リスボン物語
高田馬場東映パラスで、君と一緒に観た『バグダッドカフェ 完全版』はとてもよかったね。君が大好きだった『ベルリン・天使の詩』や『パリ、テキサス』の監督が新作を撮ったよ。俺はどっちも途中で寝ちゃったけどさ。君は本当にヴェンダースが好きだったよな。でも『夢の涯てまでも』は俺も好きだったんだぜ。
今度の新作は「リスボン物語」っていうタイトルで、日比谷シャンテっていう映画館で公開されるんだ。都内で観れるのはここだけ。俺がそんな情報仕入れてるなんて驚きだろ?「ヤングガン」とか「セントエルモスファイアー」で喜んでたこの俺がさ。
最近「ぴあ」を読んでるんだ。そして、君が好きそうな映画を見つけては、足を運んで観に行ってる。レンタルビデオの料金さえ出ししぶっていたこの俺がね。貧乏学生だからロードショーなんてなかなか観れないけど、池袋の文芸坐とかシネマロサでも結構いい映画やってるんだぜ。しかも2本観れるんだ。こういう映画館を名画座って言うらしいよ。君は、、、そうか、君はきっとこういう映画館のことも知ってたんだろうな。
一人で俺は『リスボン物語』を観に行ったよ。ロードショー公開が始まってすぐにさ。つい奮発しちゃったよ。ヴィム・ヴェンダースは特別だからね。そうは言っても「ぴあ」の割引を使ったけどさ。
初めての映画館、しかも慣れない日比谷で、少し迷うかなと思ってちょっと早めに家を出たんだけど、幸い迷わずにたどりつけた。次の上映開始まで1時間半もあるって。ちょっと早すぎたな。でも驚いたな。あんなにお客さんが沢山いるなんて。
映画はとても素晴らしかった。心の底から感動した。フリッツは、どうしてあんなふうにして馬鹿げた映像を撮りためたんだろう。俺にはなんとなく、わかる気がするんだ。
マドレデウスのあの音楽は、一体なんていうジャンルなんだろう。ギターとウッドベースとアコーディオンと、他にも何か楽器があるかな。ボーカルの女の人の歌声がとっても綺麗で、吸い込まれるようで。まるで夢の中にいるような気持ちになった。最高の気分だった。
映画が終わってから、シャンテを出てすぐそばのマクドナルドに入った。ひとり、ボーっとアイスコーヒーを飲みながら考えてた。
この映画について、いつか君と話ができたなら。
心の底からそう思ったんだ。
邦題は『リスボン物語』。ヴィム・ヴェンダース監督。日比谷シャンテで初めて観た映画。今から20年以上も前のこと。
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