偶然、隣り合わせた嫌な人と過ごす運命について/コンパートメントNo.6
2021年カンヌ国際映画祭ででは日本の濱口竜介監督が「ドライブ・マイ・カー」で脚本賞ほか四冠で話題となったので、知っている方も多いだろうが、
この年グランプリを獲ったのは「コンパートメントNo.6」という作品だった。その本編がようやく、2023年2月10日より日本で公開される。
偶然、生理的に合わない人と隣り合わせることになる・・・そんな巡り合わせ、運命とは一体、自分の人生にとって、何の意味があるのだろうか。
フィンランド人の若い女性主人公ラウラ(セイディ・ハーラ)は、モスクワから列車に乗り、世界最北端の駅ムルマンスクにある岩面彫刻、古代遺跡アート・ペトログリフを見に行く予定だった。一緒に行くはずだった大学教授の同性の恋人(ディナーラ・ドルカーロワ)にドタキャンされ、結局ひとりで旅立つことになった。
恋人がもう自分に興味がないことを感じ取り失望している中、出発した寝台列車の同じ6号客室に乗り合わせたのは、ロシア人の炭鉱労働者の男(ユーリー・ボリソフ)だった。男は出発早々から、酒に酔い、タバコをふかす。男の粗野な振る舞いで、傷心気味のラウラにとっては最悪な旅のはじまりとなる。
私たちの現実世界でも似たような状況は、マンションのお隣さん、職場、観劇の隣や前の人から、親・兄弟、親戚、友人の友人、変貌していった妻や夫というケースにも当てはまるだろう。
しかし映画は、旅を共にするうちに、お互いの不器用な優しさや魅力に少しずつ気付いていく、という物語。
この作品は、そのような極めて感情移入はしやすいが、嫌な感じがわかりすぎる人間同士のめぐり合わせ、その偶然が引き起こすミラクルな展開と、人の心の劇的な感情の変化を実感することの出来る作品。何か、小さな喜びや安堵を感じる一本でもある。
”最初は気が合わない”、あるいは”嫌だなと感じたり”、”無性に腹が立ったりする”相手と長い時間過ごさなければならない、そんな運命のめぐり合わせとは一体、自分の人生にとって、何の意味があるのだろうかと考えさせられる。
一つは、出会う人、縁がある人とは、何かしら自分自身が映し出された「鏡」なのだということ。他人の嫌な面、腹が立つところは、自分自身が今、人生の中で乗り越えなければならないポイントが炙り出されている現象に過ぎないという見方。
運命学的解釈から、現象をそんなふうに読み解くことも可能だ。
主人公ラウラの感情に反応する、映画を見ているあなた自身の潜在意識下に潜む、自分の本当の心・姿とは・・・
あなたには、何が欠如していて、何を求めて人生をさまよい、そして、旅を続けているのか?・・・ 映画に没入しながら、どこか遠くでそんなことを思えたら、さらに深く感じられる一本になるかもしれない。
私は、久々のオンライン映画試写で鑑賞しました。
10年前は、年間300本近くの新作映画を、公開前の試写室で見続けていましたが、2020年以降、試写室から”遠く離れて”(©︎蓮實重彦)いた私でした。(2〜3年ほどのブランクを経て、しばらく少しレビューを続けます)
【絶対シネマ感!☆☆☆★★】
『コンパートメントNo.6』
2023年2月10日(金)より、新宿シネマカリテほか全国順次公開
監督・脚本:ユホ・クオスマネン『オリ・マキの人生で最も幸せな日』
原作:ロサ・リクソム フィンランディア文学賞受賞「Compartment No.6」
出演:セイディ・ハーラ/ユーリー・ボリソフ/ディナーラ・ドルカーロワ(『動くな、死ね、甦れ!』)/ユリア・アウグ
2021年/フィンランド=ロシア=エストニア=ドイツ/ロシア語、フィンランド語/107分/カラー/シネスコサイズ/
原題:Hytti nro 6 英題:Compartment Number 6/映倫区分:G/後援:フィンランド大使館/配給:アット エンタテインメント
公式HP:comp6film.com
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