6/30 ラダック旅のクライマックス プクタル・ゴンパ
昨日、いろいろな出来事がありながらも、何とかプクタル・ゴンパの麓にある寒村プルニ(Purne)に到着した。
土で固めただけのような小屋で一夜を明かし、いよいよ朝の9時にプクタル・ゴンパに向けて出発する。
ガイドブックには、近隣の集落から山道を歩いて2〜3時間と書かれていたので、正午前に着ければ良いかなと思っていた。
最初のうちは、かろうじて車が通れる道である。
道路は凹凸が激しく、尖った石が散らばっているが、二本の車輪跡がくっきりと見える。
何だ楽勝じゃないか、とぼくは思った。
しかし、轍に沿って40分くらい歩いたところで、行き止まりにぶつかってしまった。
向こうを見ると、断崖絶壁の斜面に細い道が続いているのが見える。
道路を少し引き返すと、谷底に降りていく「道らしきもの」を見つけた。
「まさか、これか…?」と思いつつ、雪崩跡のような道の先を見ると、確かに向こうまで続いているのだった。
慎重に下まで降りて行き、ひたすら小道の先を進んでいく。
道中とんでもない道に出会す。
もはや道ではない。谷底に向かって少しだけ傾いているのである。
足元は細かい砂利で、少しでもバランスを崩したら崖を転がり落ちてしまう。
体を支えたり、掴まったりできるところはどこにもない。
どんなテーマパークの、どんなアトラクションよりもスリル満点なのである。
ぼくは震えそうになる足を抑え、文字通り息を殺して数mを歩き切った。
その後も、道とは言えないような道をいくつか通りすぎ、40分くらい歩いたところで工事作業中の人と出会った。
彼らのおかげで、ゴンパへのアクセスが少しずつ容易になっていくのだ。
ありがたいことである。
工事現場を過ぎると、すぐにきれいな橋にぶつかった。
まだ新しい橋である。
ここまで一体どうやって資材を運んで、重機を持ってきたのか謎なのだ。
まさか、全て手作業ではあるまい。
橋の上から、向こうに寺の門が姿を現した。
あれが、プクタル・ゴンパの入り口なのだろう。
橋を渡ってから10分。
ついに、目的地であるプクタル・ゴンパに到着した。
このラダック旅では、いろいろな秘境まで足を運んでみたが、このゴンパはどこよりも秘境なのだった。
門をくぐってすぐのところにある、ゴンパ直営のゲストハウスにチェックインして、リュックを下ろす。
時刻は11時前。
結局、麓のプルニから歩いて1時間40分くらいであった。
少し休憩して、さらに坂道を登ったところにあるゴンパまで行くことにする。
そびえ立つ崖の中央にポッカリと開いた洞窟の中に、身を寄せるようにして密集する僧院が見える。
かなり異様な姿だ。
ゴンパに向かう途中、幼稚園児〜高校生くらいの年頃の少年僧たちと出会う。
急な坂道を10分ほど登って、ついにゴンパに潜入する。
迷路のように入り組んだ僧院を歩いていると、高校生くらいの年頃の少年僧と出会う。
彼から追いて来るように促され、最上階の本堂まで行く。
小学校高学年くらいの少年僧とバトンタッチし、洞窟の中に造られた本堂を見学させてもらう。
本堂から出ると、今度はキッチンに案内される。
正午の少し前で、ちょうど昼食の準備中だった。
炊事当番の少年僧たちとおしゃべりをして料理が出来上がるのを待つ。
先ほど本堂の中を案内してくれた少年は、日本人のような顔立ちをしていた。
すると、他の少年僧が彼を指差して言う。
「彼のお父さんは日本人なんだ。お母さんがラダック人」
少年は肯定も否定もせずに、ただ微笑んでいた。
事実なのか、彼の顔が日本人に似ていることを利用したジョークなのか、よく分からなかった。
準備が整うと、一緒に昼食をご馳走になった。
中身がない餡まんや肉まんのような饅頭に、草とじゃがいもが入った薄味の野菜スープ。
徒歩でしか行き来ができないこのゴンパでは、貴重な食糧である。
質素なメニューだが、饅頭やスープは大量に作られており、育ち盛りの少年僧たちはモリモリと食べる。
小麦粉を固めて作られた饅頭は腹に溜まる。
彼らに促されるままにたくさん食べて、すっかりお腹いっぱいになってしまった。
ところでゴンパからは、緑豊かな対岸の集落が見えた。
反対に考えると、向こうからはゴンパを正面に見られるはずだ。
まだ昼過ぎで時間はたっぷりあったので、橋を渡って対岸に行ってみることにした。
ヤギが通るような道を30分ほど歩くと、桃源郷のような緑豊かな集落に着いた。
目論見通り、崖にへばりつくようにして建つゴンパが正面から見えた。
ゲストハウスに戻って少し休憩。
夕方再びゴンパに行くと、少年僧たちが思い思いの時間を過ごしていた。
喧嘩をして石を投げ合っている少年僧もいた。
普通の子どもと変わらないのだ。
ゴンパの最上階に座り込んで、彼らと話をする。
話題は他愛もないものだったが、かけがえのない時間だった。
日が暮れる前にゲストハウスに戻って、夕食をいただく。
夕食は、じゃがいもと玉ねぎがギッチリと詰まったモモだった。
コロッケのタネを餃子の皮で包み込んだようなもので、質素な内容なのだが、昼食と同様に数で圧倒してくるのだ。
すっかりお腹がパンパンになってしまった。
こうして、ラダック旅のクライマックス、プクタル・ゴンパで過ごす一日が終わった。
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