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喜びの循環

ある商人からの連絡をきっかけに久しぶりに開いた116ページに及ぶ、偉大な商人の追悼文集「創造と挑戦の人生」。北陸三県のソウルフードとして愛される笹寿しをつくりだした石川県金沢市の「芝寿し」創業者、梶谷忠司さんのものです。

そこへは、私も存じ上げるキラ星のような真商人の方々が数多く追悼文を寄せられています。その中から私もご縁をいただいている一人の先達の一文をご紹介することで、梶谷忠司さんの偉大さをお伝えできればと考えました。

大分市で炉ばた焼店「元祖・としね」を営む利根博己さんは、商業界フードビジネス同友会「ペリカンクラブ」で梶谷さんから、商いと人生の本質を学んでこられたと言います。あるとき、どうしても見てもらいたいプライベートブランド商品があり、ご自宅を訪問すると、玄関には打ち水がされていたそうです。

〈会長(梶谷忠司さん)の顔が見たいとだけ言って伺ったのだが、見抜いていたのか、いつもの便せんに「商売で成功する十カ条」を手書きで丁寧に箇条書きに書かれていたものを渡された。一つひとつその意味を説明するために、幾度も二階に資料を取りに行っては説明をしていただいた。足がお悪いのを知っていたので、替わりに行きますと言うと「君が行っても分からんだろ」と、当時94歳の会長からありがたいご指導を受けた。

その十カ条すべてに百点をもらえる自信があり、会長から褒められることを期待して最後に是非をうかがった。すると一刀両断「これは駄目だな。その訳は君がわざわざ大分から金沢まで来て、僕が誉めればこの商品の成長は止まる。君は研究熱心だから、駄目だと言うと奮起するだろう。

いいか、ここに厚いテーブルがある。これに穴を開けようとした時、ハンマーでは開かない。錐(きり)で一点集中でやると開くんだな。新商品をつくる時も商売すべてこれがヒントだ」と教えられた。

その後、気にかけていただいたのか何回も何回も、アドバイスや参考商品などの情報をいただいた。感動と感謝の念が今も私の心に奥深く刻まれている。〉

こうした感動と感謝の経験者は利根さんだけではなく、追悼文を寄せられているほとんどの商人が同じ経験をしています。つまり、それが梶谷さんの生き方であり、偉大さの発露だと言えるでしょう。

追悼文集には「梶谷忠司語録」として、次のような一文が紹介されています。

喜べば
喜びごとが
喜んで
喜び集めて
喜びに来る

良いものを買ったとお客様に喜んでいただく、その満足の声を聞いて商売のやりがい、喜びを味わう。そしてそれを力にさらにお客様に喜んでいただけるように創意工夫を重ねる。こうしたお客様との喜びの循環が商売の成功に通じていくのです。

どんなに時代が変化しようとも、どんなに経営環境が熾烈を極めようとも、喜びの循環を忘れないこと。もし今日のコロナ禍の状況を梶谷さんがご覧になっていたら、どんなアドバイスをくださるだろうか。そんなことを考えていたとき、この一文が目に飛び込んできたのです。

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