<学習シリーズ>電子工作編:直流(DC)電源の作り方
1.概要
電子工作を実施するにあたり直流(DC)電源を使用する機会が増えます。今回は電気の基礎知識から直流電源の作成方法までの備忘録となります。
1-1.直流(DC)と交流(AC)
電気はその流れ方によって直流(CD)と交流(AC)の2種類あります。概要は下記の通りです。
2.発電・送電
2-1.発電方法の一覧
発電方法は下記の通りたくさんあります。
発電所
火力発電:石炭、石油、天然ガス、コンバインドサイクル発電
バイオマス発電
ごみ焼却発電施設:ごみを焼却して得た熱で発電
原子力発電
水力発電:通常は大型だが、最近マイクロ水力発電も出てきている
再生可能エネルギー
太陽光発電:発電される電気はDCのため、通常のACと同様に使用できるようパワーコンディショナーを設置して使用する。
太陽熱利用(熱から発電)
風力発電
地熱発電:バイナリー発電など
海洋エネルギー発電(潮力、温度差など)
雪氷熱:おそらく実用レベルには遠い
電池
蓄電池(バッテリー):電気を化学的に貯めておく(鉛蓄電器、NaS電池、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池)
家庭用燃料電池(エネファーム):都市ガス(13A)ややLPガスから取り出した水素と空気中の酸素を化学反応させて電気を作る
水素燃料電池:$${H_2}$$から電気を作る装置であり下記技術がある。
リン酸形燃料電池(PAFC)
溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)
固体酸化物形燃料電池(SOFC)
固体高分子形燃料電池(PEFC):トヨタMIRAIのFCは固体高分子
廃熱回収
ヒートポンプ※発電ではないけど重要技術なので追加
熱交換器※発電ではないけど重要技術なので追加
熱電モジュール(ペルチェ素子)
廃熱発電:地熱と同じ理屈で、(特に使い道が少ない)排熱は低温のため有機ランキンサイクル(ORC)発電などでエネルギーを回収
蓄エネ:ほとんどが開発中の技術であり、かつ蓄積できる時間もsec~年と技術に応じて用途が大きく異なる。
二次電池:電気化学エネルギー
電気二重層キャパシタ:静電エネルギー
フライホイール:運動エネルギー
超伝導電力貯蔵(SMES):電磁エネルギー
揚水発電:位置エネルギー
圧縮空気電力貯蔵:圧力エネルギー
水素電力貯蔵:電気化学エネルギー
ただし、特に日本では、我々が使用する電力の大半は発電所からとなります。よって、まずは発電所の発電方法を理解していきます。
【コラム:自転車の発電機】
自転車の発電機も交流であり、それを整流して直流にすることでライトに使っているみたいです。
2-2.タービンによる発電
熱を使用する発電(火力、原子力、バイオマスなど)は、一般的に熱を蒸気(Steam)に変換し、その蒸気でタービンを回します。タービンは発電機に接続されており、その回転力で発電を可能にします。
発電所の発電は交流発電機が使用されており、発電原理は「電磁誘導」です。電磁誘導とは、1831年にマイケル・ファラデーによって発見されており、磁場を変化させることで導体に電流が生じる(コイルの中心に向かって磁石を近付けていくと、コイル内に電気が流れる)現象です。
発電機は交流発電機における三相交流で発電しております。交流発電では固定されたコイル内を磁石が回転しており、1回転で極性が変わります(半回転ごとにN極/S極が入れ替わるため)。よって発電所で作られる電気は交流(AC)となります。
2-3.送電
発電した電気は使用する場所(家庭や工場)へ届ける必要があり、これを送電と言います。
安定な送電に必要なことは下記の通りです。
周波数:作る電気と使う電気の大きさが常に同じになるよう調整
電圧:発電所側と電気を使う側の電圧が常に一定になるように調整
系統安定度:万が一の事故に備えて、送電の大きさをあらかじめ制限
送電で重要なことは「送電効率を上げる(送電中にエネルギーロスが無い)」ことです。電圧が高いほど送電効率は上昇します(下図参照)。
各場所での電圧は下記の通りです。
発電所:27万5000V~50万V
超高圧変電所:15万4000V
1次変電所:6万6000V
中間変電所:2万2000V
配電変電所:6600V
大規模ビルや中規模工場
(電柱の)柱上変圧器(トランス):100V, 200V
家庭やオフィスに供給
【コラム:変圧器の原理】
なお、変圧器の原理は相互誘導であり、構造は鉄心(コア)に1次コイルと2次コイルを巻き付けたものと比較的シンプル見たいです。
【コラム:高電圧ほど送電効率が高い(ロスが小さい)理由】
