梅岩、長治、正三
商業界創立者、倉本長治は「昭和の石田梅岩」と呼ばれた男でした。江戸時代、士農工商という当時の身分制度下にあって、商いの意義と理念を唱えた梅岩は後世の職業倫理に大きな影響をもたらします。
ドイツの社会学者、マックス・ヴェーバーが『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』において、プロテスタンティズムが近代資本主義の精神的支柱となったと分析したように、日本においては梅岩の唱えた石門心学がその後の産業発展を支えました。
梅岩はこう遺しました。
売って利益を得ることは商人の道である
その利益は武士の俸禄と同じである
倉本長治は梅岩の言葉を踏まえ、誇るべき利益を次のように定義しています。
店がお客から信頼されたという
確実に生きた証拠が正しい利益なのである
さて、石田梅岩の理念上の師にあたる江戸初期の僧侶、鈴木正三はこう遺しています。
理に落ちるな
道は一刻一刻が大切
あまり理屈にとらわれすぎると、理論ばかりに執着しすぎて、行く道を誤ることがある、最も大事なのは一刻一刻の変化する現実に対応することだ、ということです。原則を貫く理論は絶対に揺らぐことはないと信じるからこそ、原則に照らして方針を固めていくのが人生の基本です。
けれども大きな時の流れには、原則さえも押し切られることがあるものです。原則をもとにして詳細な計画をつくり、マニュアル化して作業をやりやすく、意識を共有することが作業の効率をよくし、結果に誤差を出さない最良の方法といわれます。
基本的には正しいのですが、実際の現場では、マニュアルがしばしば朝令暮改となることもまた現実です。商いにおいては、社会を動かす人々の意識に遅れを取れば、規模の大小に関係なく、容赦なしに退去しなければなりません。世の中の理を軽んじたり、無視したりすることは、社会機能として許されることではありません。
しかし、その理そのものが揺らぎ、変化することもありえます。常にその点に大きな関心の眼を開いていなければ、商人とは言えないのです。一刻一刻の変化に対応できる心構えと力備えにこそ、生きた商人の役割があることを忘れてはなりません。
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