心に問いかけてくるインスタレーション【クリスチャン・ボルタンスキー-Lifetime:前編】
クリスチャン・ボルタンスキー-Lifetime
(国立新美術館)
精神のインスタレーション
ボルタンスキーの作品を初めて観たとき、それが何を意味しているのかはよくわからないけれど、心に何か響くような、訴えかけてくるような感覚になります。
クリスチャン・ボルタンスキーという人
ボルタンスキーはフランス人の現代美術家で、空間を活かしたインスタレーションを得意とします。
光と影、映像を用いて自己や他者の記憶、歴史、人間の存在の痕跡をテーマに世界で様々なインスタレーションを行っており、現在は自身の作品の神話化を目指し活動しています。
父がユダヤ人であり、第二次大戦期に生まれたボルタンスキーはその経験(ホロコーストのトラウマなど)をベースに自身の様々な考えを作品に与えています。
インスタレーション=ファンタジー
ボルタンスキーの空間を意識した展示は、展示会場の入り口に掲げられたDEPART(始まり)のランプのある通路を抜けた先から始まり、それはファンタジーの世界に入ったような感覚になります。
「モニュメント」という作品は、広い空間に肖像写真とランプを祭壇のように並べ、教会のような神聖さを感じさせる作品です。
非日常的な空間展示は普段生活している騒がしい俗世を離れ、静かで広い空間の中で作品と向き合うことができ、ボルタンスキーのインスタレーションに考えを巡らせることができます。
ボルタンスキーの作品は、鑑賞者に何かを考えさせることを目的としています。消費的な娯楽作品が増えることに反発して、思慮を深めるインスタレーションです。
問いかけてくる作品
ボルタンスキーの作品は人間の心を映し出しています。人の陰の面をシンプルな材料を用いて印象的に展示を行っています。
作品は個人としての陰、集団としての陰などのネガティブな要素を鑑賞者に問いかけてきます。
一般的な美術作品は作者の考え、答えがあるのに対し、ボルタンスキーの作品は答えがなく、あるのは鑑賞者に対する問いかけ、問題提起だと思われます。
「発言する」の作品は、黒いコートを羽織った俯いた電球が、日本語と英語で死についての様々な問いかけをしてきます。
ファンタジックな存在の魅力と、死についての深い問いが思考と心を掴む作品です。
理解できない作品
ボルタンスキーの作品の中には、その作品の持つメッセージ、暗示に気づけず理解できない場合もあります。
「コート」という作品は、青いコートが壁面に貼り付けられ、その回りを型取るように青いランプが配置されたインスタレーションです。
これは、コートが磔刑を連想させ、キリストの十字架をイメージさせるのですが、多くの日本人(キリスト教徒ではない)にとってはこの連想は難しいかと思います。
必ずしも作品を観ただけで、ボルタンスキーの問いかけに気づくことができるとは限らないのです。ただ、大事なのは問いに気づくことではなく、鑑賞者が考えるというプロセスだと思います。
ボルタンスキー作品の問いかけを考える【クリスチャン・ボルタンスキー-Lifetime:後編】はこちら↓
https://note.mu/kiyo_design/n/n10e119a8a4c5