理由としてエネルギー損失$${W_{loss}}$$は下記の通りです。
$${V}$$:電圧、$${I}$$:電流、$${R}$$:抵抗
$$
W_{loss}=VI=(IR)I=I^2R
$$
同じ電力で電流が大きいと損失が二乗でかかります。送電する電力$${W=VI}$$の電流$${I}$$を小さくするためには電圧$${V}$$が大きい方がロスが小さくなります。
詳細な説明は下記記事参照。
2-4.高圧受電設備(キュービクル)
製造業に従事するものが工場内でよく見る箱があります。高圧受電設備(キュービクル)とは「発電所から送られてくる高圧電力(6,600V)を受け取り、その電圧を降圧(100, 200V等)して施設内で使用できる電圧へ変換するための設備」です。つまり配電用変電所(電柱のひとつ前)の電気を直接受電し、使用するための装置です。
キュービクルの特徴は下記の通りです。
前提として、使用する電力量が大きい場合は高圧受電契約が必要
電気料金の単価が低い
キュービクル自体は高価であり、耐用年数もあるためメンテナンスや交換が必要
【コラム:キュービクルの変換効率】
キュービクルの効率計算には”エネルギー消費効率”という指標が用いられています。なんや難しいですが、受電したエネルギーに対してのロスはほとんどなさそう(小数点以下の単位)です。
2-5.系統電源
系統電源とは、電力会社が保有する商用の配電線網から供給される電源のことです。
回生型直流電源(双方向電源)を使用することで直流電源を系統に戻すこともできるそうです。
3.直流(DC)電源の作成
家庭にどのようにして電気が届いているかを理解したうえで、AC100V(コンセント)を用いて電子機器に必要な直流(DC)電源の作成方法を学びます。
方法は下記の通りです(他にもあるかもしれないので確認出来たら別途追記予定です)。なお紹介リンクは適当に貼りますが、配送料を考慮しなければ秋月電子が一番安くなると思います。
乾電池/電池ボックス(電池を直列接続):8本用電池ボックスにアルカリ乾電池なら$${1.5V/本×8本=12V}$$が用意できる。注意点として充電池(ニッケル水素電池)の公称電圧は 1.2Vのため、$${1.2×8=9.6V}$$で電圧が足りない恐れがあります。
スイッチングACアダプター:コンセント(AV100V)から指定した直流電圧(DC)に変換
出力端子部形状:DCプラグのため、別途2.1mm標準DCジャック ⇔ スクリュー端子台などを準備
別記事「Raspberry Piでやってみた2(電子工作):サーボモーター制御」で5Vの物で実装済み
昇圧型DC-DCコンバーター:低い電圧を高い電圧に上昇させる装置
USBのような低電圧DCを昇圧して高電圧のDCに変換
スイッチング電源(パワーサプライ):交流電力または直流電力より必要とされる安定化された直流電力を供給するための機器
プラント等では制御機器(PLC)、計器(バルブ、流量計など)、各種通信設備用などにDC24V電源が使用されたりする。
その他(参考用)
USB
太陽光パネル:太陽光で発電
【コラム:42V(死にボルト)】
電技省令第 3 条では電圧の区分を交流と直流で下表のように規定しております。普段家庭用で使用する電源はすべて低圧に分類されますが、低圧でも感電によるリスクは存在します。
電気設備業界の言葉に「42V は死にボルト(42V)」という表現があり、42Vでも条件次第(濡れてたり金属製設備に触れてたり)では感電死する恐れがあります。よって低電圧でも取り扱いは注意が必要です。
3-1.乾電池/電池ボックス
電源として乾電池を使用することで直流(DC)電源を取得できます。乾電池をn個直列に繋ぐ(直列回路)と電圧は$${V_{Total}=\sum_{i=1}^{n}V_i}$$となり、電圧が増加します。
コンパクトに乾電池の直列回路を作るものとして電池ボックスがあります。下記は単3乾電池×3本+リード線+電源ON/OFFスイッチ付きのものになります(蓋を閉じるためのストッパーが1発で壊れましたが・・)。
検証のためテスターを用いて電圧を測定しました。結果として$${V_{Total}=\sum_{i=1}^{n}V_i}$$と同等の電圧が得られることを確認しました。注意点として、一般的な乾電池(アルカリ乾電池)の電圧は1.5Vですが、二次電池(充電池)は電池の種類により電圧が異なり、また公称値は実際の電圧より低くなっております。
乾電池1個:1.4V (※公称値:1.2V)
電池ボックス(単3×3):4.1V
3-2.スイッチングACアダプター
