心待ちにする雑誌
振り返ると、大学、企業勤務を通じて「雑誌」づくりに関わる生涯でした。その歳月およそ30年間。これまでの人生の半分を占めます。「出版人」という言葉がありますが、私の場合「雑誌人」というべきかもしれません。しかし、この5、6年、そんな愛する仕事から遠ざかっています。
だからこそ、なのでしょうか、届くのを楽しみにしている雑誌があります。全都道府県の提携スーパー140社の1200台が暮らしを支える移動スーパー「とくし丸」の創業者、住友達也さんが編集する「ぐ~す~月刊とくし丸」です。
住友さんはとくし創業前、「伝説のタウン誌」といわれる「あわわ」を1981年に創刊した人物。とくし丸を軌道に乗せたのち、ふたたび雑誌づくりに手を染めた生粋の雑誌人なのです。「手を染めた」と表現したのは、雑誌づくりにはこう表現できるほどの魅力と中毒性があるからです。
読者の中心はとくし丸を利用するお客様、つまり日々の買物にご苦労されてきたシニアの皆さま。その人たちに向けて平易な表現で、足もとの話題から時事問題、国際情勢までを独自の視点で伝えています。その根底には住友さんの、読者に「生きがい」や「楽しさ」を届けたいという編集方針があります。
だからといって一方的な情報発信ではなく、その根本には読者参加を大事にする姿勢が誌面の至るところに見られます。その顧客ファーストの姿勢はとくし丸にも通じるもの。従来の雑誌の休刊が続く昨今、既存のメディアが忘れてしまったものでもあります。
もちろん相次ぐ雑誌休刊の要因はそれだけではありません。既存の出版取次流通システムの形骸化も大きな理由です。その点、同誌は前述のとおり、とくし丸という独自かつ強固な流通システムを通じて“互いの顔見知り”という読者に届けられます。これは既存の雑誌が持たなかった大きな強みでしょう。
その詳細はデジタル版でご覧いただくとして、私の好きな記事は「とくし丸料理コンテストから」。その土地土地で受け継がれてきた“おばあちゃんの味”というべき、日々の暮らしを彩ってきたレシピで、今月号では新潟県佐渡市にお住いの85歳のおばあちゃんによる「春菊と柿のごまあえ」が紹介されています。まさに庶民による食の無形文化遺産。今度の週末につくってみようと思います。