絵以外はあまり良くなかった。高校生の頃はもっと最悪だった。まぁそれは置いといて。

Kのことは所謂出会い系アプリで見つけた。今で言うマッチングアプリのことだけど、当時はそんなに知られてなかった気がする。通称赤アプリと呼ばれるもの。今は廃れてて、専らナイモンが流行ってるけど。
昔、写真が好きな友達の奥田さちよとBL小説みたいなものを書いていたことがあったけど、その時はKとはマインクラフトの中で出会ったと書いていた。でもあれは嘘で、本当はただのマッチングアプリ。けどそれだとロマンが無いなと思って、作り話にした。でも、僕がやっていたマインクラフトをKにやらせたら僕以上にハマったのは事実で。Kが一人延々と地下洞窟を探検していたのも事実である。

Kと初めて会ったのは夜、河原町のマルイ前だった。今はマルイが無くなって家電量販店が入ってた気がする。仕事終わりに待ち合わせして、Kがおすすめする先斗町のオムライス屋で一緒にご飯を食べた。
そのときKと何を話したか全く覚えていない。全く意味のない話をしていた気がする。
正直に言うと、Kは最初から最高に可愛かった。はじめにメッセを送ったのも僕だし、会おうと言ったのも僕からだったと思う。どこがどのように可愛いか?ということはおそらく書いても全く伝わる気がしないのでやめておこう。

その後、何度か会ううちに、お互いの家によく泊まりに行くようになった。家が近所だったからというのもあるけど、3日に一回くらいはお互いがどっちかの家に行く、という感じになった。
今までの僕の生活からは考えられないことだった。家に一人で引きこもることに幸せを感じるタイプだったから。

仕事から帰ると、だいたい駅でKが待っている。あるいは出張先からそのままKの家に直帰する。そんな感じだった。なぜそんなに会っていたのか、不思議に思う。特に話や趣味が合ったわけでもないし、セックスもほとんどしていなかったと思う。というか、皆がセックスと呼んでいる行為は最初から今までKとは一度もしたことがない。一緒にご飯を食べてゲームして風呂に入って寝ていただけだった。それがKとの中心。ほんとにそれだけだった気がする。付き合おうか?の確認もあったかどうか思い出せない。

じゃあそれって友達じゃん?
と、言われるかもしれない。しかしそう言われようがどうでも良いのだが、友達とは違って、友達よりも格上の存在というか。嫌われたくないから会う時自分の見た目はちょっと気にするし、隙があったらお菓子とか買ってあげたくなる。つか、友達とは一緒に寝ないと思うし。そうだよな?いや、一緒に寝てても友達な場合もあり得るかもしれない。僕はその例を知っている。考え出すとわからなくなるけど、とにかくKは特別で友達以上の存在ということだ。
当時僕は大学時代の友達とシェアハウスしていたのだが、彼ならそんな僕の様子を少しは覚えていると思う。頻繁にKを家に呼んでいたから。彼はソウルメイトで、僕の数少ない友達の一人だった。僕にとっての友達とは心で話せる人間のこと。だから、彼はKのことを認めてくれた。今思えば、彼は心の広いやつだった。まぁ彼も彼女を呼んでいたからお互い様なんだけど。

Kとの初デートは通天閣だった。
出会って一二ヶ月経った頃だったと思う。デートに行こう!がテーマで、デートらしいことをすることが目的になっていた。Kがスパワールドに行きたいと言ったから、僕はわざわざデパートに行って高い水着を買った。スパワールドに行くためにわざわざ水着なんて買わなくていいだろうと今なら思う。
スパワールドっていうのは通天閣の近くにある屋内型プール施設で、巨大なビルの中に温泉やウォータースライダーなどがある大阪の有名なテーマパーク。二人で温泉に入ったり、流れるプールで一緒に流されたりした。今のコロナじゃ考えられないくらいに人がわんさかいるので、プールの中で少しくらいいちゃついても誰にもバレなかった。一緒にウォータースライダーを何度も滑った。本当に恋人同士みたいだった。実際、そうなんだけど。たぶん。でもその時、僕らは恋人同士なんだと改めて心底思えた。

スパワールドを出た後は、通天閣周辺を散策して、串カツを食べたりした。それから、通天閣にも登ってみた。通天閣の中を登る途中、よかったら写真を撮らせてくれませんか?とスタッフの人が声をかけてくれた。あたふたしていると、セットに通され、何故か通天閣のミニチュア模型の前でポーズを取らされ、写真を撮られた。何故通天閣の中に実際にいるのに模型を前にして記念写真なのか分からなかったが、僕らはかわいい観光客になりきってピースをして写真に写った。あとで写真を渡されたが金もしっかり取られた。Kはマジで怒っていた気がするが、その時の写真は今も部屋に飾ってある。撮ってもらって良かったと本当に思う。僕はちょっとイキった顔をしていて、Kはどこかぎこちないけど、本当に嬉しそうに笑っている。また通天閣に行ってみたいな。



つづく。

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