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シベリア超特急
少し前に「人生に寄り添い続ける映画たち」というマガジンを作った。
これは映画本編の感想というよりも、その映画が自分の人生にどんな影響を与えたかという切り口で、それぞれの映画と自分との関わりにフォーカスすることを目的としている。
「感銘を受けた映画」を取り上げるのが基本路線ではあるけれど、たまにはこういう映画を取り上げてみてもいいかな、とふと思い立った。
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「これ、今度うちで上映してくれないかって言われてるんだけど観ておいてくれる?」
と、映画館の支配人から手渡されたサンプルのビデオテープには「シベリア超特急」というタイトルが書かれていた。この時点で確か予備知識は無かったと記憶しているが、既に嫌な予感はしていた。
部屋に戻ってテープを再生する。・・・なんだこれは。僕は我が目を疑った。こんなものは映画でもなんでもない。ただのゴミクズだ。
映画を観て本気で腹を立てたのはおそらくこの時が初めてだろう。文字通り僕は怒り心頭になった。
映画解説者なんて肩書を持ち、数多くの映画に触れ、誰よりも映画への愛を体現するべき人間が撮った映画がこれなのか?
「観客の予想を裏切る」
それが一番大切なことか。お前が映画に託すものはその程度のものか。そんな安っぽい目的の代償としてお前がぶち壊したそれは、お前が敬愛する先人たちが時間をかけて築き上げてきたものではなかったか。
この怒りは誰とも共有することができなかった。多くの人にとっては、笑いのタネにこそなるけれど、本気で相手をするのも馬鹿馬鹿しい代物でしかなかったからだろう。
「こんなものはうちで上映するようなものじゃありませんよ!ふざけてます!」
「うーん、やっぱりそうだよね。なんかどこの映画館でも断られてるらしいからちょっとなあとは思ったんだけど(笑)」
と、無事「シベリア超特急」の映写という苦行を回避することができたのであった。
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今となっては僕も「ほんとしょーもない映画だよね(笑)」の一言で片づけられる。特に掘り下げて語ることもない。水野晴郎って要するに無邪気なお馬鹿さんだったんだよな。
そんな風に思えるのも、年を取ったということなんだろうな。
ちなみに余談ではあるが Wikipedia の「シベリア超特急」の記事に他言語版は存在しなかった(笑)