今を生きる
1年半ほど前、仙台でお会いした人は笑顔が素敵な女性でした。商売とは相思相愛を探し出逢う旅――という志のもとに活躍する販促コンサルタント、松尾公輝さんにご紹介いただいたのが「かるぺでぃえむフォト」代表の藤原英理花さんです。
一日の花を摘め
カルぺディエム(carpe diem)とはラテン語で、古代ローマの詩人、ホラティウスの詩にある「一日の花を摘め」という言葉。英語では「seize the day」――つまり「今を生きる」「今という時を大切に使え」という意味を、藤原さんは事業名に冠したのでした。
藤原さんは28歳の誕生日直前に乳がんの宣告を受けました。抗がん剤治療により髪の毛が抜け落ち、副作用により顔がむくんだそうです。そんな外見にコンプレックスを感じ、「こんな姿では外に出たくない」「人に見られたくない」と家に半年間引き籠る日が続きました。
32歳、無職。
終わりの見えない治療、終わりが見え隠れする寿命。あとどれだけ生きられるのかわからないという焦燥感。治療のための高額な医療費により、「親孝行をするどころか、親の老後の資金を食い潰しているという負い目も感じながら過ごす毎日だった」と藤原さんは振り返ります。
がんサバイバーに寄り添う
しかし、コンプレックスや焦りと同時に、もう一つ彼女の中で大きくなっていくものがありました。それは、命あるうちに家族や友だちともっと思い出をつくりたい、という想いです。彼女の事業「かるぺでぃえむフォト」は、こうして誕生しました。
彼女が「今」を思いきり生きることを決めた瞬間でした。クラウドファンディングで事業資金を募るとき、彼女を支えたのが松尾さんを中核とする志を共にする仲間だったといいます。
かるぺでぃえむフォトでは、たとえがんを患おうとも、なりたい自分を写真で表現することにより、「今」を生きる意欲、未来への希望、明日への元気を生みだすことを事業目的としています。そのために、プロのスタイリストとヘアメイク、フォトグラファーが力を合わせて、がんサバイバーと寄り添います。
明日への生活の希望の糧
全国健康保険協会によると、日本人の2人に1人ががんを患い、3人に1人ががんで亡くなる今日。藤原さんはがんと向き合いながら、同じ境遇にいるがんサバイバーのために自らの生命を燃やしてきました。
しかし、昨年3月26日、彼女は帰らぬ人となりました。彼女が生前遺したメッセージを引用させていただきます。
「私はこの『写真』というツールを、ただの思い出で終わらせるのではなく『明日への生活の希望の糧』にしていただきたいと考えております。
『なりたい理想の自分とは?』
撮影依頼を受けた際に、こんな質問を投げかけたいと思っています。
この問いの裏には『諦めてしまったことはないか?』という意味合いもあります。
『今』を切り取る写真ですが、そこには出逢ったことのない新しい自分『理想が全て叶った自分』が写っているかもしれません。
被写体となる時、覚悟、挑戦、不安、幸福、希望、さまざまな想いがめぐると思います。
その方の『今』に寄り添い、そして写真を目にしたすべての方々が、それぞれの日常へ希望を感じられる写真を提供することを目指します。」
生きる喜びと商人の務め
生きる喜びと
商売することが
一致してはじめて
商人の生きがいはある
多くの心ある事業者を取材する中で、私が見つけた共通項です。藤原さんの取り組みは、まさに生きることと商売することが揺るぎなく一致されています。
今を生きる――そこに人間の務めがあり、商人の喜びがあることを、私は藤原さんから教えていただきました。藤原英理花さん、ありがとうございました。