記憶の一番店
先日、勤め先に一羽の小鳥が飛んできました。長野市、善光寺の門前通りに店を構える「松葉屋家具店」からのかわいい使者です。
クラフト紙でできた封筒の郵便を開けると、やはり厚手のクラフト紙の小箱が、紙を結った紐で綴じられています。傍らには、手書きのお礼状。
小箱を開けると、掌に乗る木彫りの小鳥が現れます。それは、顧客アンケートに回答を寄せたお客さまへのお礼の一品でした。
天保年間創業の同店は「100年経っても使える家具」を理念に、顧客のライフスタイル、好みに合った家具をつくっています。「耐久財」という言葉が軽く感じられるほど‘使い捨て’が大半を占めるなか、同店では次の3つの条件に適う家具を通じた心安らぐ暮らしの提供をミッションとしています。
1)長く使えるものであること
2)使う人の心と身体に無理のないものであること
3)地球環境に負担のかからないものであること
こうした理念を掲げることはたやすい。しかし、それを実践し、現在顧客と未来顧客に伝えることは簡単ではありません。小鳥の店ではどのように伝えているのでしょうか?
その一つに、くだんの小鳥があります。それ自体から包装物まで自然に還らないものは何一つ使っていません。このとき顧客は「地球環境に負担をかけない」という理念と実践の一致を認め、共感を抱くのです。
商品はもちろん店づくりから接客、サービス、販促物まであらゆる細部に、その理念が浸透していてこそ顧客は店主の本気を感じます。そして、その本気だけが長くお客の記憶に留まるのです。
私はまだこの店で買物をしたことはありません。しかし「いつかは」と思うのは、こうした理由からなのです。
あらゆる商材がさまざまな手段や店で売られる今日、「お客様の記憶の一番店」になるには、こうした哲学と実践、そしてそれを伝える仕組みが欠かせません。木彫りの小鳥はそれを教えてくれました。
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