普段ノートパソコンでも使用しているように、コンセントからのAC100V電源を直流DCに変換するACアダプターを使用することでDC電源の取得が可能です。参考例として、下記記事ではサーボモーターをPCA9685を用いて制御するような場面で使用しました。
ACアダプターの出力側インターフェースはバレルコネクター(DCプラグ)であり、そのままでは使いにくいため”2.1mm標準DCジャック⇔スクリュー端子台”を付けジャンパー線とつなぐことで+ーの線を取りやすくできます。
検証のためテスターを用いて電圧を測定しました。結果として5.1Vでありほぼ仕様通りの電圧をもつ直流(DC)電源を取得できました。
(※仕様書は5Vなので5.1Vは有効桁数的に許容範囲内かな)
3-3.昇圧型DC-DCコンバーター
”低い電圧の直流(DC)電源”を”高い電圧の直流(DC)電源"に変換する装置です(ACアダプターのようなAC/DC変換ではなく、DC電源を昇圧)。
よってUSBのDC5V電源から、より高い電圧を得ることが出来ます。注意点としてUSBは規格で電流(電力)が決まっているため、過剰な電流が流れないことの確認は必要です。
3-3-1.USB(5V)からの電源供給
昇圧する前にまずは直接USBからDC電源を取得しました。テスターでのチェックならPCでも十分だと思いますが、念のために家庭用コンセントのUSBを利用しました。本機器だとUSBのため電圧は5Vですが、電流は最大2.4Aまで取得可能です。
USBからDC電源の+とーを取るための変換器を利用しました。直接USBから電源を取れるものもありますが、良い仕様(欲しい電線のsq)が見つからなかった)ので、こちらにしました。
変換器の"V+"と"ー"にジャンパー線を繋いで使用すると、5.2Vでありほぼ仕様通りの電圧が確認できました。
3-3-2.昇圧型スイッチング電源モジュール LMR62421
秋月電子で販売している「昇圧型スイッチング電源モジュール LMR62421使用キット」を使用しました。(Type-C型のUSBであれば3Aまで供給可能ですが、)LMR62421の仕様より定常的な出力は2A以下にする必要があります。
キットは基板本体とは別に端子台、電解コンデンサ、出力電圧調整用可変抵抗器のハンダ付けが必要です。下図の通り、はんだ付けを行いました。電解コンデンサは取り付けの向きがあるため間違えないように取り付けます。
はんだ付けができたら、USB電源から昇圧モジュールを通してDC/DC変換による昇圧を行いました。下図の通り、電圧が18Vまで上昇してることを確認できました。
本モジュールの多回転ボリューム(出力電圧調整用可変抵抗器のねじ)を回すと電圧を調整できます。
なお今回試験したら、18V以上だと瞬間的に28V近くまで跳ね上がり、ちょうど24Vに調整することが出来ませんでした。原因は分かったら追記します。
3-4.スイッチング電源(パワーサプライ)
商用電源の交流(例:コンセントのAC100V)から安定した直流電圧に変換する装置を「直流安定化電源」と呼びます。その中でも『スイッチング方式』と『リニア方式』を取るものをパワーサプライと呼びます。
※パワーサプライにはDC/DCコンバーター仕様のものもある。
特に製造業ではDC24Vの物を見ることが多いと思います。
3-4-1.製造業におけるDC24V電源
製造業(工場やプラント)では制御機器や計器(計測器)が大量に使われており、比較的多くの機器がDC24V電源を使用します。
参考としてDC24Vで使用できる機器の例は下図の通りです。
本当かどうか分かりませんが、24Vの理由は下記の通りです。
3-4-2.仕様の設計要領
【パワーサプライの基本仕様】
パワーサプライの基本的な選定仕様は下記の通りです。メーカーは何社かありますが、有名なのはオムロンとなります。
出力電圧(DC5V・DC12V・DC15V・DC24V・DC48V)
容量:計算方法は下記
構造:本体カバーの有無
取りつけ:DINレールに設置するか
DINレールとは、電気製品や産業用制御製品を、一般的な機器キャビネットのエンクロージャーやフレームにつけるためのレール
一般的に制御盤内で機器を取り付けるために使用
DIN規格とはドイツ工業規格 Deutsche Industrie-Norm(en)の略であり、ドイツ国家の基準となる規格である(日本でいうJIS)。よってDINレールの穴の寸法などは規格化されている。
その他:通信(IoT)、モニター表示、状態監視(不足電圧出力など)
【パワーサプライの容量】
パワーサプライの選定方法は「パワーサプライの仕様容量[W]>使用する機器の電力の合計値」となります。DC24Vパワーサプライからn個の機器にDC電流を送る場合の数式は下記の通りです。
