広告は約束、チラシはラブレター
近年、大企業による不正行為のニュースが後を絶ちません。その多くが従業員による内部通報によって発覚しています。消費者庁が実施した調査では、不正発見のきっかけの第一位は「内部通報」が58.8%で、「内部監査」の37.6%を上回っています。
古くは高級料亭「船場吉兆」による賞味期限や産地の偽装、最近では中古車販売・買取の国内最大手「ビッグモーター」による保険金の不正請求など、企業による不正行為は続いています。まさに、浜の真砂は尽きるとも世に盗人の種は尽きまじ、です。
挙げ句、前者は廃業に追い込まれ、後者は業績悪化によって企業売却を余儀なくされました。ともに顧客からの信頼を失った企業の末路です。
一方、不正に手を染めながらも再生を遂げた例があります。北海道を代表する名菓「白い恋人」製造元の石屋製菓もその一つです。アイスクリームからの大腸菌群検出を発端に、白い恋人の賞味期限の不正表示が発覚。衛生・品質管理体制の甘さや隠蔽体質が明るみとなり、操業停止の行政処分を受けました。これも内部告発でした。
同社のメインバンクは不祥事が報じられると、操業停止中の運転資金融資を条件に、創業家の社長に代わって同行の取締役を新社長に就かせ、すぐさま第三者によるコンプライアンス確立委員会を設置。不正の実態を包み隠さずに明らかにし、解決策を逐次公表することで信頼を取り戻すという再建策を果断なく実行しています。
当時、経営専門誌の編集者であった私も、取材に応じた新社長が真摯な姿勢を記憶しています。約3カ月の操業停止を経て販売を再開、新聞広告で消費者への「約束」を誓ったのでした。
このように徹底した原因究明と表裏のない情報公開があってこそ、顧客や社会からの信頼は回復できます。不正ではないが、こんな例もあります。
お客様お許し下さい私を……。こう始まるチラシがありました。1955年、日本で初めて衣料品店としてセルフサービスを導入した大阪市の「ハトヤ」のものです。
わずか13坪で、当時において年商3億円という繁盛ぶりの同店は、1960年夏のその日も多くのお客様でにぎわっていました。ある婦人客が購入した子どもの肌着を包装紙から取り出して、家から持ってきた着古しの肌着と寸法合わせをした後、これらを手提げ袋にしまいました。それを女性店員の一人が万引犯と見誤ってしまったのでした。
疑いをかけられたお客様は怒りました。ハトヤを夫の西端行雄さんと営む春枝さんは、お客様の家に出向いて誠心誠意謝罪。なんと許しをもらいますが、善意の顧客を万引犯扱いしてしまったという申し訳なさは納まるものではありませんでした。
そこでお詫びの気持ちを表現するために実施したのが「お詫びセール」でした。中身800円ほどの商品を詰めた100円袋を、1日1000人に4日間にわたって販売するというものです。
売れれば売れるほど損が積み上がり、しかも通常の開店時刻より3時間前の1時間でセールすることで、通常の営業とは切り離して実施しました。
日を追うごとに列は伸び、セール開始時刻前にはすでに1000人が並び、最終日には警察が出動するほどの反響を呼びました。万引と間違えた店員はもちろん、全店員が一致団結して謝罪に汗した4日間でした。
間違いは誰にも起こりうるものです。大切なのは、それにどのように向き合うかにあります。一人のお客様に誠実の限りを尽くした西端夫妻の行動から学ぶことは少なくありません。
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