promise ▷ お客様との約束と絆
〈「さようなら」と狐が言った。「おれの秘密を教えようか。簡単なことさ。心で見ないと物事はよく見えない。肝心なことは目には見えないということだ」
「肝心なことは目には見えない」と王子さまは忘れないように繰り返した〉
仲良しになった王子さまと狐が別れるとき、狐が贈った「秘密の贈り物」です(『星の王子さま』より)。
◼️「ああ、商売していてよかった」
商いにとって大切なものであるお客様との絆も、同じように目には見えません。売上や客数、客単価を調べてみても、それらはお客様との関係の一つの側面にしかすぎません。
しかし、絆は確かに存在します。何かの折にあなたを思い出し、信頼を寄せてくれるお客様の存在は、あなたが商売を続けるうえで欠かせない応援者です。
「ああ、商売をやってきてよかった」と思えるできごとがこれまでにありませんでしたか? そんなふうに思わせてくれたお客様があなたの店にも、必ずいるはずです。
目に見えない絆ですが、それを育む方法はあります。それは、お客様に対する約束を明らかにして、それを果たす営みを続けること。promise(約束)という言葉は、明るい未来を送るという意味だと前述しました。たとえ営みが道半ばであっても、その進捗ぶりをお客様は応援してくれるでしょう。
◼️promiseと出会う三つの質問
そんな約束の種を、あなたの商いから見つけ出すための三つの質問を用意しました。
質問①
いちばん大切な人の幸せのために何をしますか?
「あなたの店があるから私の人生は楽しい」と言ってくださる人を、あなたは何人思い出せるでしょうか。一人でもかまいません。それがあなたの商いにとって大切な人です。
その人を徹底的に大切にしましょう。なぜなら、大切にすべきお客様を決めなければ、お客様から選ばれ、大切にされる店と離れないからです。
商売をする以上、商品・サービスの対価にお金をいただくことは当たり前です。しかし、お客様からいただく「ありがとう」という言葉には、お金以上の価値が含まれています。
なぜなら、あなたが提供した商品・サービスに対価以上の価値を認めたとき、はじめてお客様はその言葉をくださるからです。そこには必ずお客様の幸福感が宿っています。つまり、繁盛が一時的なものか本当のものかは、買物客が「ありがとう」と言ってくだるかくださらないかで判別できるのです。
どんなことをしたら、お客様に「ありがとう」と言ってもらえるでしょうか? そのために、あなたはお客様にどんな約束を?しますか? これが一つめの質問です。
質問②
お客様と心通わせる「場」を育てていますか?
私たちはしばしば大切なことを忘れ、大切ではないことにかまけてしまうものです。
お客様と店との関係にも同じことが言えます。大雨で増水した川の濁流のように襲いかかる情報に身をさらしていると、お客様はあなたの店、あなたのことを忘れてしまいがちです。川に刺さる細く短い杭のように、私たちははかない存在にすぎないからです。
つねにお客様の記憶のファーストクラスにとどまるためには、お客様との接点を保ち、交流できる「場」を持たなければなりません。本書で繰り返してきたように、あなたが生涯をかけて大切にしたいと思える哲学・理念(philosophy)を、物語性豊かな商品(story-rich product)として売場に並べ、そこにあなたの個性・人柄(personality)を添えて提供することで、お客様との約束・絆(promise)は固くなるのです。
そんな「場」の一つには、もちろん店があります。店はあなたのお客様への愛情と親切をいっぱいに満たす場です。清潔でありましょう。誠実でありましょう。商売をする上で最も難しいのは、店の中のどこにも嘘が混じらないようにすることです。
もう一つの「場」は店から離れたところに設けましょう。そこでは売り買い抜きに、あなたとお客様が人間どうしとして、心を通わせる場です。大切な友人を自宅に招くとき、あなたは精いっぱいのおもてなしをするはずです。そんな場を持ち、友人との心の距離を縮めていくように、お客様との関係を育みましょう。
質問③
今日だけではなく未来のために何ができますか?
promiseという言葉がいみじくも表現しているように、商いとは現在の不を解消し、今日の満足を実現するばかりではなく、未来に希望を感じた背、明日を明るく照らすものです。人口減少、経済の成熟化、持続可能な発展への不安など漠然とした将来への不安が私たちを覆っているからこそ、私たちは大切なお客様の未来のために何をするかを約束するのです。
「うちが何かしたくらいじゃ、何も変わらない」
これは、行動しない人が必ず言う言葉です。その人は、お客様がいろいろなところで聞かされるこの言葉に飽き飽きしていることを知りません。あなたはどうですか?
商売の本当の醍醐味は、商品・サービスを売るところにはありません。あなたを信頼して、あなたが照らしてくれる未来を期待して、その商品・サービスを買い続けてくれるお客様を育てるところにあります。あなたは未来のために何をしますか?
何のために商うかをはっきりとつかめたなら、その道行きは穏やかなものになるでしょう。たとえ難所が待ち受けても、お客様という応援者が共に伴走してくれるからです。「何のために商うか」とは、どんな未来を実現したいかということにほかなりません。
◼️決意を固め行動に移す
最後に、これら3つの質問への答えを次の2つにまとめてみましょう。
私は今日から( )を大切にして生きていきます。
そのために私は今日から( )を続けます。
決意と行動とから成る自分への約束です。お客様との約束は、自分との約束を守ることから始まるのです。
実は、promiseには他に三人の兄弟がいます。
philosophy
story-rich product
personality
この四つの「P」が揃ったとき、あなたの商いはもちろん、あなたの人生そのものに明るい未来が到来します。
拙著『売れる人がやっているたった四つの繁盛店法則』では、おおむねそんなことを書きました。ぜひ、四つの「P」を揃えてください。