注意点として、電流の変動が生じると過電流保護が生じるため、モーターやソレノイドなどは安全率として5%以上を考慮する必要があります。
$$
\begin{aligned}
パワーサプライ容量[W] &>\sum\limits_{i=1}^n 各機器の電力P_i \\
&=\sum\limits_{i=1}^n(出力電圧V_i \times 負荷電流A_i) \\
&=\sum\limits_{i=ー1}^n(24\times 負荷電流A_i) \\
&=24 \times \sum\limits_{i=1}^n(負荷電流A_i)
\end{aligned}
$$
例としてモーターを動かす「モータードライバー TB6643KQ」の最大出力電流=1.5Aより最大電力=36Wとなります(ドライバーだけどモーターの動作を考慮して+5%乗せると37.8W)。
3-4-3.機器選定
例として、欲しいパワーサプライの仕様は下記の通りです。
入力電源:AC100V
出力電源:DC24V
容量:38W以上
接続:端子台(圧着端子+導線で接続)
DINレール取付:不要(あってもなくてもよい)
これより下記のような仕様を選定しました。
【OMRON S8FS:S8FS-G05024CD】
比較的低価格だったため購入。安全用にカバー付き(C)にし、勉強用でDINレール取付(D)を選定。
あと思ってたより、コンパクトではなかった。
【OMRON S8VSタイプ: S8VS-06024A】
1個欲しかったので購入。3割くらい高くなるけど、せっかくなので勉強用に表示モニタ/交換時期お知らせ機能付き(A)を選定(※工場とかでよく見るのはS8VS-06024のように余計な機能がなく安価なものです)。
【参考:サイズ感】
ギリギリ手のひらサイズと言えなくはないくらいのサイズ感です。制御盤内に収まるなら小さい方だと思います。
3-4-4.部材購入
スイッチング電源に組付けしていきます。必要な機器・工具は下記の通りです(参考URLは適当なものを張り付けています)。
【部材】
パワーサプライ(スイッチング電源):前節参照
電線:耐熱ビニル絶縁電線 2m×7色 外径3.0mm(UL1015 AWG18)
導線太さ(Sq)は流したい電流に合わせて選定
圧着端子:圧着端子(Y形)先開形 1.25Y-3/1.25Y-3を選定
差し込みプラグ:家庭用コンセントからAC100V取得用
【工具】
圧着工具:圧着端子の固定用器具
ワイヤーストリッパー:電線の被覆を綺麗に向く器具
ドライバー
(必須ではないがあったら便利)ピンセット
3-4-5.組付け
スイッチング電源の組み込みを実施します。
【INPUT側の準備】
電線の被覆を向き、片方には圧着端子、もう片方は差し込みプラグに取り付けます。差し込みプラグへの取り付けはなるべく綺麗になるようにピンセットで押さえながら実施しました。
【OUTPUT側の準備および電源供給開始】
電線の被覆を向き、片方には圧着端子、もう片方は被覆を向いた状態にしておきます(用途に応じて端子を付けておいてもよいです)。接続図に従ってパワーサプライに電線を繋ぎます。
接続後は、差し込みプラグをコンセントに繋ぐことでパワーサプライにAC100V電源から電気が供給され、出力側からはDC24Vが出力されています。
3-4-6.電圧テスト
テスターで電圧を測定してみました。結果として23.5Vであり、ほぼDC24V電源が得られることを確認できました。
3-5.その他
電子機器用向けには電流が不足したり、安定しなかったりするため使用しませんが、参考レベルで紹介します。
3-5-1.USB
PCに使用されるユニバーサル・シリアル・バス(Universal Serial Bus:USB)は規格化されており、電圧・電流(電力)共に決まっております。USB 3.0規格は電流900mA、電圧5V、電力4.5Wまで供給できます。
モーターなどを使用する場合は電流(電力)が不足する可能性が高いため、仕様書の確認がめんどくさい方は別電源から持ってくる方が無難です。
3-5-2.太陽光パネル
太陽光パネルで得られる電源は直流(DC)となります。太陽光の強さによって出力が変動するため、直接接続するのではなくいったんバッテリー(蓄電池)に貯めておいてから使用するのが正と思います。
参考資料
別添1:備品類
別添2:テスター
あとがき
電子工作を始めると、もの揃えるだけで軽く数万円くらい飛ぶ。結構不足が無いように買い揃えてるけど効率は良くない気がする・・・
あとやっぱテスターはデジタルの方が見やすいし使いやすいけど、アナログの方がなんか好き